鳴かぬなら、ジッとガマンの女の子 【4】
「コイツはマニって言うの。旅の途中で知り合った、わたしのお供よ」
「へえ」
女の子がマニを見上げながら感心したように言った。
「マニさんて、おっしゃるんですか」
マニはいつものように微笑を浮かべながら丁寧に頭を下げた。
「それじゃ、お嬢さんのお名前は何ておっしゃるんですか?」
「あ、それは__」
その時である。
「何だ、ミアキス、お客さんかい?」
私たちの会話が弾んでいる所に、お店の奥からこれまた人の良さそうな、中年の男性が姿を現した。
「あ、お父さん」
ミアキスと呼ばれた女の子が奥から出てきたおじさんに言った。彼女のお父さんと言う、口髭生やしたこの人こそ元サウロロフス陸軍情報将校とか言う、プレウロ・カスモ中将閣下って訳ですな。
「お父さん、この人のお父様もお父さんとおんなじ、サウロロフスの家臣なんだって」
「おお__」
おじさんが心底嬉しそうに顔を綻ばせて両手を広げた。情報将校なんて言うから、もっといかめしくて目付きの鋭い、腹の内が掴めないような痩せぎすの人物を想像していたのだが、このおじさん、旅籠のご主人が見事に板についた、丸っこくて愛想の良さそうなダンナだった。
「それはそれは、遥々お越し頂き誠に光栄の至り」
やや芝居の掛かった仕草で挨拶する、おやっさんの歓迎のお言葉に思わずこっちも愛想笑いで答える私だった。
「それで、お嬢さんの父君は何れのお方かな?」
「あ、それは」
こう言う風に歓迎されるとわたしも気兼ねせずに済むので有難い。わたしは極軽い気持ちで説明した。