第十九話:保護者は子のために動く
「……ん、ふぁああ……朝……か?」
……えっと、いつの間にか寝てた……みたいだな。
「……う〜ん、寝起きだからか頭がボーッとする……」
周りにイコナ達はーーいないみたいだな。
とりあえず、ちゃんと寝袋を敷いて寝た昨日の俺、ナイスだ。
「それはそれとして……えっと昨日は結局、飯作って……イコナに女の子ーールゥちゃんだったか? を起こしに行ってもらって……あ〜そうだ。それから飯食いながらルゥちゃんの事を色々聞いたんだったな」
飯食ってる途中から睡魔が凄い勢いで襲ってきたから、うろ覚えなんだよな……思ってた以上にあのゴリラ共との戦闘で疲れてたって事だろうけど。
眠気覚ましに顔洗ったりしながら、ちょっと思い出してみるか。
こういう時に水魔法を使えると便利で助かるんだよな〜。
最弱の初級魔法だって使い方次第なんだよ。
……悲しくなんか無い。最弱の初級魔法しか使えないからって悲しくなんかないぞ。
テアト先生だって『どんなに強い魔法でも、結局は使い手次第……初級魔法でも上手く使えば上級魔法に匹敵する……時もある、かもしれませんから……ね?』
みたいな事言ってたし? 最後の方はなんか苦し紛れな感じだったけど、学園のほぼ全生徒から慕われてた、あのテアト先生がそう言ってたんだし!?
……現実逃避はこの辺にして、とりあえずルゥちゃんだ。
まず始めに、そりゃもう美味そうに飯を食べてくれてたのは良く覚えてる。
最初はなんか、子どもらしくない……とでも言えばいいのか? とにかくそんな感じの落ち着いた様子で食べてたけど、よっぽど美味かったのか、すぐにバクバク食べ始めてたな〜。
口いっぱいに頬張ってリスみたいな顔になってたっけ。それに負けじとイコナがガツガツ食べるから、危うく俺の分が無くなりかけた……というのは最早お約束。
とにかく第一印象は人懐っこくて、良く食べる普通の女の子ってところか。
歳も見た目相応で八歳って言ってたな。
あの見た目で俺より歳上、なんて事が無くて本当に良かった。もしそうだったら、どう対応したもんか困ってたのは間違いないし。
で、ここからが割りと重要なんだけど……。
「まさかの家出少女だったんだよな……」
なんで森の中で一人だったのかルゥちゃんに聞いてみたところ、始めは言いたくなさそうだったけど、イコナの協力もあって答えてくれた。
それによると、ルゥちゃんは『シエラ』という人……もといエルフ(だと思われる)と一緒に住んでいて、色々とお世話をしてもらったり、魔法や風の国のこと、他にもいろんな事を教えてもらっていたんだとか。
ただし、家の外に出ることはほとんど許されてなかったらしく、数えるほどしか外に出た覚えが無いとの事。まあそうなると友達もいないわけで……。
シエラが家の中で遊んでくれたりもしてたらしいんだけど……ルゥちゃんはまだ小さい子どもだからか、どうしても外の世界が気になって仕方なかったし、窓から外を眺めると、仲良く遊んでいるエルフの子ども達の姿が目に入って、自分もそこに混ざりたいと思ってたらしい。
まあ、そりゃそうだよな。優しくしてくれる大人がいたとしても、同年代の友達が欲しいって思うのは……俺も、良くわかる。
そうしてどこか寂しい思いをしながらも、ルゥちゃんはシエラの言うことを聞いていた……それでも、いよいよ我慢ができなくなって家を飛び出す決意をした。
そうして、シエラに見つからないようになるべく家から遠くに行こうとしてたら、いつの間にかマナフォレストに入ってしまい、その後は例のゴリラ共に遭遇して……。
「……事情が事情だし、早いところルゥちゃんを家に送り届けたほうが良さそうだよな」
ルゥちゃんの話を聞いた限りじゃ、シエラってエルフだけがルゥちゃんの家族って可能性も充分ある。
名前の雰囲気的に女性だろうし、シングルマザーか、もしくはルゥちゃんのお姉さんか。
なんにしてもルゥちゃんのことを心配してるのは間違いないだろうし……おまけにルゥちゃんが家出してから丸一日経とうとしてるんだ。もしかしたら今頃大騒ぎになってるんじゃないか?
「マズいな……改めて状況を整理したら、のんびり寝てた俺がアホだったんじゃないかって思えてきた」
とりあえずルゥちゃんを探さないと。イコナとライムの姿も見当たらないけど……多分みんな一緒にいるだろうし。
「顔も洗ったし、寝袋をしまって探しにーーって、そういえばそうだよな……」
辺りには昨夜使った土の椅子やら、食卓やらがそのまま残っていた。
「……まあこっちは後回しでも良いだろ」
どうせ土魔法で分解するだけだし。それよりもなるべく早くみんなを見つけて、ルゥちゃんを家に送り届けるべきだ。
うん、間違い無い。後回しにするのは決して片付けが面倒だからじゃない。これはルゥちゃんとルゥちゃんの家族のためだ。
「そうと決まれば……」
俺が寝袋を片付けようと持ち上げた、その時だった。
「ん?」
寝袋の中で小さい何かがモゾモゾ動いてる?
……もしかして寝てる間に変な虫でも入ってたのか? うっわ、最悪だ……でも、もし潰してたら寝袋の掃除が面倒な事になってたかもしれないし、不幸中の幸い……って言っていいのか、コレ?
そんなことを考えていると、下向きにしていた寝袋からポトっと小さな丸い影が落ちた。
「はあ! 死ぬかぁ思うたわ! やい坊主! もちっとくらい寝相良くして寝れへんのか!」
「ライム!? ……の分体か?」
影の正体は拳二つ分ほどのサイズに小さくなったライム(分体)だった。
「せや。お嬢と……ルゥ、やったか? あのエルフの女の子が遊びに行ってくるっちゅうから、坊主が起きた時のためにワイが残ってたんや」
「遊びに? すっかり仲良くなったんだな」
「せやなぁ。そりゃもう、楽しそうやったで? 二人仲良く手ぇ繋いでなぁ。ワイの本体もお嬢の頭に乗っかってついて行っとったわ」
本体が羨ましいんだな。文字通り、嫉妬で震えてら。
「本体のやつ、今頃はお嬢と楽しく遊んどるはずや。自分だけ良い思いして……ワイだって、ワイだってなぁ」
「わかった、わかった。それならイコナ達がどこに向かったのか教えてくれ。連れて行ってやるから」
「坊主ぅ! 今日はイヤに気が利くやないか〜」
現金なやつだなホントに。
「にしても、朝から遊びに行くとは元気なもんだな。俺としては寝起きならあんまり動きたくないところなんだけど」
「お嬢の体力ナメたらアカンで? あのエルフの子も、まあ子どもやしな。回復するの早いんやろ。それに比べて坊主ときたら……」
「なんだよ? こちとら戦闘後に飯まで作ってたりしたんだから仕方ないだろ? 呆れる前に褒めて欲しいところだ」
「そこはまあ認めたるわ。でもなぁ、いくらなんでも昼時まで寝るのはないわ」
「……え? 昼時?」
ライムは触手を伸ばし、先端を手の形にして、空を指差して見せた。
「……あ〜本当だ。太陽があんなに高く登ってる〜」
空を見上げると、太陽が真上とまでは行かずとも高い位置まで登っているのが見えた。
「なんや気づいてなかったんか。呑気なもんやなぁ」
自分でも呑気だとは思ってたけど、改めて言われるとなんか腹立つな。
「悪かったな。まあそれはそれとして、結局イコナ達はどこにいるんだ?」
「せやった、せやった。えっとなぁ……ん? ちょい待ってや坊主」
分体は急に黙り込んで、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
「……? 一体どうしたってーー
「た、大変やー!!」
動かなくなっていた分体は、突然叫ぶと同時に慌てふためき始めた。
「なんだよ。急に大声出すなって」
「アホんだら! こんなん叫んで大慌てになるに決まっとるやろがい!」
「そうは言われてもなぁ……俺には何が何やら、訳がわからないんだよ」
「そんなん言うとる場合やない! 坊主、はよワイを連れてお嬢のところに行くんや!」
「まさか……イコナに何かあったのか!?」
「詳しゅうはわからんけど、お嬢が苦しんどるのは間違いない! はよ行くで!!」
「っ! わかった!」
俺は分体を持ち上げて、そのまま分体が示す方向に向けて走り始めた。
目指す先はマナフォレスト方面だ。
♢♢♢
「イコナ!!」 「お嬢!!」
「お兄ちゃん!? お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……」
マナフォレストに入って少し進んだ所で、地面に寝転んだまま苦しそうにしているイコナと、その横で心配そうにイコナを見つめるルゥちゃんを見つけた。
ルゥちゃんは今にも泣き出しそうな表情で、ライムの本体を強く抱きしめていた。
「一体何があったんだ!?」
「……ルゥ達……お腹空いてきたから、おやつを食べようって事になったの……そしたら、そしたら……う、うわぁぁん!」
ダメだ。ルゥちゃんは気が動転しちまってる……でも、仕方ないよな。
「ライム、代わりに何があったか教えてくれないか?」
「ああ、今この子が言うた通り、お嬢達はおやつに何か食べようとしたんや。それで、お嬢がそこに転がっとる果物を一口食べたら……見てわかるように、急に苦しみ始めたんや……」
果物……?
見ればイコナのすぐ近くに大きな歯形がついた果物が転がっていた。
全体的に紫がかっていて、果肉にあたる部分はまるで血のように赤い。
昨日イコナが拾ってきた果物の中にあんなのは無かったな……形はパイナップルに似てるような気もするけど、表面の色からしてあまり食べたいとは思えない代物だ。
「う、うう……お腹が痛い、気持ち悪い……です……」
「イコナ、大丈夫か!?」
横になっているイコナの横にしゃがみ込み、その顔をのぞき見る。
そこにはいつもの明るく元気な表情は無く、ただ青ざめて苦しんでいる姿だけがあった。
「レスト……さん……。ごめんなさい……いつも、拾い食いするなって……言われてたのに」
「バカ野郎! 反省は後だ! それよりも今は元気になる事だけ考えてろ!」
……そうは言っても、一体どうしたら良いんだ? こんなに苦しそうなイコナは初めて見たし……原因は間違いなくあの果物だと思うけど……そもそもアレがなんなのかすら……いや、もしかしたらーー
「……ルゥちゃん?」
泣き続けているルゥちゃんに優しく声をかけてみる。
「うっ……うう……」
「ルゥちゃん、お願いだ。イコナを助けるためにも教えてほしいことがあるんだよ」
俺の声を聞いて、ルゥちゃんは少しだけ落ち着いた様子を見せてくれた。
「ルゥに……わかること、なら」
ボロボロと零れ落ちる涙を拭いながら、ルゥちゃんは絞り出すように声を出した。
「イコナが食べたあの果物……アレが何かわかるかい?」
俺が指差す果物をルゥちゃんはマジマジと見つめ、ジッと考え始めた。
「多分……竜封じの実、かもしれないの」
「竜封じの実?」
名前からして絶対にイコナが食べたらダメなやつじゃねぇか!
よりによってなんでそんなもんを……って、今言ってももう遅いか。
「その、竜封じの実ってのは一体どんな物なんだい?」
「前にシエラが言ってたのは……確か、むかーしむかしに、竜族を倒すために使ってたって……」
最悪だ! 自分で自分を倒すハメになっちまってるじゃんかよ!
「でも、それは難しい調合をして特別なお薬を作るために使ってたって言ってたの……それを弓矢に塗って、それで竜族を倒してたって……」
……ってことはあの果物を直接食べただけなら、死ぬまではいかない……って可能性は高い……よな? 直接使って倒せるんならそうしてるだろうし。
「わかった、ありがとうルゥちゃん」
ルゥちゃんはコクコクと頷いてくれた。まだ完全に立ち直れてはないけど、だいぶ落ち着いてくれたみたいだ。
……さて、どうしたもんか。イコナが苦しんでる事に変わりは無いし、最悪の場合……ってことも考えられる。
学園の野外演習でいざって時の解毒の仕方とか教えてもらったけど……さすがに事が違いすぎてどうしようもないし……参ったな。
「こんな時、シエラがいてくれたら……」
「ルゥちゃん? シエラって人ならイコナを助けられるのか?」
「かもしれないの。ルゥが病気になった時、色んな病気をすぐに治しちゃうお薬で、ルゥのこと助けてくれたの」
「本当か!? それなら、シエラを見つけられれば……どうする? このまま風の国へ一気に向かうか?」
でも、辿り着けるかすらわからないってのに……いや考えてる間にもイコナは……。
「姫様ー!!」
森の奥から女性と思われる声が響いてきた。
「!? シエラなの!!」
「本当か!?」
最高のタイミングじゃないか! これでイコナを助けてもらえるかもしれない!
「姫様ー! どこに居られるのですかー!?」
「シエラー!! ルゥはここにいるのーー!!」
女性の声に対し、ルゥも精一杯の大きな声で返事をする。
その声が届いたのか、森の奥から茂みを掻き分けてこちらへと向かってくる音が聞こえてきた。
「姫様!!」
「シエラ!!」
茂みを掻き分け、見た目二十歳ほどの弓矢を背負ったエルフの女性が現れた。
その長い金髪には、葉っぱや折れた小さな枝が絡まっており、切羽詰まって森の中を走ってきた様子が見て取れた。
「姫様、よくぞご無事で……どこもお怪我などはありませんか?」
「私は大丈夫なの。それよりも、お姉ちゃんを……お姉ちゃんを助けて欲しいの!」
「お姉ちゃん……?」
ルゥが指差す方を向いたシエラの目に、横になっているイコナの姿と、その横にいるレストとライムの姿が映った。
「!?」
直後にシエラは背負っていた弓に矢をつがえ、レスト達へと向けた。
「お前達が姫様を拐ったというのか!? この曲者共め!」
「なっ!? 待ってくれ! 俺達は誰も拐ってなんか無い!」
「せや! ワイ達は悪いことした覚えは無いで!」
「喋るマジックスライム……? それに竜族と、人間……お前達の目的はなんだ!? 姫様を誘拐して何をしようとしていたんだ!? 答えろ!」
「だから話を聞いてくれ! 俺達は誘拐なんかしてない!!」
「そうなの! お兄ちゃん達は何も悪いことしてないの!!」
ルゥの必死の訴えに、エルフの女性は一瞬ためらったがすぐに首を横に振った。
「姫様、姫様は騙されているのです。人間は我々に何をするかわからない。何度も教えたはずですよ」
「シエラ!」
おいおい、俺が人間ってだけで酷い言い分だな!?
なんにしてもマズい事になった。これじゃイコナを助けてもらうどころか、俺達が犯罪者になっちまう。
なんとかして誤解を解かないと……。
〜レスト達の時間から時は遡り昨夜の時間〜
親バカ竜「何故じゃ? 何故ヴォルは入れぬ?」
店員「も、申し訳ありませんお客様。ですが、当店はペットの連れ込みはご遠慮いただいておりまして……」
親バカ竜「ぺっと? ヴォルはぺっと……などではないぞ!」
店員「そ、そう言われましても、そちらの大きなワンちゃんはペット……ですよね?」
分体「ワンちゃん……ぷぷっ……やっぱり犬っころは犬っころなんやて……クスクス」
もふもふ「ガルルル!!」(ブチギレ)




