旅は道連れ、世は情け無エ…… 【6】
いいや、多分、それも嘘ではないのだろう。しかし、彼が、十数年間兄と呼んだあの人がわたしの前から姿を消した本当の理由は__
なあんてね。
考え過ぎだよ、はっきり言って自信過剰。私がお兄ちゃんの事を男性として意識していたからって、向うまで同じだ何て……有り得ない事とも言い切れないけど。
でも、今でも思うんだ。
あの時、お兄ちゃんが家を出て行く時、引き止めていたら。譬え無理でも、わたしの想いを表に出して意思表示していたら。私が泣きじゃくってでも、駄々をこねてでも引き止めていたら。
譬え、旅に出るのを思い留まらなくても、私の想いだけは伝わったんじゃないのかな、って。
それからの私は、いい子を辞めた。
それまでの私は、いい子だった。
親の言いつけには素直に従い、我を張るような事をしない、いい子だった。
決してよそよそしくは無かったけれど、溢れるほどの愛情を注いでくれてはいたけれど、両親の私への接し方には、何か壊れ物を扱うような気遣いがあった。そう、強いて言えば過剰なまでの愛情。はっきり言って過保護。
だけど、お兄ちゃんは違っていた。
極自然に、当たり前のように、私を妹として扱ってくれていた。
でも、両親の私への扱いは明らかにお兄ちゃんとは違った接し方だった。両親、というよりは、お父さんが。普段はそんな事少しも感じさせない、普通の親子として振舞っていてくれたけど、私が何か失敗やいたずらを仕出かした時には厳しく叱る事は無く、優しく、なだめるように私を諌めるだけだったのだ。お兄ちゃんには声を荒げて、容赦無く手を上げる時すらあったのに。父は、男と女では躾方が違うからだとは言っていたが、そんな説明だけでは納得できなかった。お友達にも兄弟や姉妹の居る子達はあったけれど、みんなうちではおんなじだって言ってた。子供は平等に扱うのが普通の家庭の教育だった筈である。その事を父に問い質したら、うちは普通の家とは違うのだ、て言われた。