2,国王陛下との謁見
「はっ。」
やっと、神父が現実に戻って来た。
「おめでとう。君が勇者だ。」
全然おめでたくなさそうな表情でそう言ってくる神父。だから、表情隠せって。
「はぁ、ありがとうございます。」
俺は、ひきつった顔でそう答える。
「君が勇者になったからには、国王陛下に謁見してもらわなければならない。よろしいか?」
「はぁ、分かりました。」
俺に拒否権なんかないだろ。そう思えて仕方がない。そんな口調で言ってくる。
「では、行こう。」
「えっ?今からですか?」
明日くらいだと思ってたわ。
「だから、そう言ってるだろう。」
「分かりました。ジェン、先に宿へ帰っててくれ。」
言ってねーだろ、そんな突っ込みを飲み込み答える。でも、あれじゃあ誰が聞いても今日だとは思わないと思うんだよなぁ。そして、ジェンにしっかり伝えておくことも忘れない。
「おっ、おっ、おう。」
ジェンが、慌ててそう答えた。
「では、行こう。」
俺は、神父の後ろについて王城へと向かう。俺が聖剣を持っているせいで、勇者に俺が選ばれたことは丸分かりらしい。
王城へと向かっている間ずぅーと陰で話されている。あれが?とか、なぜ農民が?とか、農民ごときが等の会話は、聞かなかったことにする。俺は大人だからな。
そんなことを考えつつ歩いていたらついに王城に到着した。少し俺はわくわくしていた。王城に来る機会なんて一生来ないと思ってたし、うちの国の王様は優しいから人気なのだ。
うちの国は他の国より税が軽いらしいし、学校に一年間も通うことができる。だから、最低限の読み書きも少しだけお金を払えば皆できる。国王陛下はそんなことをしてくださった。本当にありがたいよな。
農民にもお優しい国王陛下に会うことができるのだ。わくわくしない訳がない。
俺は、神父と一緒に謁見の間へと通された。そこで国王陛下を待って、数分後。
「国王陛下のおなーりー。」
そんな声がかかり、謁見の間の入り口の大きな扉が開いた。
とても豪華な服で着飾り、頭に王冠をのせているが、顔立ちだけははっきり言ってどこにでもいるおっさんのような国王陛下が入ってきた。神父が頭を下げているのを見て、俺も慌てて頭を下げる。
「顔をあげよ。」
『はっ。』
俺は、神父に合わせて相づちを打つ。
「余がこの国の国王、クロムドル・ムト・アシュナールである。そなたが今代の勇者か」
「はっ。おっ、わっ、わたくしめは、ウィルといいますっ。」
緊張して、数回噛んでしまった。はっ、恥ずかしいー。穴があるなら入りたいー。ないかな、ないよな。むしろ掘っていいかな?だめだー、ここ王城だー。
なんか、そんなことを考えていたら、落ち着くことができた。国王陛下に話しかけられた。
「そんなに固くせずともよい。して、そなたはその身なりを見るに農民に見えるのだが。」
「はっ、わたくしは見ての通り農民にございます。」
そう言った途端、国王陛下の視線が一瞬蔑んだものに変わった気がした。まぁ、気のせいだろう。国王陛下に限ってそんなことあるはずない。そう、あるはずないのだ。農民にも優しい国王陛下に限って。
「そうか。そなたの活躍期待している。」
「はっ、ありがたき幸せにございます。」
「そなたにもいろいろしなければならないことがあるだろう。今日のところは帰るがよい。」
そうして、俺は謁見の間を退出した。謁見の間のドアが閉まる寸前でこんな会話が、聞こえてくるとは思わなかった。
「しっかし、農民ごときが勇者になるとはの。」
「本当にそうでございますな。」
これは、本当に国王陛下の言葉か?信じられない信じたくない。
「それにしても、農民への教育はうまくいっているようだな。余への視線が好意的であった。」
「それはようございました。」
「この国の農民への税は他の国の二倍くらいあるというのにのう。」
は?他の国より少ないという話しではなかったのか?
「本当に、本当に。」
「教育へのお金を払わせているのは、この国のみだしのう。」
あぁ?ざけんな。どんだけ嘘をついてやがるんだ。
「その上、他の国は三年間も勉強しているというのに、この国はたった一年間、まぁ、農民ごときに教育してやっているだけありがたいと思うがよい。」
俺は、怒りを通りすぎ顔面蒼白にして真顔でその話しを聞いていた。
「そんなことにいつまでも気づかないとは、つくづく農民とは憐れで仕方がないな。ははっ、ははははは。」
「本当ですな。本当ですな。はははは。」
俺は国王と貴族への憎悪で心を真っ黒に染めながら宿へと帰った。
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