第三話:喧嘩はダメです
「落ち着けライム。整理できたら説明するから」
「おう、坊主。できりゃ手短に頼むで」
俺もそうしたいよ。ただライムは喧嘩っ早い性格みたいで、イコナに対しては結構懐いてるっぽい。
そんなライムがイコナとヴォルも似たような関係だって知ったら嫉妬してもおかしくない気がするんだ。
お嬢の一番のお気に入りはワイや!とか言い出してさ。
ヴォルはヴォルで俺のことをハッキリと嫌いだって言ってたくらいだから、自分の考えは臆せず伝えるタイプだと思うし……そうなるとこの二体が喧嘩するのは避けられないと思うんだよなぁ。
……いや諦めるのはまだ早い。何か、何か上手い説明の仕方があるはず。
……待てよ、仮に喧嘩を始めたとしてもイコナがパパっと止めてくれるのでは?
どっちもイコナの言うことならちゃんと聞くだろうし。
やったぜ、問題解決だ!
「ヴォルちゃん、どうしてここに?」
俺が色々と考えている間に、イコナはヴォルへと近寄り話しかけていた。
どちらも久しぶりに会えて嬉しい、というのが見ただけでわかる程度には、はしゃいでいるみたいだ。
「わうわう、わうーん」
「私の魔力を強く感じたから迎えに来てくれたんですか?」
「ワン!」
おそらく、契約する時にイコナが使った魔力を感じ取ったんだろうな。魔獣は魔族よりも魔力に敏感だって聞くし。
「ふふっありがとうございます。ちょうどおじいちゃんのところに向かっているところでしたから、一緒に帰りましょうね」
「わうん」
ヴォルはイコナに撫でられて、顔を綻ばせていた。よほど気持ちいいらしい。
イコナもまた、その様子を見て嬉しかったのか、尻尾をフリフリしていた。
まるで犬が犬を撫でてるみたいだな。
「あ〜ライム?見ての通り、俺達とヴォルーー例の狼魔獣は仲良しなんだ。だからまあ……そのなんだ、仲良くしようぜ?」
「ほお? さっきまでワイを追いかけ回しとった奴と、いきなり仲良くせぇっちゅうんか? 坊主もなかなか酷なこと言うなぁ」
コイツ見た目の割にかわいく無いな!嫌味っぽく言いやがって!
……待て、ここで俺がキレても良いことは無いぞ。ライムの言い分だって最もなんだし。
そうして色々考えていると、ヴォルがイコナにモフられながら、俺達ーー正確にはライムの方を向いた。
「わう」
「なっ!?あの犬っころ、ワイが黙って見とるのを良い事に調子に乗りおって!」
「お、おいライム落ち着けって。一体どうしたってんだよ?」
ふと見れば、ヴォルはライムに向けてドヤ顔をしてるような気がする。
まるで自分のほうが上だと言いたげに。
「落ち着けるわけないやろ!あの犬野郎め、自分のほうがお嬢の契約魔に相応しい、とかぬかしおるんやで!?」
うっわ、最悪だ……。ヴォルとしては、自分より先にイコナと契約したライムのことが気に入らないってのもあるんだろうけど。
ちなみに野郎って言ってるけどヴォルはメスだぞ。
「まあまあ、どっちが上かとかそんなの良いじゃないか。な?」
「やい! 犬っころ! ちょっと可愛がられとるからって調子に乗るんやないで! ワイのほうが凄いんやからな!」
子どもか! ったく、俺の言うことを聞く耳はもう無いらしいな。もともとスライムに耳無いけど。
「グルルル……」
「……? ヴォルちゃん、どうしたんですか?」
あーあ、ヴォルのほうにも火がついちまったか……イコナの手を離れてライムに、にじり寄って来てる。
牙を剥き出しにして威嚇してるあたり、かなり怒ってるな。
イコナはイコナで、ヴォルをモフることに夢中になってたせいか、状況を把握できてないみたいだし……こうなったら二体の気が済むまでやらせるのが一番か?
「グルル。ガウア!」
「ほっほう? ええで受けて立とうやないか。どっちがよりお嬢の契約魔に相応しいかハッキリさせたるわ!」
今ならヴォルの言葉もわかる気がする。多分だけど『スライム如きがほざくな。実力差というのをわからせてやる!』 みたいなことを言ってたんじゃないか?
「坊主! ちょいと手ェ貸してもらうで!」
「は? 手ってお前、ちょ、何するんだ! 離せえぇ!!」
いつの間にかライムから多数の触手が俺へと伸びていて、そのまま手も足も動かせないほどにグルグル巻きにされ、高く持ち上げられてしまった。
ワー、イイナガメダナー。
「こっちからいくで、犬っころ!」
「え、あ、あああああ!!」
そのまま俺はヴォルへと向けて勢いよく振り下ろされた。
「わわ、ライムちゃん落ち着いて! ってキャア!」
「グルル……」
ヴォルは間一髪で俺を横っ飛びで避けつつ、ライムの動きをうかがっているようだ。
その近くにいたイコナは俺が地面にぶつかった衝撃で舞った土埃に怯んでいた。
「チッ、避けおったか。でもなぁ、そう何度も避けれる思うたら、大間違いやで!」
そのまま地面にめり込んだ俺を引き抜き、触手を鞭のようにしならせ、俺ごと大きくなぎ払う。
「ガウアア!」
しかし、ヴォルは大きくジャンプして触手のなぎ払いを避ける。
一方、俺はそのまま林の木を何本かバキバキとへし折っていき、茂みへぶち込まれた。
うーん、葉っぱの味、苦い。そして前が見えない。
「ちょこまかと動くやつやな!」
「ワウワウン」
「なっノロマやとぉ!? アッタマ来た! もう許さへんで!」
「二人とも、もうやめてください!!」
茂みで何も見えないけど、ヴォルが挑発してライムが怒って、イコナがそれを止めようとしてるけど、どちらもムキになってるせいか言うことを聞かないらしい。
そのまま俺は茂みから木よりも高くへと持ち上げられ、ジャンプしていたヴォルを見下ろすようになった。
それと同時にイコナの姿も目に入った。
「二人とも……もう、やめてください…」
その声は先ほどの声よりとても小さく、そして震えていた。
イコナの目尻がほんのり光っている……まさか泣いてる、のか?
……そうだよな、悲しいよな。イコナにとってはやっとできた友達なんだ。その二人がこんな盛大に喧嘩してたら……泣きたくもなるよな。
まあスライムに武器扱いされてる俺も泣きたいんですけど。
「空中なら避けれへんやろ、これで終わりや!」
「ガウウゥ!」
俺が勢いよく振り下ろされそうになる……その時だった。
林の方から、地響きと共に木々が何本も折れていく音が聞こえてきた。
その音はどんどんこちらへと近づいて来ている。
「な、なんや?」
「アウ?」
大喧嘩していたヴォル達も、その音へと注意を向けていた。
ヴォルは着地し、ライムは俺を振りかぶったまま止まっている。
「……ぐすっ、おじい、ちゃん?……」
それはイコナの小さな囁きだった。他の誰にも聞こえないほどの。しかし確かにその囁きを聞いた者がいた。
そして炎のように燃え上がる怒りと共に、林の木々をへし折り、大きな地響きを起こしながらその者ーー親バカ竜が姿を現した。
「ワシの娘を泣かせたのは、どこのどいつじゃゴルァアぁぁぁ!!」
「ひっ!なっなんや!」 「くぅ〜ん……」
ライムもヴォルも、突如現れた怒り狂う赤き竜に驚きを隠せずにいた。
ライムは後ずさり、ヴォルは縮こまってしまっている。
……終わったな、何もかも……。
そう思ったのも束の間、俺をグルグル巻きにしていたライムの触手がほどけ、俺は地面に顔面から落ちるハメになった。
「ふぐぅ……」
……あっ、土ってこんな味なんだぁ。ワーオイシイナー。
俺はもう知らない、現実逃避だ。ツチ、オイシイ。
優しい先生「しれっと出てきた『契約魔』という単語ですが、コレは魔族と契約、つまり仲間になった魔物及び魔獣を指すものです。ちなみに魔物達は人間に懐くことは無いので、人間と魔物が契約することは基本的に不可能とされています。まあ、レスト君はそもそも魔物を寄せ付けない……つまりとても嫌われるみたいな感じなので、レスト君は絶対に契約できないと言っても過言では無いでしょうね」




