第十一話:未来へ向けて
作戦会議から数日経った日の早朝。
俺達はテラーノの住処から旅立つ時を迎えた。
そんなわけで今はイコナの部屋で出発前の最終確認中、なんだけど……
「本当に良いのか? あんなに楽しみにしてたのに」
「……はい。正直に言えば寂しいです。でもヴォルちゃんが自分で考えてそう決めたのなら、私はそれで良いんだと思います」
イコナは微笑んでいた。だが、その微笑みはいつものように明るい訳ではなく、どこか陰を感じるものだった。
せっかくの旅立ちの日だっていうのにこんなに暗い空気になってるのは、間違いなく昨夜の出来事のせいだな。
「そうか……それにしても、テラーノはテラーノで急にどうしたっていうんだろうな。別に一人でも平気なタイプだと思ってたのに」
そう、テラーノが急に一人で残るのは寂しいからヴォルとライムの分体を置いていって欲しい、と言い出したんだ。
ライムの分体に関してはテラーノと一緒にいればいつでも本体と分体を通して連絡が取れるってことで良いんだけど、なんでヴォルまで……。
特訓してたら愛着が湧いたとか? なんにせよ、せっかくイコナがヴォルと契約できたっていうのに、また離れ離れになってしまうのはかわいそうだ。
「わかりません。でも、ヴォルちゃんがおじいちゃんと仲良くなってくれてた事は本当に嬉しいんです。だからーー」
「だから自分は構わないってことか?」
「そう……ですね。それにおじいちゃんの側にヴォルちゃんとライムちゃん……の分体が居てくれるなら、おじいちゃんが一人でいるよりも安心できますし」
「……そっか、わかったよ。イコナがそう言うのなら俺もこれ以上は何も言わないでおく」
「ありがとうございます。レストさん」
とは言ったものの……なんか引っかかるんだよな。
これから先は本格的な旅になるから、長い間テラーノはイコナと離れ離れになる。だからテラーノが寂しくなるってのはわかるけど……まあ考えても仕方ないか。
♢♢♢
最終確認を終えた俺達は、まだ薄暗い外で待っていた他のみんなと合流して、いよいよ出発しようとしていた。
「ついにこの時が来たか……既に何度も言ったが、これから先の旅は土の国へ行った時とは比べ物にならん。くれぐれも用心するんじゃぞ」
テラーノいわく、土の国へ行ったのはおつかい程度の感覚で、これからが本格的な旅になるとの事。
まあ確かにそうだよな。ここからはより遠い国に行く事になるし、土の国ではなんだかんだロンが助けてくれた。
でもこれから先で頼れるのは自分達だけ。正直に言えば不安だ。
「はい。レストさんやライムちゃんと協力して、必ず全ての聖竜石にお祈りして無事に帰ってきます!」
実際はただお祈りするだけじゃなくて、聖竜石から魔力を分けてもらってるんだけどな。
この事を知らないのはイコナだけだ。ライムはイコナの秘密も、旅の本当の目的も知っている。
テラーノは悩んだ末に、ライムはイコナを傷つけはしないって意味では信用できるってことでライムに全てを話すことに決めたんだとか。
「くれぐれもイコナの事をよろしく頼むぞ。レスト、ライム」
「ああ、任せてくれ。と言っても俺にできることは少ないけど……まあイコナが危ない橋を渡るハメにならないように努力するよ」
「レストさん、それどういう意味ですか?」
イコナはムスッとした顔で俺を見ていた。
「そのままの意味だ。俺がいないと、すぐ変なことに首突っ込むだろ?」
「そんなこと……無いです!」
ちょっと間が空いたのは、ある程度自覚があるって事か? だとしたらもう少し自重して欲しいな〜?
「ワイはお嬢が危ない目に合いそうになったら、例えこの身が滅ぼうともお嬢を守るで! だから安心してや!」
ライムは大きく体を反らして(といっても球体だから上の帽子部分が後ろに傾いた程度)自慢げにしていた。
「ら、ライムちゃん。気持ちは嬉しいですけど、自分の体は大事にしてくださいね?」
「お嬢、この身はお嬢がいなければとうの昔に終わってたんや。だからこそ、お嬢のために散るなら本望やで!」
イコナはライムの気迫にたじろぎ、どう反応したものか困っていた。
はぁ……何やってんだか……仕方ない助け舟を出そうか。
「その辺にしとけ。ライムの心意気はよ〜く伝わったから。でもな、もしライムが本当に死んだらイコナが悲しむだろ?」
「そ、そうですよ! ライムちゃんがいなくなるのは嫌です!」
イコナのハッキリとした言葉を聞いて、ライムも一旦は落ち着いたように見えた。
「お嬢……せやな。ワイはお嬢の助けになることを誓った身。やのにお嬢のことを困らせてしまうとは……死んで詫びます!」
「だから死ぬなって言ってるだろ!?」
「ん? ああ、すまんすまん。ワイが本体やってこと忘れてたわ。分体だったら使えるブラックジョークみたいなもんなんやけどな〜」
ライムは軽快に笑っていたけど、他の全員は呆れていた。
自分が本体ってこと忘れんなよな……というか分体は分体で自分が死ぬことをネタにするな。
……いや、分体だから仮に消滅したとしても別に問題なかったりするものなのか?
「まあ、とにかくだ。このままじゃいつまで経っても出発できそうにないから、そろそろ出発しようぜ?」
「そう、ですね。では……ヴォルちゃん、おじいちゃんの事をよろしくお願いしますね」
「わふ……」
イコナはヴォルの頭を優しく撫で、ヴォルは名残惜しそうな顔をしていた。
ヴォルも離れたくは無いんだろうな。それでも残ることを選んだのは……一体テラーノと何を話したんだ?
「昨日も話したがこれから先の旅こそが本番じゃ。くれぐれも気をつけて行くのじゃぞ」
「はい。おじいちゃんも、お元気で……」
イコナとテラーノは静かに見つめ合い、互いに小さな笑みを浮かべた。
「別れの挨拶は済んだか? さあ出発だ! テラーノ、約束通り大きいのを一発頼んだぞ!」
「……ああ、任せておけ! 可愛い孫の門出……笑顔で盛大に送り出してやるのが親心ってもんじゃ!」
「え? ど、どういうことですか? レストさん」
「まあ見てろって」
イコナに微笑んだ後、上空を見つめる。
イコナも俺に倣って空を見上げていた。
「次に会える日を楽しみにしておるぞ! 達者でな!!」
テラーノの掛け声と共にその口から一つの小さな火球が打ち上がった。
その火球はゆらゆらと揺れながらゆっくり空へと昇っていき――
ドーン! と大きな音を響かせながら、炎でできた大輪の花を咲かせた。
「……綺麗」
さすがテラーノ。ちょっと教えただけでここまで再現するとは。
「門出にはバッチリだろ? 人間はこうやって『花火』っていうのをあげて色々な祈りを捧げたり、盛大に祝ったりするんだよ」
「ハナビ……とっても素敵ですね」
サプライズは大成功だな。すっかり見惚れてら。
テラーノも俺に向けてドヤ顔してるし、まあ今回はそれだけの事をやってるから俺もサムズアップでも返しておこう。
「レストさん、おじいちゃん本当にありがとうございます! 私、いっぱいいっぱい頑張りますね! それで残りの聖竜石全部にお祈りして、無事に帰ってこれたら……またハナビを見せてもらえますか?」
「もちろんじゃ! その時にはイコナも立派になっとるじゃろうからな。ワシも努力して次はもーっと凄いの見せてやるからのう。楽しみにしておきなさい」
「はい! そうと決まれば……レストさん、ライムちゃん全速力で行きますよ! まずは風の国、ボスコヴェントです! ほら早く早く〜」
さっきまでの寂しそうなイコナはどこへやら……まあこっちのほうがイコナらしくて良いか。
俺は傍らにいたライムを抱えて、我先にと走り出したイコナを追いかけ始めた。
「待ってくれよ〜こっちは荷物が多いんだ」
「おい坊主、それはワイのことや無いやろな?」
「気に食わないなら自分で歩いてきても良いんだぞ?」
「こっちがまともに走れんってこと知っとるからってコイツぅ! まあええわ。しばらくは頼りにさせてもらうで」
こうして俺達の旅は再開……いや、今度こそ本当の意味での旅が始まったんだ。
さあここからが本番です! ゲームで言うなら序盤が終わって基本操作に慣れたくらいのところですかね。
これからもよろしくお願いします〜




