鳴かぬなら、ジッとガマンの女の子 【13】
と言う訳で、わたしはこのお宿、定宿バージェスにて朗報を待つべく腰を落ち着ける事になった。
この宿は全室八部屋しかない小さな木賃宿で、この亭主一家の他は料理人の親子だけが従業員である。この料理人という人物も矢張り元サウロロフスの家臣だったらしい。私が訪ねて行った時には留守だったのだが、まずカスモさんの奥さんが、続いて料理人親子が宿に戻って来た時にも矢張り一騒ぎ有ったのだが、それについては今は省略する。
「パキケファロさんも、元は王家に仕えてらしたんですよね」
パキケファロさんというのは料理人の名前である。
「左様で御座います、王女様」
あのね、その王女様ってのは……まあいいや、この際。
「やっぱり、宮廷料理人とか、そう言うお仕事なさってたんでしょうか?」
「いえ、それは__」
パキケファロさんは何となく決まりの悪そうな顔を見せた。
「わたくしは、王家に仕えておりました際には野戦指揮官として一軍を預かっておりました」
あら、それが何で料理人?
「十五年前にはわたくしどもの力が不足しておりました為、国王陛下を始め多くの方々が犠牲となられ……」
あらら、何となくまずいかも。聞かない方が良かったかしら。
「謀叛の後にも死に切れず、おめおめと生き延びてこのように王家御再興の為に機会を窺っておる次第なのですが、その場を凌ぐ為にこうやって柄にも無く料理人に身を窶しておるので御座います」
生きる為、仕事選んでいられなかったって訳か。