第五話:子が親に似るか、親が子に似るか
……空気が重い。全身から冷や汗が溢れる。心臓が張り裂けそうだ。
これが竜族、ただ上から見下ろされているだけだってのに。
……いや、違うな俺はアイツの眼中にすら入っていない。
つまり相手はそこにいるだけ。それだけなのに俺は今ここで死ぬ。そう思わせられるほどの存在。
「おじい、ちゃん……」
この竜がイコナの爺さん……? 存在感がイコナと違いすぎるだろ。
瞬間、空から降りてきた竜は人の姿に変わった。
ぱっと見はただの爺さんだ。しかし赤い長髪とイコナの倍はある身長、極め付けに身に纏った強大な魔力がただ者ではないことを示していた。
その顔は険しいままにゆっくりとイコナに歩み寄る。
「わ、私は……」
イコナは怯えた表情ですっかり縮こまっていた。これからの事を考えて何か言い訳をしようとしたんだろう。
しかし、老竜にとってそれは何でもない事のようで
「心配したんじゃぞ〜! イコナぁぁ! 帰ってこないから、もしかしたら人間共に酷い目に遭わされてるんじゃないかとか、道に迷って泣いているんじゃないかとか、お腹空かせてないかとか……」
老竜は安心した顔のまま泣くという器用な真似をしながら、イコナに抱きつき心配した心配したと騒ぎ始めた。
このままいくと夜になっても続きそうな勢いだ。
……この娘にしてこの爺さんなのか、それともその逆か。俺の気苦労を返して欲しいぜ……全く。
「イコナぁぁ……ワシの可愛い孫よぉ……無事で良かったんじゃ……本当に……」
イコナは困惑した表情で固まっていた。
話を聞く限りではおじいちゃんはかなり厳しいみたいだったもんな。それなのにコレだとそりゃそうなるか。
「おじいちゃん、その……心配かけてごめんなさい……」
「よい……よいのじゃ、お前が無事ならのう」
老竜の逞しい腕がイコナを優しく包んでいく。慎重に、だが決して離さないと言わんばかりに。
その顔にはただ孫娘を思う優しい老人の面影が浮かんでいる。
そこからは先程までの威圧感も恐怖も感じなかった。
俺のジイさんもあの老竜がイコナを思うように俺のことを思ってくれてんのかな……。
『ジイさんといえば、早く学園に帰らねえと……』
今なら気づかれずにここから逃げられるはず…そうと決まれば早いところ逃げてーー
「人間、どこへ行くつもりだ?」
……まあそう上手くは行かないよな。
冷たい視線が突き刺さってくる。その影響か足が動かない。そもそも竜族から逃げ切れるって思ったことが間違いだったか?
「お前に恨みは無い。しかし、もしも光竜を見たと噂を広められ、騒ぎになってもらっては面倒じゃからのう。悪いが口封じをさせてもらうぞ。」
老竜の口元から炎が漏れているのが見える。あれは、ブレス……だろうな。
「待ってください!!」
「……イコナ。そこをどきなさい」
「嫌です! 絶対に嫌です!!」
イコナが両手を広げ、俺と老竜の間に立ち塞がっている。その頬に一筋の光が伝い落ちていくのが見えた。
「この人は、レストさんは……私の、大事な友達ですから!!」
そう叫ぶイコナの体は、大きく震えていた。




