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人と竜の成長譚 〜ポンコツかわいい竜娘に今日も翻弄されています〜  作者: 蒼遊海
第二章 風の国ボスコヴェント編
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第二十一話:種族の壁

「改めて、姫様を助けていただいたことに御礼申し上げます。並びに私の早とちりで無礼を働いたこと……申し訳ありませんでした!」


「もういいって。イコナを助けてもらったんだし、それでおあいこってことでさ」


 深々と頭を下げるシエラに対し、俺は苦笑いを浮かべながら答えた。


「ですが……」

「シエラは頭が固いの。お兄ちゃんがいいって言ってるから、それでいいの。ね? お兄ちゃん?」


「あ、ああ。ルゥちゃんの言うとおりだ」


 なんかあの二人の立場が逆転してるような……まだ子どもだけどルゥちゃんは結構しっかり者なのかもしれない。


 逆にあのシエラってエルフはどことなくイコナと似たような雰囲気を感じるのは気のせいか?


 そんなことを考えていたら、寝そべっていたイコナがもぞもぞと動き始めた。


「う、うう……」

「イコナ、大丈夫か?」


 イコナに近寄り腰を落とす。イコナの側にずっといたライムも心配そうに見つめていた。


「……はい。もうお腹は痛くないですし、ちょっと気持ち悪いけど……もう大丈夫です」


 女の子座りへと姿勢を直しながらそう話すイコナの表情からは、さっきまでの酷く苦しんでいる様子は消えていた。


「なら良かった。でも無理はするなよ?」

「お嬢〜心配かけんといてや〜」


「ごめんなさいライムちゃん。今度からはもっと気をつけますね」


 イコナはライムを膝に乗せ、落ち着かせるように撫でていた。


 ……どうやらイコナの調子も良くなってきたみたいだし、ルゥちゃんの保護者……と言っていいのかまだわからないけど、それっぽいシエラとも知り合えたし、結果的には良かったって事で。


 そういえばシエラはルゥちゃんのことを『姫様』って呼んでたけど……まさか、そんなことある?


 さすがにそんな事は無いだろうと内心思いながら、まだルゥちゃんに諭されているシエラに確認しようとした時だった。


「巫女姫様ー! どちらにいらっしゃるのですかー!?」


 大人の男性らしき少し低めの叫び声が聞こえてきた。


「この声……もしやオーベル様?」

「オーベル様? シエラの知り合いなのか?」


 シエラは少し困った表情を浮かべながら小さく頷いた。


「オーベル様は巫女姫親衛隊の隊長……私の上司とも言えます」

「し、親衛隊?」


 親衛隊……ここまでの流れからして多分ルゥちゃんの親衛隊ってことだよな。

 そしてルゥちゃんは姫って呼ばれてたから……やっぱりルゥちゃんは高貴なお方にあたるということで……。


「巫女姫様ー!」


 茂みを掻き分け、見た目三十代に見える男性のエルフが現れた。

 その顔には斜めに横断するように古傷が刻まれており、歴戦の猛者のような風格が漂っていた。


 その男……シエラいわくオーベルというエルフはルゥちゃんとシエラを見つけるなり、血相を変えて近づいて来た。


「巫女姫様! ご無事ですか!?」

「お、オーベル……ルゥは大丈夫なの……」


 それに対し、ルゥは少したじろいでいた。

 近くにいたシエラの背に隠れるその姿は、怯えた小動物のようにも見える。


「オーベル様、姫様が我らエルフの里を抜け出してしまったのは、全てこのシエラの不徳が原因です。どうか姫様には寛大な処置を」


 シエラはオーベルへと覚悟の眼差しを向けていた。その蒼い眼からは強い意志が感じ取れる。


「なにがあったのかは後でじっくりと聞かせてもらう。まずは……後ろにいるあの者達について詳しく聞かせてもらおうか、シエラ?」


 オーベルの鋭い視線の先には回復したばかりのイコナとレスト達の姿があった。


「はっ。彼らは姫様を保護してくださっていた方々でございます」

「そ、そうなの。お兄ちゃん達は悪い人じゃないの……」


 シエラの張りのある声とは裏腹にルゥの声は震えていた。


「保護、だと?」

「はい。姫様もそうおっしゃっておりました。私自身も彼らの言葉に嘘偽りはないとーー


「黙れ!!」


「!?」

「ひうっ!?」


 シエラの言葉を遮りオーベルは怒声をあげた。

 ルゥはすっかり怯えてしまい、シエラの背中に完全に隠れる。


「シエラよ。我々エルフ族に代々伝わる教えを忘れたわけでは無いのだろう?」

「……はい。『人族は決して信用してはならない。信用すれば、いずれ裏切られその身を滅ぼすだろう』そう記憶しております」


 ……人間の俺が言うのもなんだけどさ、そんなに人って信用されてないの? テラーノは大の人間嫌いだって言ってたし、エルフは種族全体でそんな教えが代々伝わってるなんて……これも過去の大戦の影響なのかなぁ。


 とにかく、呑気に構えてる場合じゃないな。なんか不穏な空気になって来たし。


「その教えを覚えていながらあの人族を信用したというわけか」

「……はい。間違いありません」


 シエラの返事を聞いたオーベルは腕を高くあげ、声を張りあげた。


「皆のもの! あの人族とその仲間を全員捕らえよ!」


「な!?」

「ちょ、なんやて!?」


 オーベルの掛け声と共に周囲の木々から多くのエルフが飛び降り、一瞬でレスト達を囲み込んだ。

 そのエルフ達全員が弓を構え、いつでもレスト達へと矢を放つ準備ができている。


「オーベル様!」 「オーベル!」


「シエラよ、お前は甘すぎるのだ。その油断がいずれ命取りになるぞ」


「ですが、オーベル様!」

「黙れ! あまり奴らに肩入れするならば……」


「っ!?」

「シエラ!」


 一瞬だった。オーベルは音もなく、シエラの首筋に鋭いダガーを突きつけていた。


「お前も我々エルフに仇なす者として捕らえねばならなくなるぞ?」

「……申し訳、ありませんでした」


「それで良い」


 オーベルはダガーを納め、レスト達を取り囲むエルフ達の輪へとゆっくり近づいていった。


「さて、人族の者と……その姿からして氷竜族の娘か。そして、シャインマジックスライム……お前達の目的はなんだ? 姫様を惑わせ、一体何をするつもりだった?」


「……シエラにも同じ質問をされたよ。でもな俺達は何も悪いことをするつもりなんてなかった。ルゥちゃんの保護者を探すために風の国を目指そうとしてただけだ」


 レストの言葉を聞いたオーベルは顔色一つ変えずに淡々と返した。


「とぼけるな。先に言っておくが私はシエラのように甘くはないぞ。素直に白状するなら、我らが里に連行した後の刑罰を少し軽くするくらいは考えてやる。さあ、言え」


 くっ……なんでエルフはどいつもこいつも頭が固いんだ? 素直なルゥちゃんをもっと見習えっての!


 ……どうする? このオーベルってやつ相手じゃシエラみたいにハッタリが効くとは思えないし……イコナだってまだ回復したばっかりでマトモに動けないし……。


「どうした? もはや騙す嘘すら思いつかなくなったか? ならばこれが最後だ。正直に白状しろ。しないのならば……」


『坊主、坊主!』


 この声……そういうことか。ライムが小さな分体を作って俺の耳の近くから小声で喋らせてるんだな。


 というかなんか耳の裏あたりが冷たい……冷や汗かいてるのかライムの分体のせいなのか……いや、今はそんなことどうでも良いな。


『ここは大人しく従うのが良いと思うで。さすがのお嬢でも今の状態で奴らの矢を受けたらマズい。大人しくして奴らに捕まるほうがまだマシや』


 ……ライムの言う通りかもな。


「わかった。そっちの言う通りに従う。だからせめて命だけは助けてくれないか?」


「それでも白状する気は無いというわけか、まあいい。奴らに魔封じの輪をつけよ。そのまま我らが里へと連行する」


「「はっ!!」」


 数人のエルフがレスト達に不可思議な文様が刻まれた首輪を付けていく。


「その首輪をつけている間は新しく魔法を使うことはできない。そこの氷竜族の娘は元の竜の姿に戻ることも出来なくなる。つまりお前達が抵抗することはほぼできなくなったも同然というわけだ。すぐにでも竜の姿に戻れば、まだ抵抗の余地があったかもしれないというのに……こちらとしては助かるがな」


 そうは言うけど、残念ながらイコナは普通の竜族じゃなくて『竜人族』だからな。魔法で人の姿になってるわけじゃないんだから、多分竜の姿にもなれる……はずなんだよな〜多分。


「オーベル! 今すぐお兄ちゃん達を自由にして! お願い!!」


 自分の足にしがみつき必死に懇願するルゥに対し、オーベルはレスト達を見つめたまま告げた。


「巫女姫様。申し訳ありませんがその願いを聞くわけにはいきません。例え命令だとしても、です」


「そんな……どうして……」


「シエラ、巫女姫様を連れて先に里へと戻るのだ」

「……了解しました」


 ルゥをオーベルから引き剥がし、シエラはルゥを抱き抱えたまま森の奥へと進み始めた。


「シエラ! 離して、離して!! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

「……」


「ルゥちゃん! 大丈夫だ! 必ず俺達は無実だって証明するから、安心して先にシエラとお家に帰っといてくれ!」


 泣き叫ぶルゥに対しレストは精一杯の笑みを浮かべ、叫んだ。


「お兄ちゃん……」

「……レスト様、申し訳ありません」


 小さく呟いたシエラの声は誰の耳にも入らず、森の中へと消えていった。

 そのまま二人の姿も森の奥へとゆっくり消えていく。


「威勢だけは良いな、人よ」

「そりゃどうも。それより連行するなら連行するで早いとこしてくれないか。そこでじっくり話させてもらうからさ」


「良いだろう。お前達が白状するまで、牢でじっくりと話をしようではないか」


 ……結果的に風の国に行けるけど、状況は最悪だな。こんなのテラーノの耳に入ったらどうなるかわかったもんじゃない。

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