第3話 磐座の秘密
開けゴマ!
「とりあえず本殿にお参りするか。」
磐座のすぐそばに東寒田神社本殿があるのを知っている田子作はエーコを促す。
本丸山の麓には立派な社殿があるが元々はこの山頂の方が本殿だったのだ。
だが、高齢者の参拝が難しいことに心痛めた当時の当主が現在の場所に移築したのであった。
「ここは誰をお祭りしているのですか?」
神族ではあるが何も知らない様子のエーコ。
「この立て看板には射座鳴様と射座直海様、そのご家族と書いてあるな。」
田子作もまた詳しい訳ではないようである。
「何でも射座直海様が出産された際に黄泉の国に召されてご主人の射座鳴様が泣き暮らしていたところ、哀れに思った神様が磐座を開いて黄泉の国への入口を示されたそうだ。へぇーあの巨石の磐座が黄泉の国の入り口かぁ。昔の人の想像力は凄いなぁ。」
看板の続きを読んで感心する田子作。
「磐座が開くって、あの亀裂の所から割れるって意味ですかね?」
エーコも想像を逞しくする。
「さあどうだろうな。俺には想像も出来んが。」
田子作は腕組みして首を傾げる。
「へっくちょい!!」
エーコが奇妙なくしゃみをした。
「ひゃっひゃっひゃ!お前のクシャミ面白ぇな!」
腹を抱えて笑い転げる田子作にムッとするエーコ。
「田子作さんの笑い方も変です!!」
そう言うと鳥居の方へ振り向きさっさと神社を後にするエーコ。
田子作も後を追うように小走りで神社を離れた。
元来た道を戻るのかと思えば、エーコはなぜかまた磐座の方の道へ踏み入れる。
不思議に思う田子作ではあったが仕方無く後に続いた。
「どうした?何か忘れものか?」
「いや、さっき触った時に何か感じた様な気がしたのでちょっと確認しとこうと思って。」
エーコは磐座の岩肌をあちこち触り始めた。
「よせやい。黄泉の国の入り口が開いたらどうすんだよ?」
案外信じやすい田子作は鳥居の代わりに紙垂が渡された杉の木の片方の後ろから顔を覗かせている。
「だってこの亀裂から風が吹いて・・・」
そう言いかけた時、轟音と共に亀裂が本当に開き始めた。
それぞれに分裂している巨石は軽々と四方へ広がり始める。
「きゃっ!!」
エーコは振動で尻もちをついた。
「うわわわわぁーーーーー!!」
田子作は驚きのあまり木にしがみ付いている。
時間にして十数秒程だったが二人にはとてつもなく長く感じたのであった。
「やっぱり!!」
エーコは驚くよりもむしろ喜んでいる。
「わっ、馬鹿!なに入ってんだよ!!」
何の警戒心も無く割れた磐座の中へ足を踏み入れるエーコを必死に止めようとする田子作ではあるがエーコはまるで聞いていない。
ついにエーコは磐座の中へ消えた。
恐る恐る田子作も磐座の中を覗き込む。
「きゃーーーーーー!!」
エーコの悲鳴がした。
ハッとした田子作は咄嗟に腕を伸ばし真っ暗な穴の奥のエーコを助けようとした。
「うおっ!!うぉーーーーーーーーーーーーー!!」
だが田子作の足元はまるで摩擦係数が0のようにツルリと滑り、田子作も一緒に穴の奥へと滑り落ちたのだった。
真っ暗で長い穴を滑り落ちて行く二人。
どすん!!
ずどん!!
底に到着する二人。
「痛い!」
まずエーコが叫ぶ。
「あ痛ぁ!!」
続いて田子作が叫んだ。
しばらくして目が暗闇に慣れるとそこは通路なのがかろうじて分かった。
「一体どうなってるんだよ?」
田子作は震える声で自問する。
「ん?」
エーコは何かを見つけたらしい。
急に壁全体が薄緑色に光り始めた。
どうやら照明ボタンに触ったらしい。
穴と通路は真っすぐに延長線上になっているが穴から通路へ落ちる部分は50㎝ほどの段差になっていた。
「どうせ真っすぐならこの段差要らなくね?」
田子作は不満げにぼやく。
「それよりここは一体何の施設なのでしょう?」
エーコは更に奥へと進もうとする。
「おいおいおい、それより帰り道どうすんだよ?穴はツルツルで滑って登れんぞ。」
現実的な田子作は帰り道を心配する。
「それを調べるためにも調査しないと!」
エーコにしては珍しく理に適った発言をする。
「そ、そうか。」
言葉を失う田子作は渋々エーコの後をついて行く。
床も天井もシームレスで一体となっている。
壁にはドアらしきものはない。
通路の突き当りまで来た二人だったがとうとう部屋の入口らしき物は何も見つけられなかった。
「どうしましょう?」
今頃になってエーコは心配になったようである。
「くそー、こうどっかにこんなドアノブが無いのか?」
そう言いながらドアノブを開けるような動作をする田子作。
「うわっ!」
いつの間にか田子作の手は壁のドアの取っ手を握っていた。
田子作は思わず手を放す。
するとドアも消えた。
震えながらももう一度ドアの取っ手を握るような動作をした。
「うひゃっ!!」
やはりドアが現れた。
「凄いです!!どうやったのですか?」
エーコが近寄ってくる。
「ド、ドアノブを握るフリをしただけだが・・・?」
恐る恐るドアを開ける田子作。
傍で固唾を飲むエーコ。
ドアの向こうは木の床と壁の小さな食堂のような場所だった。
明るく綺麗な室内は清掃が行き届いている。
もちろん誰も居ない。
食堂の入り口を出ると食堂と同じ板張りの通路と壁になっている。
回廊になった通路を右手側へ進み次の角を曲がった時、右手の壁があるべき所が階段になっていることに気づく二人。
階段を上るとそこは船の甲板だった。
「な、な、なんじゃこりゃーーーー!!」
田子作が驚くのも無理はない。
少し大きい漁船くらいの船の甲板に出ると、そこは大海原の真っただ中だったのだ。
穏やかな波、雲一つない空には12時過ぎ頃の位置に太陽が眩しく照っている。
甲板には洗濯物が沢山吊るされ海風にソヨソヨとはためいている。
「はっ!!こ、これは私たちが作ったアニメ『未確認レストラン洗濯船』の中ですぅ!!」
(実際にヨウツベにこのタイトルでアニメをアップしてますのでよろしければチャンネル登録、グッドボタンしてね!(笑))
「た、確かに!!」
田子作もこの設定や風景を描いたことを思い出した。
すると辺りが急に暗くなる。
やがてぼんやりと周囲が薄緑色に光始め、元居た通路に立っていた。
「な、な、なんなんだぁーーー??」
田子作達は理解不能に陥るのであった。
どうする田子作、エーコ?!