第七話:少年は竜少女の苦悩を哀れむ
「うう、一体何が起こったんだ……ってここは?」
「やっと目を覚ましたのう、レスト」
「テラーノ……? ここはどこだ? 他のみんなは? そもそもなんで俺は寝てたんだよ?」
「一度に質問するでない。とりあえずこの水でも飲んで落ち着くんじゃ」
テラーノは近くの石台に置いてあった陶器っぽいコップを俺に渡してきた。
……水だ。何の変哲もないただの水。なのに不思議と凄く美味しく感じる。
「よほど喉が渇いとったんじゃな。起きてすぐなのに一気に飲み干すとは思わなんだわい。まだ、いるかの?」
「いや、もういいよ。ありがとう。それよりも何があったのか教えてくれないか?」
「ふむ、その様子じゃと、本当に覚えてないようじゃのう」
そんな落胆しなくても良いじゃないか。
覚えてないもんは覚えてないんだから仕方ないだろ。
「イコナのくしゃみでお主が吹き飛ばされて、そのまま山に激突したんじゃ。それはもう大きな窪みを作っておったぞ」
「嘘だろ? 竜族のくしゃみってのはそんなに凄いのか?」
「ハッハッハ! レストよ、本気にするでない。 正確にはイコナがくしゃみと同時に体内のほぼ全魔力を吐き出してしまってのう。まあつまるところ、お主は竜族のブレスに似た何かに巻き込まれたんじゃよ」
「……あ〜思い出してきたぞ。イコナがくしゃみをしそうになって、それで……ってほぼ全魔力を吐き出したって、イコナは無事なのか!?」
「そう飛び起きるでない。お主だって気絶しておったんじゃ。念のために安静にしておかねばならんのじゃぞ?」
「……わかったよ。大人しく寝とく。それで? 他のみんなは? まあ大体予想はつくけど」
「うむ。ヴォルとライムにはイコナを見てもらっているところじゃ。本当はワシもそっちに行きたかったが……」
おい、本音漏れてるぞ。そうじゃないかとは思ってたけど、いざ言葉にされるとちょっと傷つくからやめて欲しい。
「お主を運んで来たのはワシじゃしな。いざ目を覚ました時に誰もいなかったら混乱すると思うてのう」
「まあ正直、テラーノがいてくれて安心したよ」
「ふむ。それはなによりじゃ」
さてと、改めて見渡してみればここはテラーノの住処、その中にある俺の部屋みたいだな。このゴツゴツした感触のベッド、間違いない。ん? だとしたらテラーノも火を灯したりしてないのに、なんでこんなに明るいんだ?
「どうやら、ここが何処かは大丈夫そうじゃのう?」
「ん? ああ、俺の部屋、だろ?」
「うむ。ある程度は落ち着いたように見えるな……起きて早々悪いが、少し話があってな。大丈夫じゃな?」
なんか空気が変わったような気が……なんか重大な話なのは間違いなさそうだけど、一体なんだろ?
俺が固唾を飲みながらゆっくり頷くと、テラーノもまたコクりと頷き話し始めた。
「率直に聞くぞ。お主はまだ旅を続ける気があるか?」
「それって、どういう、意味だ?」
「そのままの意味じゃ。お主はまだイコナと旅を続けられるか、と聞いておる」
……なんで今更そんなことを? テラーノが何を考えてるのかはわからないけど、俺の答えは決まってる。
「ああもちろんだ。まだ話してなかったけどちゃんとロン、じゃなくて地竜王の試練も突破できたし。これからだってなんとかなるだろ」
「そうか。イコナの魔力の質がほんの少しとはいえ変わっておったから、そうじゃないかとは思っておったが……良くやってくれたのうレスト」
「俺だけの力じゃない。イコナが頑張ったからこそだよ」
俺の返事を聞いたテラーノは満足気な表情を浮かべていた。
「うむ。じゃがこれからが問題じゃ。残る聖竜石は四つ、その中でも闇の国、ディレットブーヨに向かう時には特に気をつけて欲しいんじゃ」
闇の国……イコナの光属性とは真逆にあたる闇属性の国だろうな。光は闇を照らし、闇は光を飲み込むから相性は最悪だって聞くけど、その関係でか?
「あの国の王、闇竜王アストゥーカは光属性を持つ者、その中でも特に光竜族は大っ嫌いなんじゃよ。『光竜族は滅べばいい』などとぬかす程度にはな」
「それ、嫌いとかいうレベルじゃないよな? 完全に目の敵だよな?」
「ともかくじゃ。そんな奴が治めておるというだけでもイコナにとって危険なんじゃが、闇の国は昔ながらの考えが強くてな。裏社会だとか、とにかく治安が悪いんじゃよ」
ええ……行きたくないんだけど。魔族の昔ながらの考えってことは、気に入らない奴はとりあえず殴るとかそんな感じだろ? しかも絶対、闇属性を使う種族が多いだろうし、そんなところに光属性のイコナが行ったら闇竜王どころか、住人からもボコボコにされかねないんじゃ?
「レストよ、そんな露骨に嫌そうな顔をするでない」
「今の話を聞いて嫌な顔しないほうがおかしいだろ」
「はぁ、これだから最近の若者は……最後まで話を聞かずに、す〜ぐ駄々をこねるんじゃからなぁ」
いや駄々をこねるとかそういう問題じゃないだろ!? こっちこそ聞いて呆れる!
「安心せい、ちゃんと考えはある」
「せや、そこでワイの出番っちゅうわけや」
「うわっライムいたのか!?」
テラーノの肩の上にひょっこりとライムが現れた。その白い体はピカピカと照明のように光り輝いている。
どうりで洞窟の部屋ん中なのに明るいわけだ。ずっとライムが照明代わりになってたんだな。
「なんや、変なもんでも見たような顔しよってからに。ワイは世界一可愛いお嬢に仕える世界一のシャインマジックスライムやで」
お前が世界一可愛くないスライムだって言うんなら納得だよ。
「あ〜、世界一うんぬんは置いといて、なんでライムがここにいるんだよ? イコナの所にいるんじゃなかったのか?」
「何言うとんや坊主、ワイがお嬢から離れると思うか?」
「いや、でも実際ここにいるじゃないか」
「はぁ〜、察しの悪いやっちゃなぁ」
揃いも揃ってなんだよ、もう! こちとらさっきまで気絶してたんだぞ? もうちょっとくらい優しさをくれても良いんじゃないか!?
「ワイは分体や。ほれ、ワイのチャームポイントの帽子が無いやろ? コレが分体の証拠や」
言われてみれば帽子が無くなってる。見た目は普通の白いスライムみたいになってるな。
「んで本体はお嬢の看病しとる。アイツめ、本体やからって良い役持っていきおってからに、ワイだって眠ってるお嬢を舐め回すように……じゃなくて、優しく見守っていたかったっちゅうのに」
「おい、今なんかとんでもないことを
「とにかーく! ワイとワイの本体の意識は繋がっとるさかい、お嬢が目覚めたらすぐ教えたるから安心してええで〜」
まさかとは思ってたけど、ライムって……
「ライム、じっくりと話をしたいことがあるんじゃが……よいな?」
「ひっ!? ちが、違うんやじっ様! ワイはただお嬢を心配してただけで、決してやましい気持ちは無い、無いったら無い!」
「誰もそんなことは言ってないぞ? まさかそんな気持ちがあった、とでも自白しているのか? ん?」
「め、滅相も無い! ワイはあくまでもお嬢に仕える忠実なスライム! 決してお嬢が嫌がるような真似はしまへん!」
話が進まないんですが、ソレは。
ただでさえテラーノだけでもイコナが絡むと話がややこしくなってたってのに。ド変態スライム、もといライムが加わって余計に面倒になっちまってる。
というかイコナも大変だなこりゃ。今度、なんか美味い料理でも食わせてやろうか。と言っても大した料理は作れないんだけども。
まあただ焼いただけの肉よりはマシだろ。この前の鍋だって美味そうに食ってたし。何作ろっかな〜。




