旅は道連れ、世は情け無エ…… 【12】
彼は水場の源であろう、さほど大きくは無い、せいぜい小川が垂直に流れている程度の水量だが、上から落ちてくる水の音が空気に質感を与えるほどの勢いの滝の下に入って行った。マニの十八番、とう言うより趣味みたいな物かもしれない、御滝行である。まだ大気には肌寒い湿り気が残る中、流れ落ちる水流に身を任せるその姿は、見ているこっちの方が震えてくるような情景だった。あれは見ているだけでは分からない、相当な苦行なのだ。私も一度マニの真似をしてやってみた事があるが、とてもじゃない、耐えられるものではなかった。
やっぱりこいつ、変人だわ。
この滝行と言うのは、何でもマニが修行した国よりも更に東の果てに在る極東の島国国家で頻繁に行われる行法だそうで、僧侶や神官、果ては武術家までがこれをやるのだと言う。しかも、その極東の“日出ル国”においては『サムライ』と呼ばれる騎士階級が政権を握り、政治の主宰者は国王ではなく、何と将軍だと言うのである。
うーむ、一体どんな国なんだろう。世界は広いわ。
御滝行はそう簡単に終わりそうも無い。流れ落ちる冷水を浴びながら無念夢想の状態に入るマニをほっといて、わたしは殆ど息の根が止まりかけた朝食を持って、今はもう消えかかっているであろう焚き火の方へと引き返した。幸い完全に消えてはいなかったので、それに息を吹きかけて種火にし、何とか火勢を盛り返し、御魚を炙ってマニの戻るのを待っていた。
何だか、お料理しながらダンナの帰りを待っている新妻みたい、やーん。