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追放者、なりゆきで小国の軍師になる。

 †


 エリスに、アルザス城まで案内される。


「みなさん! 聞いてください! あのドラゴニアの軍師様が私たちを助けに来てくれました!」


 王女がそう宣言すると、兵士たちが一斉に騒ぎ出す。


「あのドラゴニアの!?」


 アルザスの兵士たちが、キバの方をまるで子供のようにキラキラした目で見てくる。


 ドラゴニアは七王国の中でももっとも強力な国だ。その軍師というだけで偉い人だと思われているらしい。

 キバ自身はそんなに大した人間ではないので、ちょっと罪悪感があった。


 ――いや、大したことない、どころか、実際は役立たずと罵られて、追い出された身なのだが……


「軍師殿。私がアルザス軍の将軍、アルバートでございます」


 筋肉隆々の40代と思われる男がそう名乗った。


「私は兵卒上がり故、兵法――特に戦略的な部分には無知です。どうか軍師様のお力をお貸しください」


 なるほど、叩き上げというのはなんとも納得できる。めちゃくちゃ強そうだ。


「それでは……早速ですが、敵の状況を教えていただけますか?」


「現在、ラセックス軍の鉄鬼軍が、アルザスの都に向けて侵攻中です。その数は1000」


 鉄鬼軍と言えば、ラセックスの精鋭部隊。通常戦闘はもちろん、攻城戦も得意とする万能部隊だ。


「一方、こちらの兵力は総勢で700。しかも全て徴兵兵です」


「……戦力でも、質でも負けているというわけか」


「それ故、籠城を準備しています」


 なるほど、兵力に劣るから城に篭る。これは悪い作戦ではない。

 だが、相手が鉄鬼軍となれば、話は別だろう。


「見た所、城はかなり貧弱です。鉄鬼軍の火力を持ってすれば、おそらく数分と持たないでしょう」


 鉄鬼軍は、通常の戦闘もこなすが、城攻めも得意としている部隊だ。この貧弱な城では、彼らの魔法攻撃に持ちこたえられない。勝負は目に見えている。


「……しかし、かと言って平地で戦ったとしても価値は目はありません。他にどうしようもないのです」


 敵は常に大国とやりあうラセックスの精鋭部隊。

 一方、こちらは辺境の地の徴兵兵。

 戦力の差は歴然。


 だが、それでも弱者には弱者の戦い方がある。


「兵力差を覆す方法があります」


「と言いますと?」


「まずは、行軍を続ける敵に奇襲をかけましょう。今夜です」


 キバが言うと、将校たちが反発する。


「城の守りを固める作業があります。奇襲にかける人員はどこにもいません」


 ――何か勘違いしているな。


「一部ではないです。全軍で奇襲をかけます」


 キバが言うと、周囲にいた兵士たちが一斉にざわめいた。


「兵力で劣るこちらが兵士を分ける通りはありません。敵を叩くと決めたら、全軍で叩くのです」


 弱者にせよ、強者にせよ、兵を分けるのは愚策中の愚策だ。

 一点集中は、兵法の基本中の基本……もっともそれを理解している人間は思いの外少ないのだが。


「しかし、それでは城を守れません」


「どのみちこの兵力では城は守れません。だから――城は捨てましょう」


「……なんですと?」


 将校たちが言葉を失った。


「城を捨てて、一体どこに行くというのです?」


 キバは机に広げられた地図で、城の後方に広がる渓谷を指出さす――


「ここで“決戦”です」


 キバはそれから一連の作戦を将校たちに説明して行く。

 最終的なゴールを話してから、そしてそれぞれの行動がどうそこに繋がっているのか一つ一つ説明して行く。


「……これでも城にこもりますか?」


 キバが聞くと、将校たちは顔を見合わせた。

 城にこもるのが愚策ということは理解したようだが、しかしそれでも心理的に抵抗がある、という感じだろうか。そりゃ、いきなり現れた赤の他人の考えた“突飛”な作戦を聞いても、はいそうですか、とはならないだろう。


 ――だが。

 そんな空気を一変させる者がいた。


「これしかありません」


 その声の主は――エリス王女だった。そのはっきりとした発声に周囲は息を飲んだ。


「王女様……」


「確かに、キバさんの言う通りです。城を守っても敵を倒せる訳ではありません。それなら、こちらから攻めて行く案の方がはるかにいい。そうでしょう」


 農地で出会った時は、健気な少女だ、と言う印象が強かったが、今、将校たちに語りかける姿は、まさしく王族のそれだった。

 王女の言葉に、将校たちはわずかに逡巡してから、そして互いに顔を見合わせて頷きあった。


「そうだな……俺たちの手で鉄鬼軍を倒そう!」


 兵士たちがそう声をあげた。それをみて、エリスは再び俺に目を向ける。



「キバさん。あなたにこの国の全軍を預けます――」


「――引き受けました、王女様」


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