旅は道連れ、世は情け無エ…… 【8】
お兄ちゃんが旅立って行った後も、わたしはずっと信じていた。
お兄ちゃんが私の元に帰って来る、その日の事を。いつか必ずやって来るであろう、その日を信じて、私は日々の生活を一生懸命にこなした。只のいい子としてではなく、自分の意志で、全てに対して本気で取り組んだのだ。剣術の稽古も必死で打ち込んだ。それまでは習っていた剣術を外で使う事なんて無かったのに、村のいじめっ子を相手に棒切れを振り回して奮戦したり、夜遅くまで帰らずに両親を心配させたりもした。
いつか、再び戻って来るであろう、お兄ちゃんの事を想いながら。
しかし、お兄ちゃんは帰ってこなかった。時々手紙を寄越したりはしたが、只の一度もうちに顔を見せるような事は無かったのだ。
私は、両親に度々彼の事を語った。
お兄ちゃん、いつ帰ってくるのかなあ、って。
お兄ちゃんが帰って来るまでに、私、もっと素敵で、もっと強い女の子になるんだって。
当然、両親も私の想いに気付いているだろう。
そしてあの日__。
お父さんが怖い顔で__怒ってるって意味ではなく、真剣な表情で語ったのが、私の出生の秘密。
私が、レジェナ・トイデスが、本当はロルニ・トイデスとシノル・トイデスの娘ではないと言う事。
私の本当の名前はレジェナ・マルディール。
今は亡きサウロロフス王家の一族、国王ケラト・ディアトリマ・バリオニクス・マルディール二世の忘れ形見だと言う事。
しかし、わたしにとってもそれは確かに重大な話ではあったけれど、殆ど実感も湧かなかった。いや、何となくそれまでもそうじゃないかなと感じていた事だったから。だから、驚いたと言うよりは、とうとうこの日が来た、という感じだった。そして、私にとって重大だったのは、自分が家族とは血の繋がりが無いと言う事。
はっきり言ってマルディール王朝なんて私にはピンと来ない、何か御伽噺みたいな感じだった。如何に父が昔仕えていたとは言え、今でも王国復興を目指してマルディール王家の遺臣団とか言う人たちと連絡を取り合っているらしい事を知っていたとは言え、サウロロフスの旧王家なんて話は私には全く縁の無い世界だと思っていたから。