旅は道連れ、世は情け無エ…… 【10】
そのまま、焚き火を囲んでわたし達は森で一夜を過ごしたのだった。眠い目をこすりながら辺りを見回すとマニが居ないじゃないの。
「……あれ……マニ……?」
既に夜が明けていたとは言え朝は冷え込みが厳しい。儚げな煙を上げて残り火が燻るのを前に、私はブルっと一震えした。
マニの野郎、どこへ行ったんだ?
夜露の滴る青草が刺激的な輝きを鏤め、不確定要因によって形成された限定的な空間である森の木々の間には、所々が抜け落ちた幾何学模様のような不思議な情景が広がっていた。まだ東の空に顔を見せたばかりの太陽が木々の間から透明度の高い鮮烈な光を地上に注ぎ、辺りは生命の輝きに彩られた神秘のステージのように眩しかった。
立ち上がって一頻り背伸びをすると、肺の中に思いっきり朝の新鮮な空気を吸い込んだ。
それにしても、マニってば一体どこに?
そうして周りを見回していると、何やら勢いのある水音がどこかから聞こえて来る。
もしかしたら……。
わたしは耳を澄ませて水音の源を尋ね、歩き続けて岩場の袂に溜まったちょっとした泉、滝の有る水溜りを探し当てた。
「これは、レジェナ様」
やっぱりだ。
案の定、そこにはこの寒い中、下着一枚で水に浸かって身を清めるマニの姿が有った。
「あんた、冷たくないの?」
いつもの事とは言え、一言いわずには居られない心境だった。
「冷たいですよ」
事も無げに答えるマニの言葉もいつもの通りだった。そればかりではない、もう慣れたとは言えレディの前で、よくそんな謹みの無い格好で平気だね。それともあんた、露出狂?実は脱いだら凄いんですって訳?
「しかし、なればこそ修行になるのです。熱さ寒さに屈しない鋼の心身こそが密教の深奥に通ずる生命の秘門を開くのですよ」
いつものように、聞いてる方が辟易するくらい立派な回答を返してくるマニは確かに尊敬には値するかも知れないが、矢張り凡俗のわたしには理解を絶した変人だった。