第十五話:ライムの企み
見張りを始めてから魔物が襲ってくるなんて事もなく、しばらく経ってイコナが元気になったのを確認した俺達はすぐにマナフォレストへ向けて歩き始めた。
マナフォレストがとんでもなく広いうえに、条件付きとは言え進む者を迷わせる事もあるというくらいだから、イコナに竜の姿になってもらい空から風の国を目指したほうが良いんじゃないか? とも思ったけど、ライムが言うには空から侵入しようとした場合、見張りを担当しているエルフから、やましい考えがある、と見なされてめんどくさい事になってしまうかもしれないらしい。
思った以上にエルフが他種族を警戒してるって事がわかって、なんとも言えない不安を覚えたりしながらも俺達は無事にマナフォレストへと辿り着いた。
「さて、ここからが問題だな」
「マナフォレスト……近くに来るとなんだか不思議な感じがします」
イコナの言うとおりだ。何だろう? なんというか……森そのものに監視されてるような……変な感じだな。
「多分、この森に漂う魔力のせいやないか?」
「……そうかもしれませんね。さてレストさん、どうしますか? このまま一気に風の国まで行っちゃいますか?」
行きたいんだな。うん、よーくわかるぞ。尻尾ブンブンいってるからな。
「そうしたいところだけど……ライムは風の国まで行ったことは無いんだよな?」
「せやで。森の外側と、風の国付近は安全らしいんやけど、その間にあたるエリアは魔物がウジャウジャおるとか聞いたからなぁ」
となると、森の中で野宿なんてしようものなら……
「……もう昼も過ぎてるし、今日は森の奥深くまで行かないようにしつつ、食料を調達してもう一度ここに帰ってこよう。そのまま野宿して明日の早朝から風の国を目指す」
「むぅ……レストさんがそう言うのなら、わかりました」
そこ、あからさまにしょんぼりしない。
「イコナの気持ちもわかるけど、もし森の中で野宿するなんて事になったら後が怖いからな。ゴール目前の時こそ落ち着いていかないと、足元すくわれるかもしれないんだぞ?」
「お嬢には悪いんやけど、ここは坊主の意見に賛成や。早いとこ食料集めて、明日に備えましょうや〜」
「わかりました。よ〜しそうと決まれば、張り切っていきますよー!」
♢♢♢
「なんでワイと坊主で組まにゃならんのや」
「まだ言うか? というか、人の頭の上であんまり騒がないでくれよ」
ライムの話通りなら、森の奥まで行かなければ安全だろうということで、俺とライム、イコナとライムの分体に分かれて食料集めをしているわけなんだが……さっきからずっとこの調子でライムは不貞腐れていた。
「そもそも、ライムを通じてじゃないと連絡を取り合えないんだから仕方ないってことで話はついただろ? イコナを変装させておくために分体についてもらってる以上、俺とライム本体で組んだほうが効率的なのは間違いないんだし」
「ぐぬぬ……わかっとる。わかっとるけど、ソレはソレ、コレはコレや」
はぁ……何回同じやりとりを繰り返せば良いんだか。
ちなみにライム本体を俺と組ませたのはイコナと二人きりにしたら暴走しかねないから、と言う理由もある。
まあ念には念を入れといたほうが良いってもんだろ?
「ハイハイ、ソウデスーーん? 今、何か聞こえなかったか?」
「なんや? 魔物の鳴き声でも聞こえたか?」
「いや……女の子が泣いてるような気がしたんだけど、まさかイコナに何かあったとか!?」
「お嬢に何かあったら分体から連絡があるはずや。今のところそういうのは無いから、お嬢は大丈夫なはず。もし、坊主が聞こえたんがホンマに女の子の声やったとしたら……ワイら以外にもこの森に入っとる奴がおるっちゅうことになるな」
「俺達以外の誰か……ねぇ。だとしたらエルフって可能性が高いか」
「せやな……なあ坊主。ワイ、良いこと思いついたで」
「なんだよ。そんな思わせぶりなこと言って」
「ホンマにエルフ族の女の子が泣いとるんやとしたら、そりゃ困っとるってことになるやろ?」
「……まあ、普通に考えたらそうだろうな」
「せやったら、チャンスやと思わんか?」
チャンス? エルフの女の子が困ってたらチャンスだなんて……どういうことだ?
「なんやキョトンとして。まさかわからんのか? にっぶいやっちゃなホンマに〜」
「悪かったな! というかそんなに焦らさずにとっとと教えてくれたって良いだろ!?」
「はぁ……しゃーないなぁ。よーするにやで? 困っとるエルフ族の女の子を助けたとしたら、その子の親、ひいてはエルフ族全体から良いやつやって思われるかもしれんやろ? そうなりゃエルフ族からの警戒も解けて、ワイらの目的達成に近づくっちゅうわけや」
なるほど。それに助けた子に風の国まで案内してもらうこともできるだろうし、確かにこれはチャンスだな。
「困ってる人の弱みにつけ込むみたいでちょっと気が引けるけど、この際そんなこと言ってられないしな」
「いやいや、あっちを助けたんやから次はワイらが助けてもらう。つまり、ギブアンドテイクってやつや」
「……まあそうとも言えるのか」
時々ライムは本当にスライムなのかと疑ってしまう自分がいる。
……まあライムはここまで単身で旅してきた経験があるからこそ、ってことにしとこう。考えても仕方ないし。
「そうと決まれば早速その子を探しに行こうや。ほれ、どっから聞こえたんや、坊主?」
「な、待った待った。そもそも本当に女の子の声だったかも怪しいし、俺の聞き間違えかもしれないんだぞ?」
「だーっ! ウダウダうっさいやっちゃなぁ! 良いから聞こえた方教えんかい!」
「うわっ! 人の頭の上で暴れんなって! あっち、あっちの方から聞こえたはずだ!」
「あっちやと……森の奥の方やないか?」
「ああ、そうだったはずだ。だから下手に行かないほうが身のためじゃないか?」
「何言うとるんや。冒険せぇへん奴にお宝が手に入るわけないやろ?」
「それは……そうだけど、でもーー」
「でもも、へったくれも無い! 良いから行くで!」
「痛たた! わかった! わかったから髪の毛引っ張るのやめろ!」
「お? ようやっと覚悟決めたか。な〜に悪い話だけや無いはずやで。考えてもみぃ? 坊主がその子を助けたら『キャーレストさん素敵ー!』とかなるやもしれんやろ? それにエルフ族は美男美女が多いとか聞いたしなぁ」
「いや別にそんなつもりはーー」
「ええからさっさと走る!」
「わかった走れば良いんだろ!? 走れば!」
「うひひ……これでホンマにエルフ族と仲良くなれればお嬢もきっと……そんでもってそのまま……うひひ」
「何か言ったか?」
「な、なんでもない! ええからはよ例の女の子を見つけるんや!」
ったく、このスライムは本当に……いつか鍋で煮込んでやろうか。
〜ライムの意識通信記録〜
本体「ふっふっふ、我ながら完璧な作戦やで」
分体「ホンマに上手くいくんかいな?」
本体「そりゃ上手くいかせるに決まっとるやろ? まずはこのまま坊主がエルフ族の女の子を助けて、その子に惚れられる」
分体「んで、その女の子が美少女であるとして、坊主もその子に惚れる、と」
本体「せやせや。そしたらお嬢もエルフ族と仲良くなれるはずやから、きっと喜んでくれる」
分体「んで、おまけに坊主がお嬢から離れるからワイがお嬢を独り占めにできるっちゅうわけやな」
本体「せやせや……ってお嬢を独り占めにするんは本体のワイに決まっとるやろ!?」
分体「何言うとんねや! 本体やからってあんま調子に乗っとると、痛い目見せるで!」
本体「なんやと!?」
分体「やるんか!?」
テラーノについて行った分体「お嬢の側にいられるってだけで充分羨ましいと思うワイ。泣きたい」




