鳴かぬなら、ジッとガマンの女の子 【2】
「えーとね……」
人通りの賑わしい宿場街の雑踏を、慣れぬ足取りでうろつく私は、傍目から見てもさぞや田舎臭いおのぼりサン、いやいや、純朴な世間知らずの令嬢であろう。何せ、わたしの育ったスティギモロクは本当にノンビリした田園地帯だったからね。住んでるのも親切な人ばかりだった。人の心も温かな、おっとりとした地方で人知れず育てられた天真爛漫なプリンセス。うーむ、やっぱり私は天性のヒロインなのかも知れない。
「あ、ここだここだ__」
看板に、目指す宿場の名前を見つけた私は、小ぢんまりした建物の木賃宿を指差した。
定宿、バージェス。
「ゴメン下さい__」
玄関をくぐって店先に入ると、わたしはお客っぽい感じで(どー言う感じだ?)声を掛けた。
「すみませえん、誰か居ませんかあ?」
「ハイハイ、只今ア__」
店先の玄関口に姿を見せた私と余り変らない位の年頃の女の子、多分営業用なんだろうけど、見てて嬉しくなるような笑顔とともに現われると小腰を屈めながら会釈で迎えてくれた。如何にもこういう商売に慣れたような、感じのいい女の子だった。
「いらっしゃいませえ、この度は定宿バージェスにおこし頂き誠に有り難う御座いまあす」
「あ、あのお__」
わたしは何て言って良いか判らず、しどろもどろと言葉に詰まって立ち竦んだ。
「__お泊りですか?」
女の子は、まあ商売で客あしらいは仕込まれているんだろうが、催促するような素振りは見せず気の利いた、優しい笑顔で問い掛けてくれた。