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復活レストラン洗濯船  作者: 横山礼眞
9/22

第9話 感応テスト

ゼミって忙しいですよね。ハマると楽しいけどね。

ブォーッ、ブブーンッ、ブオブオバオオオオ


深夜の本丸山に車のエンジン音がけたたましく響き渡る。


「くっそー、ここまでか!」

田子作の軽自動車はあまりに急な坂道のために途中で立ち往生してしまった。


「ちっ、歩くしか無ぇか。」

車を山側の斜面に寄せると思い切りハンドブレーキを引いた。

それでも不安なのかスリップ防止のために4本の車輪の下に角張った大き目の石を差し込む。

そこまですると懐中電灯を手に山頂付近の磐座を田子作は徒歩で目指すことにした。


「強烈にイメージしたものが具現化出来るというならお札なんかも複製できるってことだからな。」

はあはあと息を切らせて残りの道程を真っ暗な中、心もとない懐中電灯の明かりを頼りに登っていく田子作。

ようやく着いた頃には深夜2時を過ぎていた。

早速磐座の岩肌をあちこち触り始める。

だがエーコの時のように岩が割けて開くことはなかった。


「本当に奴しか開けられないのか?」

磐座の前に座り込んで腕組みをしながらしばらくの間思案に暮れていた田子作だが、何かの気配に気が付き木の陰に隠れた。

チラチラと弱い明りが木々を照らしながら誰かがやって来た。


「こんな時間に来る人が居るのか?そう言えば『おうちで珈琲』の笹党君は朝日を見るためにこの時間から登山してるって言ってたっけ。」

そう言って自分を納得させたもののやはり隠れた位置からは動こうとはしない用心深い田子作である。


「ふぅー、やっと着きました。今日こそは絶対秘密を暴いてみせますよぉ。」

額を首に掛けたタオルで拭うエーコ。


「こら!」

安心した田子作が背後から怒鳴りつける。


「きゃっ!!」

これにはさすがに驚いたエーコが短い悲鳴を上げた。


「ここに来るなって言っただろうが!!」

物凄い剣幕で怒鳴る田子作の声が山々に木霊する。



「そ、そういう田子作さんだってこんな時間になぜここに居るのですか!?」

慌てて問いかけるエーコに一瞬答えに詰まる田子作。


「あれ?右手に何を持ってるのですか?お札?」

エーコは田子作の右手に握りしめられている一万円札を見逃さなかった。


「こ、これは帰りのガソリン代があるか確認してただけで・・・」

噓が下手な田子作の言葉は尻すぼみになってゆく。


「もしかして偽札を作るつもりだったのですか?!犯罪ですよ!」

鋭いエーコの指摘にたじろぐ田子作は何とかその場をやり過ごそうと懸命に知恵を絞る。


「ば、ばかやろう!もし偽札を作れたら危険だからちょっと確認しようと思っただけだ!」

チロチロとエーコの懐中電灯が田子作の顔を照らす。


「な、なんだよぅ・・・」

気弱になる田子作を面白そうに甚振いたぶるエーコ。


「どちらにしても私が居なければこの岩は開きませんけどね。」

そう言うと前回同様に磐座の岩肌に大の字になって抱きつく。


ゴゴゴゴゥーーーーーーー


想像通り磐座の巨石は四方へゆっくりと開いてゆく。

するとエーコは穴の縁に手を付き目を閉じて何かをイメージし始めた。

穴は薄緑色に光ると下へと続く階段状のリフトが現れた。


「これなら尻餅をつかずにすみますよ。」

エーコは田子作にも座席に腰を下ろす様に促す。


ヴィーーーーーーーーーーーン


エスカレータのようなリフトは小さく唸ると下へ下へとゆっくり下降しはじめた。


下の通路に到着した二人。

薄緑色のただの通路のはずだったが見る見る大きな空間に広がり始める。

空間の中央には噴水が現れ、その水を湛える円形のプールも同時に現われる。

ドーム状のガラス張りの建物の窓辺には多種多様な植物が茂っている。

頭上をカラフルな鳥たちが飛び交い木から垂れた蔦を器用に飛び移る猿のような動物まで居る。

ドームの窓ガラスの外はまるで天界のように真っ青な空と名画のような雲が劇的な光景を作り出している。


「なんじゃこりゃーーーーー!」

田子作はエーコの脳内イメージが作り出す空間に驚くばかりであった。


「コツさえつかめばこんなものですよ。」

楽し気に微笑むエーコに田子作は感心するしかなかった。

もともとエーコの先祖が作った物だからかエーコにはこの部屋の使い方が直観的に備わっているようだった。


「これ、お前が考え出したビジョンなのか・・・?」

ハタと自分の右手のお札を思い出す田子作。

よく見ると1枚だけだった筈の一万円札は十数枚になっている。


「やった!やったぞ!」

大喜びする田子作を憐れむような眼差しで見つめるエーコ。


「田子作さん、通し番号が同じお札なんて使えませんよ。」

エーコの指摘にハッとし全てのお札の通し番号を確認する。

が、エーコの指摘通り全く同じ番号のお札ばかりであった。

何度か末尾の数字を書き換えようとイメージするものの一文字だけ歪な数字になってしまう。

どうやら田子作の中の良心が邪魔しているようであった。


「ふふふ、どこまでも悪人には成れない人ですね。」

お人好しの器用貧乏な田子作だがエーコは嫌いに成れないのであった。


「ば、ばかやろう、悪い奴に悪用されないかの実験だぁ。」

言葉に迫力の無い田子作に思わず吹き出してしまうエーコ。

釣られて田子作も自分の言動に吹き出してしまった。


「残るはここで作られたものがどこまでの範囲内なら現実として通用するかですね。」

気を取り直したエーコはそう言うと目を閉じてまた何かをイメージしているようである。


「ピーチャン!!」

不意に田子作の右肩にインコのピー太郎が現われる。


「ピーチャン!!」

今度は左肩にもピー太郎がもう一匹現れる。


「ピーチャン!!」

同様にエーコの右肩、続いて左肩と合計4羽のインコのピー太郎が現れた。

次に限りなく透明に近い細い糸状の物の束が現れ、その端をそれぞれのピー太郎の足に結びつけ始めるエーコ。


「これで準備は完了!ピー太郎一号、二号、三号、四号、東西南北それぞれの方向へ飛んで行け!」

四羽のピー太郎に指で飛んでゆく方向を指し示すエーコ。

それぞれのピー太郎は意味を理解した様子で穴の中を地上目指して飛び始めた。

まるで重さなど無いかのような細く透明な糸はインコと共にスルスルと穴の中へ解けながら吸い込まれてゆく。

気づけばそれら糸は釣り用の巨大なリールに巻かれ、出ていった長さが手元に電光表示されている。


「一体どこでそんなイメージを見つけて来るんだよ。」

呆れる田子作を余所にどんどん流れて行く糸を見つめるエーコ。

すると一本、また一本とほぼ同時に全ての糸の流れが止まってしまった。

電光表示には『10㎞』の表示が残っている。


「どうやらココを起点に半径10㎞以内ならここで作られた物は現実に存在することが出来るみたいですよぉ。」

目を輝かせて田子作に報告するエーコであった。





「今日は疲れたなぁ。缶酎ハイでも飲んでそろそろ寝よう。」

田ノ浦は布団を敷くとコンビニで買ってきた缶酎ハイとおつまみの袋を開けた。

窓辺のクラゲはユラユラと揺れながら水槽の中で大人しくしている。


「ちなみに感応テストもしてみるか。」

机の引き出しからハサミを取り出すと水槽のクラゲの足を一本、付け根から切ってしまった。

さすがのクラゲも反撃に転じた。


「痛っ!!刺された!!」

クラゲの足には小さな毒針が隠されている。


「なんだよぉ。足なんか沢山あるしどうせお前分裂できるんだから勿体付けるなよな。」

ブツブツと文句を言いながら小皿にクラゲの足を乗せる。


「どうせならカボスでも絞ってみるか。」

大分特産だいぶんとくさんのカボスを半分にカットして思い切り果汁をクラゲの足に掛けた。

それまでウネウネと動いていたクラゲの足はカボス果汁が掛かるとまるで観念したかのようにグッタリと動かなくなった。


「どれどれ。ん?旨いっ!!」

その味は今まで食べたことのあるクラゲの刺身とは雲泥の差の美味しさだった。


「自己増殖するわ絶品だわってこれで地球の食料問題は解決できるかもしれない!!」

何かを考え付いた田ノ浦は缶酎ハイをゴクゴクあおりながら時折クラゲの足をチビチビかじり明日の事を考えワクワクするのであった。

とりあえず感応テストでありとあらゆる物が食べられてるんですねぇ。

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