第一話…始まりの朝
「さぁ、皆気合入れていこうッ!」
引き締まった低い声に反応し、バスに揺られていたチームのメンバーが声を出した。
神田スターズの監督、坂口義博は今年で45歳を迎える。余談だが坂口は、10年ほど前まで、地元の名門社会人野球チームのエースとして活躍していた実績を持つ。
低くどっしりとしたその声は威圧感抜群。今も彼の声で、バスの中はピリピリとした空気に包まれた。
午前7時20分。神田スターズは山口県の県庁がある、山口市のグラウンドに到着した。
ついに、6年生にとっての最後の県大会が始まる。全てはこの日のために練習してきていた。
「笹野、頼むぞ……俺らの夢は、お前の右肩にかかってるんだからな。」
「全力を尽くします。先輩も、俺を援護してくださいよ!」
そんな会話は、開会式が終わった直後にあった。この後すぐに自分達の試合は行われるので、メイングラウンドの隣に設けられているサブグラウンドでメンバーはアップを始めている。
神田スターズは、チーム結成後、この大会の最高成績はベスト8だ。今年はそれ以上、もちろん優勝を狙ってここまで来ている。
選手は過去最高の出来か。主将江波、大黒柱の笹野と投打の軸がはっきりしており、総合力に優れている。
その頃、優勝を狙っている相手チームもサブグラウンドでアップを始めていた。
相手チームは市大会ベスト4という、実力があるチームと評判。最高のパフォーマンスを魅せられると、厳しい戦いになるだろうと分かっていた。
それだけに、この試合を物に出来ればチームにとって勢いがつく。初戦から大一番だと言えよう。
「今、大会の関係者の人から電話があった。第一試合がまもなく終わるらしい。さぁ、元気出して行こう!」
試合前、最後のミーティングと言える監督の言葉はこれだけであった。だが、この一言で選手たちは覚悟を決めた。
「しゃっあ、行くぞッ!!」
主将の言葉に、全員が大声で返事をした――