第十八話:あなたのお名前は……
「ん〜……まだ眠いの……」
イコナに連れられて、女の子がテントから出てきた。
ウキウキしているイコナとは対照的に女の子は眠そうに目を擦っている。
「まあまあそんなこと言わずに〜。美味しいご飯が待ってますよ〜」
「ご飯……?」
目を半分閉じたまま、女の子はクンクンと周りの匂いを嗅ぎ始めた。
「美味しそうな匂いがするの!」
レストが作った料理の匂いを嗅ぎつけた女の子は、目を見開き、キョロキョロと匂いの元を探し始めた。
「そうでしょ〜。あそこにあるお料理、お腹い〜っぱい食べて良いですからね」
イコナが指差した先にある料理を見て、女の子は満面の笑みを浮かべた。
「本当!? 好きなだけ食べても良いの!?」
「ええ、もちろん」
イコナは女の子に微笑み返し、自分の手よりも小さく、か弱い手を優しく引きながら、レストが用意を続けている食卓へと向かう。
「やったぁ! お姉ちゃん大好き!!」
無邪気に笑う女の子を見て胸の内が暖かくなる感覚を覚えながら、イコナはレストへと顔を向けた。
「まったく、まるで自分が料理を作ったかのような口振りだな?」
視線に気付いたレストは、少し意地の悪い表情をイコナへと向けた。
「うっ……た、確かに料理を作ってくれたのはレストさんですけど、食材のほとんどは私が集めたんですから、ちょっとくらい良いじゃないですか〜」
……確かに俺とライムは食材集めをしてた時間より悲鳴の主を探してた時間のほうが長かった……と思う。
まあイコナ達のほうが多く集めてたのがその証拠だよな。
だとしても、俺達に合流するまでそんなに時間があったわけでも無いはずなのに、そんな短時間で自分よりもデカい猪っぽい魔獣を仕留めたうえに、果物までたくさん拾うなんて……食材集めに関してはイコナの右に出るやつなんていないのでは?
「ん〜えっと、お姉ちゃんが食べ物をあつめてくれて……お兄ちゃんがそれを料理してくれたってこと?」
首を傾げる女の子に向けて、俺とイコナはほぼ同時にコクりと頷いた。
「わ〜! お兄ちゃん凄いの!」
「い、いや。別にそんな大したことはしてないって」
とは言っても、土、水、火、三種類の魔法を使って肉を蒸し焼きにしてたりするからある意味特別だったりするんだけど。
最低限の魔法とはいえ、組み合わせればどうにか役には立つ……ダメだ、やっぱりなんか悲しい。
イコナは新しい魔法を使えるようになったんだし、俺ももっと凄い魔法が使えるようになれたらなぁ……。
「はぁ……」
「? お兄ちゃん、どうしたの?」
おっと、思わずため息をついちゃってたか。
「あ〜なんでもない、なんでもない。それより、その肉はちょっと特別な焼き方をしたからな。冷めないうちに食べてくれ」
「特別?」
「じゃあ、いつものお肉より美味しいってことですか!?」
「イコナ……お前が子どもみたいに、はしゃいでどうするんだよ……」
二人の反応を見ていたら、どっちが年上なのかわからなくなりそうだ。
「い、いや〜つい……えへへ。レストさんの作るお料理はいつも美味しいですし、冷めちゃったらもったいないですし、早速いただきましょう!」
「そうだな。ちょうど用意も終わったし、食べるとしよう」
「わーい! 美味しいご飯、早く食べたいの!」
女の子は待ちきれない様子で、土でできた椅子に座った。
土でできたって言っても、座るところには大きめの葉っぱを乗せて汚れないようにはしている。
座り心地が良いとは……言えないだろうけど。
「そういえば、ちゃんと自己紹介をしてなかったよな? 俺はレスト。そこのイコナと、今は見張りに行ってていないけど、マジックスライムのライムと一緒に旅をしてるんだ」
俺も椅子に座りながら簡単に自己紹介をした。そんな俺を見てイコナも思い出したらしくーー
「そうですね。つい忘れてました。では改めて……私はイコナといいます。ライムちゃんは私の契約魔なんですよ〜。あなたのお名前も教えてもらって良いですか?」
ニコニコしながら、女の子へと話しかけるイコナはとても楽しそうだ。
多分、相手も女の子だからだろう。
「わ、私は……」
そんなイコナとは対照的に、女の子はどこか動揺してるようにも見えた。
「私は、ルゥ……ルゥっていうの!」
なんであんなに動揺してるんだ? 子どもが着る服にしては豪華に見える服を着てるのも気になるし……何か隠し事があるのかもしれない……のか?
「ルゥちゃん……ですね。ではルゥちゃんも含めてみんな無事に帰ってこれたことをお祝いしながら、ご飯を食べましょう!」
「お祝いなの〜!」
……でも、雰囲気とか仕草とかは至って普通の女の子に見えるし、俺の考えすぎかもしれないな。
イコナが好奇心旺盛な分、俺が気をつけないといけないって、気を張りすぎてるだけ……ってこともあるか。
そういや、ロンにもそんなこと言われたっけ。
まあ今はイコナの言う通りみんな無事だったことを喜びながら、俺の自信作を楽しむとしようか。
親バカ竜「よし決めた! あの店にしようぞ!」
分体「ようやく決まったんかいな。飯食うって言ってからいくらなんでも時間かかりすぎやで、じっ様」
親バカ竜「何を言うんじゃ。どんな料理が出るかわかったものじゃ無いんじゃぞ? 慎重に決めるのは当然じゃろうて」
分体「よう言うで。本当は美味そうなもんが多すぎて目移りしとっただけのクセに」
親バカ竜「な!? お、お前にはそう見えただけに過ぎんわい! とにかく、行くぞ」
分体「へいへい」 もふもふ「ガウ」




