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人と竜の成長譚 〜ポンコツかわいい竜娘に今日も翻弄されています〜  作者: 蒼遊海
第二章 風の国ボスコヴェント編
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第十四話:竜も山から落ちる

「……よし。無事に下山完了っと」


 歩いてたらいつの間にか走り出してしまうみたいな急斜面じゃなくて助かった。こちとら飯食った直後だからな。

 まあ頂上から麓まで降りてるうえに、途中デコボコしてたり、木を掻い潜ったり……とにかく歩き辛かったし、腹ごなし……どころじゃない運動をしたな、うん。


 そんなこんなで斜面を降りた先には草原が広がっていた。

 見渡す限り、草、草、たまに花や小さな岩。


 そんな広大な草原の先に例の大木『神樹』とそれを取り囲む大樹海『マナフォレスト』が見える。


 ……山の頂上から見るよりも遥かに迫力あるな。

 さっきまではマナフォレストはだだっ広い森林ってくらいにしか思ってなかったのに今は全然違う。


 なんと言うか……まるで神樹へと近づく者を拒むかのような雰囲気を感じる……ような気がする。


 ただの森だったらこんな感想抱かないだろうし、先生が来たがってたのも、まあわからなくは無い……かな?


「さて、肝心のイコナ達は……まあ無事ではあるみたいだな」


 辺りを見渡してみると、岩にもたれかかって座りこんでいるイコナの姿が見えた。その横にライムもいる。


「お〜い二人とも無事か〜?」


 正直、そこまで心配していなかったのでゆっくりと歩み寄って行く。


「坊主か。遅かったなぁ」

「あんな下り方ができるのはお前くらいだからな」


 あんな悪路も滑って行ったってことは、ライムは意外と運動性能が高いのかもしれない。


「なんや、坊主かて転がり落ちるくらいはできるやろ?」

「アホか! 指輪のおかげでダメージを抑えられるとはいえ、山の頂上から麓まで転がり落ちるのはゴメンだ!」


 前に転がり落ちた経験あるしな。あんなのは一度で……いや、できるなら一回も経験したくないもんだ。


「で? イコナは大丈夫だったんだろ?」

「当たり前や! お嬢はそんじょそこらの奴とは違って丈夫やからな!」


 ライムはその小さい体を精一杯ふんぞり返らせた。


 そういう仕草だけなら可愛いもんなんだけどなぁ。


「せやけど、さすがのお嬢でも頂上から転がり落ちたのは堪えたらしゅうてな? とりあえずワイがそこの岩まで引っ張って来たんやけど……見ての通り、今はまだ気絶中ってわけや」


 ……そういえば、あの時は軽く目眩を起こす程度だったのに今回はガッツリ気絶しちゃったみたいだな。


「イコナ? 大丈夫か〜?」

「……」


 返事無し、と。こりゃしばらくは起きそうにないかな?


「どうしようも無いし、イコナが起きるのを待つとするか」

「せやな。じゃあお嬢が風邪ひいたらアカンし、ワイが布団代わりに……」


 うへへ……と変な笑いをこぼしながら、ライムがイコナへとにじり寄っていく。


「まあ待てライム。もしイコナに変な事をしたら……どうなるかわかってるよな?」


 わざとらしくライムへと声をかけると、ライムはビクッとして俺の方へと振り返った。


「わ、わかっとるわい! 遅かれ早かれじっ様に報告するんやろ? ワイかて、気絶しとるお嬢に変なことしようなんざ思うとらんわい!」


「本当かぁ?」


 さっきの言動といい、あからさまに怪しかったぞ?


「当たり前や! このつぶらな瞳が嘘をついとる様に見えるか!?」


 いや見えるも何も、そもそも目が無いだろお前……。


「とにかく、イコナが気絶してる間に魔物が寄って来たりでもしたら大変だから、見張りをしよう。この辺りはほぼ平野だし、何かいたらすぐ気づけるだろうからな」


「いざとなったら、坊主が囮になっとる間にワイがお嬢を連れて逃げるから安心してええで」


「……お前ってやつはホントに……」


 でも悔しいことにそれが一番妥当な作戦なんだよな……。


 それはそれとして、このドヤっとしているスライムをぶん殴りたくなった俺は間違っていないと信じてる。



 ♢♢♢



「う、う〜ん。アレ? 私、どうして……」


「お? 起きたかイコナ」

「お嬢ー! ワイは、ワイは心配で心配で……」


「ら、ライムちゃん? どうしたんですか? そんなに慌てて」


 イコナが目を覚ますなり、ライムはイコナへと飛びついた。

 そのままイコナに抱き抱えられ、イコナの腕の中で、心配したとか、目を覚まして良かったとか、とにかくワンワン泣き始めた。


 にしても大袈裟な……イコナが気絶してる間、ずっとソワソワしてたから心配してたのは本当だろうけど。


「崖から転がり落ちたのは覚えてるか?」

「あ、ハイ。覚えて……ます……」


 泣き続けるライムを撫でながら、イコナは申し訳なさそうな顔をしていた。


「その後をライムが追って、崖の下で気絶してたイコナを見つけてここまで連れてきたんだ。で、そこに俺が合流して、お前が起きるのを待ってた。とりあえずそんな感じかな」


 俺の説明を聞いたイコナはキョトンとしていた。


 あ〜もしかしてまだ気絶してた影響が残ってるのか?


「え、えっと……ごめんなさい。まだ頭がクラクラしてて……」

「ああ、まあ無理もないだろ。さっきまで気絶してたんだし。それなら、もう少しゆっくりして、イコナが元気になったらマナフォレストを目指すとしようぜ。な?」


 イコナへと優しく微笑みかけると、彼女もまた微笑んだ。


「はい。ではお言葉に甘えて、もう少しゆっくりさせてもらいますね」

「おう。まあ良い機会だから、そろそろゆっくり落ち着いて動くって事も覚えてくれよ?」


「うっ、ど、努力します……」


 イコナは苦笑いを浮かべながら、そっぽを向いた。


 まあなんというか、慌ただしいほうがイコナらしいとも言えるけど……この先、それで大惨事になりました〜なんて事になったらどうしようも無いからな……釘は刺せる時に刺しとこう。


「さて、イコナの回復を待つ間に、ライム? さっきの神樹とか、マナフォレストの話の続きをお願いできないか?」


「嫌や」


 ライムはイコナに顔を埋めたまま(帽子の向き的にそのはず)即答した。


「嫌……って、何でだよ?」


「ワイは今、とても、と〜て〜も、大事な時間を過ごしとるからや」


「……なんとなく察しはつくけど、そんなに大事ってのは一体何なんだ?」

「んなもん決まっとるやろがい! お嬢の温もりを全身で感じる貴重な時間や!」


 うん、知ってた。


「あ、あはは……えっと、レストさん? どうせここからマナフォレストまで、まだ遠いですし、説明は歩きながらしてもらう事にしませんか?」


「……はあ。イコナも甘いな……まあいいや。俺も山下りで疲れたし、とりあえずのんびりしようか」


「あ、良かったら尻尾枕しましょうか?」


 片腕をライムから離し、イコナは自分の尻尾をポンポンしながらニコニコしている。


「い、いやいい。念のため見張りをしてたほうが良いだろうから、そこら辺に座っとく」


「そうですか? わかりました。もし、して欲しくなったら言ってくださいね〜」

「気持ちは嬉しいけど、イコナ自身が元気になってもらわないと先に進めないんだからな?」


「おっと、それもそうでしたね」


 あはは、と苦笑いするイコナを背中にして、俺は小さな石を椅子代わりにして腰を下ろした。


 ……尻尾枕……確かに寝心地はなかなかのものだったけど……ダメだ。思い出しただけでもなんか恥ずかしくなる。


「でも、やっぱり……あの弾力と鱗の滑らかな感触は……」


「レストさん? 何をぶつぶつ言ってるんですか?」

「な、なんでもない! とにかく、見張りはしとくからイコナはゆっくり休んでくれ」


「……? ん〜わかりました」


 あ、危なかった……思わず口に出しちまってたか。でも、あのなんとも表現しがたい絶妙な感触は忘れられない……。


 いやいや、今はとりあえず見張りだ、見張り。もしもがあったら困るからな。いつも戦闘とか、そういうのはほとんどイコナに任せっきりだし、これくらいはやらないと。


 ……そう考えると、イコナと今はここにいないけどヴォルのありがたみが、改めてわかった気がする。

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