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復活レストラン洗濯船  作者: 横山礼眞
2/22

第2話 本丸山全景

いよいよ物語が始まります。今回は前作を遥かに凌ぐ壮大なスケールのお話になるのでお楽しみに♪

「英子役の人は普通の主婦だよ。お前に似せるのに苦労してたぞ。」

エーコは一体誰が劇団員だったのかを知りたがっていた。

本丸山を登り始めたもののすぐに息切れしてきたエーコ。

始めは無視を決め込んでいたエーコだったが田子作に話しかけることで意識を呼吸から逸らそうと考えたのだった。


「では轟先生は?」


「基本、商売してる人はほとんど関係ないな。俺は雇われの身だから仕方が無かったし。」


「でも森田さんは自営だけど劇団員だったんでしょ?」


「そうだな、アイちゃん、俺、森田君、西田原、美奈、後はエキストラさんだな。結構大がかりな芝居だったけど核になる人物は案外少ないんだよ。尚一君は完全に何も知らないからな。お前が勝手に巻き込んだだけだしな。」


「そうなのですか!?井藤田さんは?」


「彼は無関係だよ。ただのボランティアで美奈の本業開始の手伝いをしただけ。」


「毎朝シナリオを書きに行ってたカフェコペラの小板さんも無関係なのですか?」


「あー、あそこの珈琲とケーキが旨いから通ってただけだ。」

そうこうしながら3合目付近まで来た時、山道の脇の斜面の付け根に『ムサシアブミ』の真っ赤な実を見つけるエーコ。


「うわぁ美味しそう!」

手を伸ばしかけるエーコに田子作が怒鳴る。


「それ猛毒だぞ!」

ムサシアブミの実は猛毒を持っているが人によっては美味しそうに見えるらしく年間数人が中毒症状で緊急搬送されるそうだ。



「そうなのですか!?」

思わず手を引っ込めるエーコ。


「お前何でも拾い食いするの止めろよ。いつか死ぬぞ?」

田子作はエーコから『宇宙人と竜神族の混血の末裔』と言うことは聞かされていたが一方で、西田原からは新入社員の適性を見る芝居の設定だとも聞いていた。

当然誰もが本当に『宇宙人と竜神様の混血の末裔』が存在するとは考えない。

しかも当のエーコ本人も現存する肉体を与えられた瞬間から神としての力を完全に失っている。


『今死んでは就職が台無しです。今後はこの体を大事にしなくては!』

普通の人間と同じ決意をする神の子エーコ。


沢蟹を横目に沢を渡り、落ち葉で湿った坂道を右に左に登って2時間程が経過した頃ようやく山頂付近の見晴らしの良い場所に出た。

本丸山山頂付近の西側は植林されていた杉やヒノキが伐採され地面がむき出しになっている。

おかげで市内を一望できるほど絶景になっていた。

伐採した木材を贅沢に丸一本使って長いテーブルと丸太の長椅子が設置されている。


「林業関係者の粋な計らいだな。山頂もすぐそこだしとりあえずここで飯にするか。」

言うが早いか田子作はリュックから弁当を取り出し椅子に座ってしまう。

エーコの方もヘトヘトだったので抵抗することもなく椅子に腰を下ろす。


「雲に手が届きそうですぅ!」

両手を伸ばし雲を掴もうとする無邪気なエーコ。

田子作は手作りの小さな弁当箱を開けてすでに食べ始めている。

登山の時に注意すべきは昼の弁当の量と内容である。

普段通りの量だと持つのに重たいだけでなく食べた直後に歩くと急な腹痛になるのだ。

もちろん完全加熱した料理でなければ自分の体温が伝わって料理が傷んでしまう。

加えてクエン酸を多く含むカボスや梅干も使用すると足が軽くなる。

これはご飯や小麦などの炭水化物を分解するよりもクエン酸回路を回して脂質を分解する方が3倍以上のエネルギーを産出するからである。


「美味しいですぅ!!」

栄養バランス抜群の田子作の弁当はエーコにとっても本当に美味しいようだった。


田子作は食後の珈琲を楽しむべく持ってきたコンロで湯を沸かし始める。

簡易式のミルで珈琲豆を挽く。


「さすがに『おうちで珈琲』さんの自家焙煎豆は香りも違うなぁ。」

クンクンと鼻を鳴らしてエーコも香りを嗅ぐ。


「本当に良い香りですぅ!」

エーコはトイレが近くなるのを嫌って決して山では珈琲を飲むことはないが香りを嗅ぐのは好きだった。


食事を済ませ珈琲も堪能した二人は体が冷え切ってしまう前に出発することにした。

本丸山山頂よりも少し下った所に今回の目的地はある。

2万年以上前からあるとされる磐座いわくらは今も昔も多くの人の信仰の対象となっている。

あたかも大きな船が座礁したかのように尖がった巨石が山土の中から突き出している。

正面から見ると左右のそれぞれの三角の岩の上に大きなひし形の岩が突き刺さって全体として大きな三角形を構成している事が分かる。


「凄いですぅ。よくこの岩倒れてこないですね?」

突き出たひし形の部分の岩が今にも倒れかけてきはしないかと恐る恐る岩に近づく。


「大戦前まではそこの亀裂の交点の所から岩清水が湧いてたそうだ。」

田子作が指差す。


「一度で良いので飲みたかったですぅ。」

本気の様子のエーコに思わず吹き出す田子作。


「だから何でもそこら辺の物を口にするんじゃないよ!」

さあジェットコースターが徐々に加速し始めますよ。心の安全ベルトをお付けください。

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