8.お買い物 洋服編
ゆの姉がお会計をしてくれている間に、僕は洋服店さんへと向かっていた。…早くドーナツ食べたいな。それじゃあ、柚希ちゃんを探すとしますかね。
「あ、いたいた! 葵〜! こっちこっち!」
探そうと思ってたんだけど、タイミング良く柚希ちゃんがこちらに気付いてくれたようだった。…他のお客さんもいるのに、大声で名前を呼ばれるとちょっと恥ずかしいからやめて欲しかったけど。ひとまず、僕は柚希ちゃんの方へ向かう。
「柚希ちゃん、久しぶりー…でもないか。」
柚希ちゃんは、片手に洋服が入ったカゴを持っている。…まさかこれ全部買うとかじゃないよね…?
「久しぶりではないね。あ、そうだ。そっちどうだった?」
「どうだったって…。柚希ちゃんは何のお店か分かってたの?」
「まぁ…多分ランジェリーショップだろうとは思ってたよ。でも言わない方が葵の反応を楽しめると思って…ごめんね!」
「ら、らんじぇりー…」
聞いたことが無い単語が聞こえたような…。ランジェリー…なんか響きが綺麗というか、美しいというか。そんな敷居が高そうな所に、僕は足を踏み入れていたのか。
「ねぇ柚希ちゃん、少し気になってたんだけど…手に持ってる服、全部買うってことはしないよね?流石に…」
「この服は葵が試着してみて、似合うかどうかで葵が買うか決めればいいよ。似合いそうなのを選んだから、全部買う事になるかもしれないけどね」
…つまり、柚希ちゃんが持ってる沢山の洋服、全部試着するってことなの…?
「とりあえず葵、ちょっと来てくれる?」
「あ、うん。いいよー」
少し不穏な事が頭に浮かんだが、一旦置いといて僕は柚希ちゃんについて行く。店内はそれなりに広い。僕は今まで、服とかは全部お母さんに買ってきてもらっていたので、実際にお店の中に入るのは初めて……だと思う。柚希ちゃんがたどり着いた先には、高そうなベージュ色のコートやクリーム色のロングスカートとか、大人の女性が着てそうな服がハンガーに掛けられていた。…どれも、僕には絶対に似合わなそうな服ばかり。
「柚希ちゃん、本当にこの辺りで合ってるの?なんか僕には似合わなそうな服しか無いんだけど…」
「この辺りな訳ないじゃん。葵にはもうちょっと、子供っぽい服じゃないと似合わないよ〜」
…なんかサラッと酷いことを言われた気がする。まぁ確かに、僕に大人な感じの服は似合わないって言うのは事実だと思うけど。
「あ、着いた…っと、どこだったっけなぁ」
柚希ちゃんは試着室の前で立ち止まった。見た感じ、試着室は5室ある。そして全て空いている。柚希ちゃんは左から順番に、試着室の中を確認している。何をしてるんだろう?
「あ、あった!良かったぁ」
「何か探してたの?」
「まぁね。何かは、見てもらった方が早いと思うよ」
柚希ちゃんがそう言ったので、僕は柚希ちゃんのいる試着室を見てみた。……中には、柚希ちゃんの持っているカゴと同じように、服が沢山入ったカゴが置かれていた。…まさか、これも全部試着するんじゃ…。
「実はさ、思ったより葵に似合いそうな服が沢山あってカゴに入れてたんだけど、2つ同時に持つのは流石に重いから、1つは試着室に置いといたんだー。無くなってなくて良かった!」
「…まさか、これ全部試着するの?」
「うん!もちろん。着てみないと実際に似合うかは分からないしね」
……2つのカゴの中には見た感じ、30…もしかしたらそれ以上の服があるかも知れない。とにかく、これを全て着るとなると…かなりの時間が掛かるのは分かった。
「じゃあ早速、これとこれ、着てみてね!」
柚希ちゃんはそう言って、僕にクリーム色のパーカーと、同じような色の短いズボンの様な物を渡した。
僕は試着室に入ってカーテンを閉める。そして、このパーカーとズボンの様な物を確認してみる事にした。パーカーは、首の辺りに紐が付いていて、手首の部分はゴムになっている。ズボンの方は、腰の所がゴムで出来ており、リボンが付いていた。…このセット、外出する時に着る物のようには見えないな。とりあえず僕はカーディガンを脱いだ。…流石に肌の上から直接試着するのもどうかと思ったので、僕はカーディガンの下に着ていた服の上からパーカーを着た。そして、下に着ていたズボンを脱ぎ、渡されたズボンの様な物も履いた。
…この2つ、しっかり僕の体に合っていた。柚希ちゃんはどうして、僕の体に丁度合うサイズが分かったんだろう。とりあえず、着替え終わったので柚希ちゃんに報告…の前に、鏡を見てみる。結構、このパーカーとズボンが似合っていた。外出する時に着れそうな服ではないけどね。…ということで、柚希ちゃんに報告。
「柚希ちゃん、着替え終わったよー。」
「お、早いね。」
柚希ちゃんはそう言って、カーテンを少し横にずらして顔を出した。
「おぉっ! やっぱりこのコーデは葵ちゃんに似合っていた! 正に部屋着って感じ〜。葵ちゃん見たいに小柄な女の子がこの服を着ると萌えるね! 合格!」
…良かった。なんとか合格を貰えたみたい。…なんて少し安堵していると、柚希ちゃんは言った。
「じゃあ、次はこれとこれね!」
――やっぱ、まだ続きますよね…。
◆◇◆◇◆
「あぁ…やっとドーナツが食べれるよ……」
僕はあの後、大体1時間くらい脱いで、着替えての繰り返しだった。結果的に、8着位の服を買ったみたい…。そういえば、下着とか服とか結構買ってるけど、お金大丈夫なのかな?そもそも、ゆの姉ってなんでお金持ってるんだろ。アルバイトでもしてるのかな。そんな話は聞いた事ないけどね。…ちなみに、僕達は今ショッピングモールから出て、待ちに待ったドーナツ屋さんへ向かっている所。
「あ、ここじゃない?ドーナツ屋さんって」
柚希ちゃんが指をさして言う。僕はそのお店を見てみた。外観は、なんというかお洒落なカフェ見たいでそれなりに大きい。ドーナツ屋さんって言ってるけど、正確にはドーナツだけじゃなくて、ケーキやパフェなどのスイーツも販売している。テレビでもよく取り上げられていて、オープンしたばかりなのにかなりの人気。
「あ、そうそう!ここのお店だね」
ゆの姉が返事をした。僕達は早速、お店の中に入る。店内は平日の昼間だけど結構お客さんがいて、残り数席しか空いていなかった。ちなみに、お客さんは全員女の人だった。まぁ、平日の昼間からスイーツを食べに来る男の人は少ないと思う。…それ僕の事じゃない…?いや、今の僕は女の子だ。一応。男子だった時はこういうお店に入りずらかったけど、周りの目を気にせずに入れる。女の子だけの特権と言えるね。
「いらっしゃいませー。こちらの席にお座りください」
僕達は店員さんに案内された席に座る。もちろん、僕は柚希ちゃんの隣に座った。ゆの姉は僕の向かいに座る。席に置いてあったメニューを読んで、注文する物を決める。
「じゃあ私は、いちごパフェとチョコケーキ食べたいかな」
「んー。僕はチョコとナッツのドーナツ、シュガーのドーナツ、あとカラフルなやつでお願い」
「はいはい。店員さん呼ぶから待っててね〜」
「…ゆの姉はなんか頼まないの?」
僕は何も注文しようとしてないゆの姉に聞いてみた。
「まぁ色々あるのよ。色々」
「ゆの姉、痩せたいからって何も食べないのは勿体なくない?美味しいお店に来たのに。今日位は甘いのも沢山食べようよ」
柚希ちゃんがゆの姉に言った。
「……危うくスイーツの誘惑に負ける所だったわ。こういう甘いものは、少しでも食べると止まらなくなるのよ。そして、痩せようと思っても逆に体重を増やしてしまう…。」
女の子って色々大変そうだね。やっぱり。
――僕達はこの後、スイーツを食べて家に帰った。ゆの姉は結局何も食べてなかったけどね。




