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第四話:飛来

「……まあ予想はしてたというか、なんというか…」


「悔しいですぅ……でもでも! なんだかこう、前よりもいけそうな気がしてきました!」


 特訓を始めてからどれほど経っただろうか。不安だった足の痛みも今は無くなっている。ホント、ただの肉塊になってなくて良かった。


 特訓に関しては、最初はある程度やって満足してもらえばいいや。なんて思ってたが、イコナが思った以上に真剣に取り組むもんだから俺も俺なりに本気で出来る限りのことを教えていた。


 これなら本当にイコナも魔法を使えるようになるんじゃないかって期待してたけど、世の中はそんなに甘くないらしい。


「レストさん、見ててくださいね! 次こそは魔法を放てる気がするんです……ファイアーボール!!」


 イコナが魔力を貯め、湖に向かって魔法を放とうとする。

 しかし、魔法は放てずイコナが振りかぶった腕が空を切るだけだ。言ってしまえば、もう見慣れた光景だ。


「……なんでですかぁ。レストさんに教えてもらった通りにやってるはずなのにー!」


 イコナは地団駄を踏みながら、ぶつぶつと文句を言っている。というかその言い方だと俺の教え方が悪いみたいに聞こえるんですが?イコナさん?


「やっぱり人と魔族じゃ魔法の使い方というか、概念というか、そういう根本のあたりから違うんじゃないか?」


 そういった事情に関しては遥か昔から研究されてるらしいけど、結局のところ人と魔族の魔法は似てるけど違うモノ程度のことしかわかっていない。


 人類で初めて六属性の魔法を使いこなし、今は人々の生活の一部になった魔道具の基礎を産み出したことで歴史に名を残す天才『賢者』様ならその謎も解明できたのでは……と言われているが肝心の賢者様は数百年以上前に行方不明になったらしい。


 さすがにもう生きてはいないだろう。もし会えたなら俺も変われたかもしれない……なんていうのは都合がよすぎる話か。


「おじいちゃんが言ってました。諦めなければいつか必ず夢は叶うって! だから根本的に〜とかそんなの関係ないです!!」


 熱く宣言するのは良いが、根本的に間違ってたらダメだろ普通……。


「諦めなければっていうのは俺も信じてる。でもな、やり方を間違えてたらそのいつかが来るのが数十年先とかにもなりかねないぞ?」


「……いつか叶うのなら、いつになるかなんて誰にもわからないじゃないですか。だったら私は近道を探すよりもいろんな事を試して、経験して、その先で手に入る何かを求めていたいです。もしそれで夢が叶わなかったとしても、その代わりにかけがえの無い『何か』を手に入れられているはずですから」


 イコナはただ微笑んでいた。


 不思議だ。今まで威厳もなにもなかったのに、今この瞬間のイコナはただのポンコツ娘なんかじゃない。紛れも無く光竜だ。後光すら見えるぞ。


 まあ後光は後光でもこれは太陽の光だ。ん?太陽の光ってことは……?


「なんてこった! 気づいたらもう朝じゃないか! もし遅刻したら、ジイさんになんて言われるかわかったもんじゃない! 急いで帰らないと!」


「あっ! わ、私も早く帰らないと、おじいちゃんに怒られちゃいます!」


 訂正。やっぱりイコナはイコナだ。慌てるのは良いが、いくらなんでもバタバタしすぎじゃないか? おかげで見てるこっちは冷静になれたけど。


「れ、レストさん!」


「ん? どうしたんだ? 早く帰らないと怒られちまうんだろう?」


 イコナは顔を赤らめてもじもじしていた。そんな余裕はお互いに無いと思うんだがなぁ。


「今日の夜も、またここで……あ、会えませんか?」


 最後の方は絞り出すような声だった。イコナなりに恥ずかしかったのだろう。


「……ああ、もちろんだ。誰かに教えるのも良い復習になるしな」


「やった!ありがとうございまーー」


「やっと見つけたぞ。イコナ」


 イコナの言葉を遮り、まるで質量があるかの様な声が森に響きわたった。


 そして巨大な影が俺達を覆った。イコナは空を見上げ、この世の終わりと言わんばかりの表情を浮かべ、絶句していた。


「竜、族……」


 俺はただその一言を口にするのも難しくなるほどの威圧感を受け、空を見上げたまま立ちすくむしかなかった。


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