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復活レストラン洗濯船  作者: 横山礼眞
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第1話 復活の狼煙

新入社員にして社長になったエーコ。果たして今回はどんな大暴れをしてくれるのやら。

「なあ、まだ怒ってんのかよぉ。はぁはぁ・・・」

『田子作』の問いかけにも返事をせずエーコは黙って急な斜面をどんどん先へと登ってゆく。


「ったく、いつまで臍曲げてんだよ。」

田子作は独り言を呟く。

二人は紆余曲折しながら山頂を目指している。

ここは大分市だいぶんしで最高峰の本丸山ほんまるやま

11月中旬ということもあり少し肌寒さを感じるが登山には最高の日本晴れとなった。



「それでは新社長から今後の事業展開についての発表がございます!!」

本社会議室のステージの壇上でイケメン細マッチョ君が喜々として声を張り上げる。

ステージ脇からスーツに身を包んだエーコが颯爽と現れた。

演台のマイクの高さと向きを微調整すると軽く咳払いする新社長エーコ。


「えー、まず初めに新入社員にして代表取締役に就任しました『宇宙人エーコ』です。」


「違いますよ!代表取り締まられ役です。」

舞台脇から声を潜めながら先ほどのイケメン細マッチョ君がエーコに注意する。


「あ、えっと、代表取り締まられ役に就任しました宇宙人エーコです。」

直ぐに訂正するエーコにドッと会場が湧く。

西田原は是有珠に無断で銀歯を抜いて地震予知能力を放棄したため是有珠の声が聞こえなくなり念願の代表取り締まられ役から解放されたのであった。

代わりに是有珠の声が唯一聞こえる神族のエーコが社長となったのである。

今日はそのお披露目会の意味合いが強いのだが敢えて発表することがあるとエーコが意気込んだためにこのような状態になっているのであった。


「それでは発表いたします!」

会場の社員が静まり返る。


「まず主軸のビルメンテナンス事業は撤退いたします。」

ざわざわがやがやと会場中が喧騒に包まれる。


「俺たちの雇用はどうなるんだー!?」

会場のどこからともなく檄が飛ぶ。


「ビルメンテナンス事業は仕事獲得のために無料の劇団を使って過度な営業活動を続けたため万年赤字でした。よってこの劇団も解散いたします。」

会議室内は一瞬静まり返ったがすぐに激しい罵声や怒号で物々しい雰囲気になった。


「加えて社員食堂は独立採算のレストランとして事業化いたします。また洗濯船の原点となる青果や逸品食材の販売に力を入れ原点回帰いたします。余剰人員の皆さんにはこちらの事業へ異動して頂きます。もし不服がある方は辞めて頂いても構いません。」

会場中がシーンと静まり返った。


「なお横池料理長は本日をもって副社長に任命いたします。取り締まられ役会で既に決定しておりますので皆さんも十分認識しておいてください。」

背広に身を包んだ横池徹が舞台袖から現れる。


「この度副社長に任命頂きました横池です。今後とも今までと変わらぬお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。」

横池はエーコとの距離を保つべくオネエのフリをしていたが長くは続かずについに馬脚を現していたのだった。

そのことが原因でエーコの逆鱗に触れた結果『副代表取り締まられ役』へ任命されてしまったのだった。







「まさか西田原さいたばる君がここまでクズだとはワシも考えんかったわ。」

是有珠はエーコに嘆く。


「彼は電磁波の影響を避けて頭痛の原因の銀歯を抜いただけですよ。是有珠さんの声を受信するたびに強烈な頭痛がしたのでは誰でも同じ選択をしたと思いますよ。」

エーコは美奈のマドレーヌを一口齧かじると『おうちで珈琲』のイタリアンローストの極深煎りコーヒーをすする。


「仕方がない。今後はあんたに社長を務めてもらおうかいの。」

気安く言う是有珠。


ブッ


エーコは珈琲を噴き出してしまった。


「ちょ、ちょっと待ってください!社長なんか無理ですよぉ!」

慌てて拒否するエーコ。


「なに、簡単じゃよ。どんな形に変えても構わんよ。とにかく現世で事業を通じて徳を積んでくれればワシの立場が良くなるんじゃから。」

身勝手な外国人神様である。


「じゃあ私が運営できる規模にしても文句ありませんね?それに従業員を相当数解雇しても良いのですか?」

交換条件を出して何とか辞退しようと考えるエーコ。


「あー構わんよ。解雇しても自主退職しても皆には今と変わらん条件の職場が見つかるようにワシの力で面倒見てやるからのぉ。」

こういう能力だけは神様級の是有珠。


「むー、そういうことならやってみますけど、本当に知りませんよどうなっても。」

逃げ場を失ったエーコは仕方なく了承したのだった。


横池のオネエが嘘だと気が付いたのは正社員決定の3日目のことだった。

根っからの酒好きな横池が酔った際に近くの女性にちょっかいを出しているのをBARサガサナイトで目撃したのだ。

横池を問い詰めると演技だったとはいえ恋愛感情が残っていては今後の仕事に支障が出ると考えた挙句にあんな嘘をついたと白状した。

横池の罪悪感が覚める前に、経営に自信が無いエーコは横池を巻き込んで何とかしようと考え、今回の副社長任命に至ったのであった。

横池の職歴は現在の社員食堂の料理長になるまで多彩を極めるものであった。

多種多様な職業を経験しただけでなくどれも平均以上のレベルなのだ。

だがいつも情に流されて骨折り損のくたびれ儲けで終わっていた。

薄給だがその分『出すものが無い』ので今の生活は横池にとって心地良いのだった。


「まずは最初の一歩として本丸山登山を敢行いたします。」

エーコの発言でまたもや会場はざわつく。


「山頂には2万年前からあると言われる巨石があり、この巨石に触れると幸運が舞い込んでくるのです。」


「言い切っていいのかよ。」

隣で横池が突っ込む。


「やってられるかよ!!」

一人の社員が怒鳴って会場を出ていった。

後に続くようにゾロゾロと他の社員も列をなして会場をあとにするのだった。

結局残ったのは社長のエーコと副社長の横池のみ。


「わちゃー。」

横池はため息をついた。


「ふんっ!根性無し共が!」

鼻息の粗いエーコ。


「まあこれでビルメンテの方は撤退できるから良かったのかもな。」

気休めを言う横池。


「当店はもともと青果業からスタートしたと聞いてます。だから旬の逸品を取り扱うサイトも運営してるんですよね?」

社歴を読み漁っていたエーコは横池に確認する。


「うん。」

今後は独立採算でレストランを運営しなければならないことを考え暗い気持ちになる横池。

今でも近所の一般客が利用しているがその割合は微々たるものである。

普通のレストランになったからと言って客の急増は望めない。

残る希望はネット事業だけだが担当者たちもエーコの強引な方針転換でたった今全員辞めて出ていってしまった。


「さて田子作、次はどうする?」

さりげなく横池を横目で見るエーコ。


「誰が田子作じゃ!その話しはもう終わっただろうが!」

怒る『田子作』。


「二人しかいないのだから私が田子作と言えば田子作でしかないのです!」

逆切れするエーコはまだ正社員試験のことを根に持っているようである。

かくして二人だけの本丸登山と相成ったのであった。

いつもエーコに振り回される可哀想な田子作の運命やいかに?

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