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人と竜の成長譚 〜ポンコツかわいい竜娘に今日も翻弄されています〜  作者: 蒼遊海
第二章 風の国ボスコヴェント編
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第十三話:エルフの森【マナフォレスト】

「ご馳走様でした!!」


 満面の笑みを浮かべるイコナの前には空き皿がいくつも並んでいた。

 皿に乗っていた料理は跡形も無く綺麗に平らげられている。


 ここまで綺麗に食べてもらえたら作り甲斐もあるってもんだ。

 まあでも、これだけ大量に食べるイコナを見ると……出発前に陶器(っぽくは出来てる)皿を多めに作っといて正解だったと常々思うな……。

 テラーノが協力してくれたおかげで綺麗かつ強度のある物をいっぱい作れた訳だし、テラーノ様々だ。


「ふ〜、やっぱりレストさんのお料理は美味しいですねぇ。いっそお店とか出したりしてみませんか?」


 そう言うイコナは尻尾をパタパタ振って上機嫌なご様子。

 その一方でイコナの尻尾に触手をくっつけて食事代わりに魔力補給をしていたライムは、振り回されないようになんとか踏ん張っていた。


 ここに来るまでにも何度か見たから、もう既に見慣れた光景だったりする。


 ……ライムはいつもの事として、ああ言ってくれるのは嬉しいけど、俺が作ってるのは味付けした肉の丸焼きとか、鍋でごった煮しただけとか、料理といえば料理だけど野性味が強い料理だから万人受けするかと言われたら怪しいんだよなぁ……。


 そもそも俺は人と話したりするのが得意なわけでは無いし、接客とかできる自信が無い。


「褒めてくれるのは嬉しいけど、俺には店を出せるほどの実力は無いぞ?」


 俺の返事を聞いたイコナはどうにも腑に落ちないといった様子を見せた。


 ただ、そう見えたのはほんの少しの間だけで、何か閃いたらしく、ピクッとした後ににこやかな笑みを浮かべていた。


「それなら私もお手伝いします! お料理の事は……よくわからないですけど、お客様にお料理を持って行ったりするくらいはできますよ!」


 ノリノリでそう語るイコナはとても楽しそうだ。


 確かにイコナの底無しの明るさを持ってすれば接客の雰囲気は完璧だろうな。

 変なことを口走らなければ可愛いんだし……って何を言ってるんだ俺は!?


「実は私、そういうの憧れてたんですよ〜。おじいちゃんに聞いたんですけど、お料理を運ぶ女の人は可愛い服を来てお仕事するんですよね? どんな服なのか気になって気になってーーって、レストさん? なんだか顔が赤いですよ?」


「こ、これはその……アレだ! これだけの料理を作ったのは久しぶりだったから、体が熱くなっちゃってさ〜アハハ……」


「そうなんですか? 私はてっきり熱々のお肉で火傷でもしちゃったのかと……」

「火傷したとしても普通は顔が赤くなったりしないだろ」


「……それもそうですね〜。いや〜うっかりしてました」


 この調子で本当にイコナがウェイトレスをやったとしたら……絶対何かをしでかすだろうな。


 どのみちそんな機会が来るのはこの旅が終わった後だろうけど。

 そう言えば、この山の頂上から風の国が見えるってライムが言ってたはずだけど……見たところそれらしき場所は見えないな。


 見えるのはせいぜい森というには広すぎるほど広大な大樹海と、その中央にそびえ立つ巨木くらい……か。

 巨木とは言ったけど、アレは本当に木なのか? 山みたいにデカいんだけど……。


「なあライム。ここから風の国が見えるはずって言ってたけど、どこにあるんだ?」


 ライムへと目を向けると、なんとも嬉しそうな様子でイコナの尻尾から魔力を補給していた。

 イコナの魔力はこの上ないほど美味しいからいつまでも吸っていたい、とか言ってたけど本当はイコナにくっついてたいから、ああしてるだけなんじゃなかろうかと最近思ってる。


「なんや坊主。ワイの至福の時間を邪魔する気か? ああん?」

「そんな気は無いから安心してくれ。気が済んだ時に教えてくれればいいさ」


「ほう? 今日はえらい素直やんけ。なんか調子狂うわぁ」

「ほっとけ」


 せっかくこんなに眺めが良い場所にいるんだから喧嘩するだけ損ってもんだろ?


「まあええわ。ワイもそんなに心が狭いわけやないし、答えたる」


「そりゃどうも。んじゃ改めて、どこに風の国があるんだ?」


 ライムはもう一本触手を出して、さっきの巨木を指差した。


「あそこにデッカい樹が見えとるやろ? アレを中心に広がってる森全部が風の国、ボスコヴェントそのものみたいなもんや」


「……嘘だろ? いくらなんでも広すぎないか?」


 土の国だってかなり広かったのに、その倍以上はあるんじゃないか?

 風の国って言うくらいだから、こう……風が吹き抜ける広大な街、みたいなのを想像してたのに、アレじゃまるで樹の国じゃないか。


「まあ正確に言うと、あの大木の麓から広がってる空間が見えるやろ? あそこが風の国なんやけど、そこに住んでる魔族の大半を占めるのがエルフ族なんや。んでエルフ族っちゅうのは森と共に暮らす種族って事で有名でな。そういう訳やから周りの森も事実上は風の国の領土ってわけやで」


 言われてみれば……あの山みたいにデカい大木の生えてる付近には、大きな木の無い空間が円形に広がってるのが見える。

 そこの空間に木造の建物らしき何かが建っているのも見えるな。


 さすがに遠すぎて何なのかまではわからないけど、ぱっと見は田舎の集落って表現が似合いそうな感じか。

 田舎の集落っていうにはちょっと規模がデカい気もするけど。


「なるほど〜私もあのおっきな樹が気になってたんですけど、あの樹を中心に広がってるなら、あの樹は風の国のシンボルみたいな物……なんですかね?」


「おっ! ええところに気づいたなお嬢。 あのデッカい大木はシンボルどころか風の国にとって……あ〜いや、正確にはエルフ族にとってって言ったほうがええんやったか」


 ん? なんか引っかかる言い方だな? まるでエルフにとっては大切だけど国としては別にそうでも無いみたいな……?


「まあとにかくや、あの樹は『神樹』って呼ばれとるらしくてな。名前の通り、エルフ族にとってはえらい大切な樹らしくてな? エルフ族の中でも特に優秀な奴が大事ぃに世話したりするらしいで」


「ま、まさか……あの樹って神様だったんですか!?」

「いやいや、名前がそれっぽいだけでそんな訳ーー」


「残念やったな坊主。お嬢はあながち間違ってないで」


「嘘だろ!?」


 俺が驚きの表情を隠せない中、イコナは「お〜!」と感動していた。

 その影響か、またしてもイコナが尻尾を振り始めた。今度はライムも油断してたらしく少し浮かされてしまっていたが、なんとか踏ん張っていた。


 意地でも離そうとしないのは、いっそ感心するな。

 イコナからしてみれば興奮して無意識で振ってるだけだろうけど。


 まあライムはいつも楽してるんだし、たまには苦労してもらおう。

 決して憂さ晴らしでは無い。断じて無い。


 それはそれとして、あの大木だけど……。


「なあライム。あの樹……神樹って結局なんなんだ?」

「私も気になります!」


 ふっふっふと笑いながら、いかにもな雰囲気を作り出したライムは自慢げに話し始めた。


「どうやら、百年以上かけて水の国近くにある生まれ故郷から遥々旅してきたワイの知識が役立つ時が来たようやなぁ」


 俺達に会うまではただのマジックスライムだったのにここまで良く生き延びてこれたな……知識以前にそっちに驚いたぞ。


「まずは、神樹を中心に広がるあの森から説明するで」

「森? ただのだだっ広い森じゃないのか?」


「何言ってるんですか、レストさん! 神樹って呼ばれる、なんだか凄そうな樹を中心に広がる森なんですよ!? 絶対凄い秘密があるに決まってるじゃないですか!」


「お、おう。それもそう……だな」


 目をキラキラ輝かせて楽しそうで何より。ただ勢いが強すぎますぜ、イコナさん。


「お嬢もかな〜り気になるようやな。そんでもってお嬢の言う通りあの森はただの森やない。凄い森なんや」


「おお! やっぱり凄い秘密があるんですね! レストさん、私ワクワクしてきました!」

「わかった、わかったから尻尾でペシペシするの止めろって」


 キャーキャー騒ぐイコナを見て「ああ……生きてて良かったでぇ……」とライムが呟いていた。


「で? 結局のところ、あの森はどう凄いんだ?」


「まあそう急かすなて坊主」


 急かさなかったらいつまでもイコナに見惚れてただろお前。


「まず始めにあの森の名前は『マナフォレスト』っちゅうんやけどな」


「マナフォレスト! 名前からして凄そうですね!」


「せやろせやろ? ワイも故郷の長から聞いて絶対ここに来たいって思ってたんや。せやからお嬢達に会う前に一回寄ったんやけどな。聞いてた通り凄いところやったんや〜」


 うっとりと話してるところ悪いんだけど未だに何が凄いかわからないんだが?

 それにライムの故郷の長って一体……? スライムと話すような人がいたのか? 


 ……よく考えたら人じゃなくて魔族だろうから、まあおかしくは……無い、のか?


「あそこは魔力がとんでもなく豊富でなぁ。いっそのこと住んだろうかと思うくらいやったんや」


「魔力が豊富……か。魔族領域でもそういう所は珍しいもんなのか?」


「当たり前や! マナフォレストは魔族領域の中でもずば抜けて魔力が豊富な場所、坊主だって魔法を使う身なら聞いたことくらい無いんか?」


 そういえば……テアト先生がいつか行ってみたい場所があるとか言ってたような……どこかにあるっていう魔力がとても豊富な森って言ってた気がするし、もしかしたらマナフォレストの事を言ってたのかな。


「そうは言っても、俺は人間だぞ? いくら人と魔族の交流が増えてきてるとはいえ、俺達人間は魔族領域に関して言えば、まだ知らない事のほうが多いんだよ」


 交流があるって言っても、だいたいは土の国と水の国くらいだって聞くし……そう考えるとこれから行く風の国は本当に未知の領域ってやつだな。


「ふ〜ん、そんなもんかいな。まあワイも人族の領域には行った事無いからわからんのと似たようなもんやろなぁ」

「そうだな。だからもっと詳しく教えてくれないか?」


 ライムは嬉しそうな、それでいて少し気恥ずかしそうな様子を見せた。


「ま、まあ? 坊主がどうしてもっちゅうんなら? 教えてやらんこともないで?」

「ふふっ。レストさんとライムちゃんが前より仲良くなれたみたいで、なんだか私も嬉しいです」


「もちろんやでお嬢。ワイは寛容やからな。まあ今後もよろしゅう頼むで坊主」


 まったく、コイツはすぐ調子に乗るんだからなぁ……それさえなけりゃまだ可愛いものを。


「ああ、よろしく頼むよ。もしライムが気になるなら人の国がどんなもんか教えるぜ?」


「そやなぁ……まあ考えとくわ。どうせなら何も知らないまま自分の目で見てみたい気ぃするしなぁ。っとマナフォレストの説明が途中やったな」


 何も知らないまま自分の目で見てみたい……ねぇ。スライムのクセにカッコつけたこと言うじゃないか。


「マナフォレストは別名、迷いの森とも呼ばれとってな。エルフ族に危害を加えようとする輩とか、そういう悪意ある奴は森の奥に行こうとしても森の中で迷子になるか、いつの間にか森の外に帰されてしまうらしいんや」


「迷いの森……ですか。ちょっと不安になってきました……」

「そこは大丈夫やて、お嬢。ワイらは別に悪さしに行く訳やないんやから」


「で、ですよね!? とにかく、エルフさん達に悪く思われないよう気をつけます」


 迷いの森か……多分それも魔法によって作り出されたんだろう。


 悪人だけを強制的に迷わせる、そんな高度な真似をあんな広大な森全体でやるなんて……エルフの魔法技術は魔族の中でもトップクラスだってテアト先生から聞いた覚えがあるけど、本当にそうみたいだな。


 テアト先生がいつかエルフと話をしてみたいって言ってたのも納得だ。


 というか、そんな魔法が無くてもイコナなら勝手に迷いかねないから今まで以上に気をつけないとな。


「ちなみに生半可な実力しか無いやつなら迷ってる内に魔獣に出会してそのまま殺されるとかいう噂やで」


「イコナ、ホントに気をつけてくれよ!?」

「大丈夫ですよ〜私はおじいちゃんに鍛えられてますから〜」


 のほほんとしてるけど、そういう問題じゃないんだよなぁ。


「あそこは魔力が豊富やから魔獣もそんじょそこらにおる奴らとは比べ物にならんからな。お嬢なら大丈夫やと思うけど、念のため気ぃつけてや」


「ライムちゃん……わかりました。私がみんなを守ってみせます!」


 意気込みは充分だな。いざとなったら俺も頑張らないと……ヴォルの牙が生え変わる時期がちょうど来てて良かった。

 おかげで俺の腰には、その抜けた牙を元に作ったダガーっぽい武器があるからな。


 ……できればコレが活躍するような状況にならない事を祈るけど……。


「それじゃあ、そろそろ出発するか? イコナもやる気充分みたいだし」

「はい! エルフさんと仲良くなるのが楽しみです!」


 また目的すり替わってるよ……でもまあ、エルフと仲良くなって魔法のコツとか教えてもらえればイコナにとっても良い経験になりそうだし、それはそれでいっか。


 できれば俺もエルフと仲良くなってテアト先生への土産話を作りたいな。

 テアト先生、うらやましがるだろうな。今から楽しみだ。


「せやなぁ。お嬢がそう言うのなら後の説明はマナフォレストに向かう道中でしよか」


「まだ注意することがあるのか?」


「せや。お嬢にはちぃと悪いんやけど、そもそもエルフは自分達の種族と、後は同じように森との関係が深い種族以外にはどっちかというと冷たい奴らやからなぁ。それに神樹の説明もまだやし……まあそこら辺はおいおい話すわ」


「うぅ……私、エルフさんと仲良くなれないんでしょうか?」

「そんなにしょんぼりするなって。やってみなくちゃわからないだろ?」


「坊主の言う通りやで。まずは挑戦あるのみ! ってな〜」


「……そうですね! そうと決まれば、いざ風の国へ! 私について来てください!」


 気持ちを新たに、イコナは元気よくマナフォレストへ向けて走り始めた。


「あっ! おいイコナ! その先はーー」

「ふぇ? なんですーーって、キャアアア!!」


「イコナ!!」 「お嬢!!」


 走っていたイコナがこちらに振り向こうとした瞬間、俺の視界からイコナがふっと姿を消した。

 それもそのはず、イコナが向かった先には崖があったのだ。


 慌てて俺とライムが崖の下を覗くと、すぐ下が斜面になっていたようで、ゴロゴロと転がり落ちていくイコナの姿が見えた。


「お嬢ー!! 今行きまっせー!!」

「あっ! 待てライ……ったく、ペットは飼い主に似るってことか?」


 俺の静止も聞かず、ライムは崖に飛び出し、板状に姿を変えてそのまま滑り落ちていった。


「……先が思いやられるなぁ」


 いくら指輪のおかげでとてつもない防御力を持っているとはいえ、ここを転げ落ちるのは嫌だし、慎重に降りるとしようか……。


 正直に言えば前にも同じような事があったんだから学習してて欲しかった。

分体「なあじっ様。あんな誰も居ないようなとこに住んどったのに、なんで店のことなんか知っとったんや?」

親バカ竜「昔、ロンに招待されて土の国に行った時に料理屋に連れてかれてな。その時に見たんじゃよ」


分体「じっ様……友達おったんかいな」

親バカ竜「それはどういう意味じゃ? うん?」


分体「い、いや〜じっ様は誰とも群れない、孤高の強者〜みたいなもんやと思ってたんやて、あ、アハハ……」

親バカ竜「……まあ今回は良しとしてやろうかのう」


もふもふ「くぁ〜……わふ」(我関せずの態度)

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