第二話:ワイの名は……
「さてと、スライムさんの名前を考えないとですね」
「よ、ようやく解放された……」
ポンコツとは言え相手は竜人族……俺の力じゃ敵うわけもなく、結局イコナが満足するまで離されなかったと……
「ん〜どんな名前がいいでしょうか」
「ヴォルみたいな長い名前じゃなけりゃ大丈夫だろ」
長くなけりゃなんでも良いってわけじゃないけど、悩みすぎるよりはある程度妥協して無難な名前にしてやるのが良いと思う。
凝りすぎて変な名前になるくらいならな。
「うー、そんなこと言わずにレストさんも一緒に考えてくれたって良いじゃないですか」
表情をムスッとしたものに変えながらイコナはそんな愚痴をこぼしていた。
「そう言われてもな。そのスライムはイコナに懐いてるんだし、イコナが考えた名前をつけて欲しいと思ってるんじゃないか?」
「……!」
俺の言葉を聞いてマジックスライムは『そうだそうだ』とでも言いたげに身体を上下に揺らしていた。
「そういうことなら……わかりました!とびっきり素敵な名前をつけてあげますね!」
「ほどほどにしてやれよ〜」
イコナはとても真剣な表情でマジックスライムを見つめていた。
おそらく特徴とかそういうのをじっくり観察しているんだろうけど……そんなにマジマジと見つめても特に変わらないと思うぞ。
見た目は帽子を被ったタダのスライムーーって出会った時よりも全体的にうっすらと白くなってる、ような気がする。最初はほとんど透明というか、水面っぽい感じだったはずなのに。
もしかしてイコナの魔力を吸ったから色が変わったとか?
……よくわからないけど、他に原因になりそうなことは思いつかないし、多分そういうことなんだろう。
♢♢♢
「……まだか?」
「もう少し、もう少しでとっても素敵な名前が思いつきそうなんです!」
さっきも聞いたぞソレ。
名前を考え始めてから三十分は経っただろうか。未だにしっくり来る名前が思いつかないらしく、イコナはマジックスライムと目線の高さを合わせて向き合ったままウンウン唸り続けている。
スライムに目線があるのかは知らないけど。
ヴォルの時も同じように考え続けてたんだろうな。あの時はイコナの帰りが遅かったし。
ふぁ……マズい、ただでさえポカポカと良い天気だから眠くなるのに、何もせず待ってるだけだから余計に眠たくなってきた……いっそこのまま昼寝するか?起きる頃にはさすがに決まってるだろうし。
「思いつきましたー!!」
イコナが突然立ち上がり大声で叫ぶもんだから、ウトウトしていた俺も飛び起きた。
「スライムさんに似合い過ぎててもう、なんか……こう、とにかく凄く良い感じです!」
この語彙力の無さである。もしかしたらマジックスライムのほうが上手く喋れたり……はしないな。そもそもカタコトだったし。もしもそうなったら、それはそれで面白そうだけど。
にしてもビックリしたな。おかげで眠気が吹き飛んだぜ。
「突然大声をあげるなよ。ビックリするだろ」
「あっ、ごめんなさい。とっても素敵な名前を思いついたので、つい……」
イコナは俺へと向き直り、少し申し訳なさそうにしていた。
「ふむ、さっきの様子からしてそれはもう素晴らしい名前を思いついたみたいだな?」
「ハイ!こう…ビビッ!と来たので間違いないです!」
それ要するに直感では?一気に不安になったんだが?
「ま、まあなんにせよ決まったんなら教えてくれないか?」
「ふっふっふ、まだ秘密ですよ。契約する時にお披露目です」
不敵な笑みを浮かべながら発表を焦らすイコナを見て、何故かわからないが嫌な予感がした。
「というわけでレストさん。契約石をくっださっいな」
イコナの声が文字通り弾んでいる。表情もニッコニコしてるし契約するのを待ちきれないんだろう。
「ちょっと待てよ……あったあった。間違っても握り潰すなよ?」
「むぅ、私を何だと思ってるんですか。そんなこと絶対しません」
強きな言葉とは裏腹に俺の手から契約石を取るイコナの手は慎重に慎重を重ね、ついでに少し震えているようにも見えた。
まあさすがに握り潰すなんてことは無く、イコナの魔力も無事に込められたんだけど。
さてさて、ここからが重要だぞ。
「後の手順は大丈夫だよな?」
「もちろんです!スライムさんに私の魔力が込められたこの契約石を食べてもらって、魔法陣が現れたら名付ける……ですよね?」
「大丈夫そうだな。後はやるだけだ」
「わかりました。それじゃあ、始めましょう」
イコナからそっと差し出された契約石を見て、マジックスライムは固まっていた。緊張しているようにも見える。
「さあスライムさん、コレを」
「……」
マジックスライムからゆっくりと触手が伸びていき、そのまま契約石を身体へと取り込んでいった。
そして契約石はマジックスライムの中で溶けるように消えていく。
契約石が消滅すると同時にマジックスライムの足元からうっすらと光る小さな魔法陣が現れた。
そのままゆっくりと広がって行きマジックスライムよりも少し大きくなったあたりで魔法陣は広がらなくなった。
「コレで準備は整ったんだろうな。イコナ、名前を付けてやらないと」
「は、ハイ!スライムさんの名前は……」
イコナの声に反応して魔法陣の輝きが増していく。
いよいよ本番って感じだな。ここまで来て途中で噛みましたとかやめてくれよ?
当のイコナは大きく息を吸い、マジックスライムの名前を一気に叫んだ。
「ライム・セイクリッド・テラー・シャイン・プルプルホワイト、です!」
「なげーよ!」
「えっ?長いですか!?」
思わずツッコんでしまった……。
いやでもさ、長くない?いくらなんでも長くない?ヴォルの本名のほうがまだ短いと思える時点でおかしいよ?あの、ヴォルフ……なんとかも割と長かったんだし。
というか最後のプルプルホワイトって何?絶対見た目そのまんまを言ったよね?確かにほんのり白くなってたし、プルプルもしてたけど。犬や猫とかならまだしも、見た目ド直球につけるか普通?
いやゴメン、イコナは『普通』では無いんだった。ついでにスライムをペットにすることも普通は無いな。
「うーん、そんなに長いですかね?確かにヴォルちゃんのよりは少し長いと思いますけど……」
そこの自覚はあるのな。ただ、そこまで気づいてるなら両方とも一般的にペット……みたいなもんにつける名前にしては長いってことにも気づいて欲しい。
「そもそも呼び辛くないか?その名前」
「そこは大丈夫ですよ。略してライムちゃんって呼びますから」
自身ありげに言ってるところ悪いんですが、略す前提の名前って時点でちょっとおかしいと思うんですけど。しかも後半どころか、ほっとんど略してるし。ならいっそ『ライム』で良かったのでは?
「……まあとにかくだ。まだ間に合うだろうし、名前を考え直したほうがって何だこの光!?」
「えっ?わわ、魔法陣が光ってます!」
いつの間にか魔法陣は輝きを更に増し、眩しいほどの光を放っていた。
ほんの少しの間を置いて光が収まった時には魔法陣は跡形も無く消え、マジックスライム、もといライムちゃんだけがそこにいた。
「……もしかしてアレで名付け終わりってことか?」
「……多分そうだと思います」
やり直しはききそうに無いか……。
「マジックスライムよ。なんか呼び辛くて変な名前になるのを止められなくてゴメン、許してくれ」
「もう、呼び辛い名前ってなんですかー!ちゃんと意味があるんですからね!」
意味があるにしてももうちょっと短くまとめてやれよ……。
「なんや坊主。さっきから黙って聞いとりゃ、お嬢がせっかく考えて付けてくれた素敵な名前にケチつけるんかワレェ?」
「そうですよ。ライムちゃんだってこう言ってくれてるんですし、変な名前じゃないです!」
「……ゴメン、ちょっと待ってくれ。さっきの声、誰のだ?」
「な!?お嬢が考えた名前にケチつけるだけやなくて、ワイのことを無視する気か?上等や、穏便に済ませたろぉ思うとったのにそっちがその気なら、受けて立つでぇ」
この声もしかして、いやでも……まさかなぁ。
「おっと、そうでした。ライムちゃん落ち着いてください。言うのを忘れてましたけど、レストさんはライムちゃんが何を喋ってるのかわからないんですよ」
「あ〜そういうことですかいな。なら仕方ないですわな。やい坊主、今回はお嬢の顔に免じて堪忍したるわ。ただし、もう一度でもワイの名前をバカにしたら許さへんからな!」
「ふふっ。レストさん、ライムちゃんは許してくれるそうですよ。ただし次は無いって言ってます」
笑顔で翻訳してくれてるところ悪いんだが、間違い無いなコレは。
「あ〜イコナ?」
「ハイ?レストさん、どうかしましたか?」
「その、どうやら俺もライムが何言ってるのかわかるようになったっぽいんだ」
「え、えええ!? ほ、本当ですか!?」
大変驚いてらっしゃる。俺自身、信じられないんだけどな。
「ああ間違いない。その変……じゃなくて、特徴的な喋り方してるのが聞こえてきたんだけど、それはライムのだろう?」
「んな!?名前だけやなくて、この伝統ある『西方スラ弁』までもバカにする気か?よーしわかった、わかったで。そっちがその気ならやってやろうやないかい!」
ライムは勢いよく震えながら俺に飛びかかろうとしてきた。
まあそれはイコナが抱き止めたので叶わなかったけど。
「わわわ、ライムちゃん落ち着いて!レストさんだって悪気があったわけじゃないんです!ね、そうですよね!?レストさん!」
「お嬢、離してくだせぇ!二度もバカにされて黙ってたらスライムが廃るんですわ!」
ライムはイコナの腕の中で必死にもがいて脱出しようとしてるが、イコナの腕力のほうが上らしい。
そもそもスライムならにゅるんと脱出できそうな気もするんだけど……気にしないでおこう。
「あ〜その俺が悪かったよ。別にバカにするつもりはなかったんだ。ただ聞き慣れない喋り方だったから……ゴメン!」
俺はライムへ頭を下げて謝った。スライムに頭を下げるなんて貴重な経験だな〜。
「ふん、わかればええんや。わかれば。まあワイもちょっと気にしすぎた気はするさかい、今回はお互い様ってことにしとこうや、なあ坊主」
ライムはイコナに抱えられたまま大人しくなり、許してやろうという雰囲気を漂わせていた。
「お、おうそうだな」
なんか納得いかない部分もあるけど、今回は初対面だし……まあ良しとしよう。
「じゃあ改めてよろしくな。えっと……」
「ライム・セイクリッド・テラー・シャイン・プルプルホワイトや!よろしゅう頼むで〜」
「ああ、俺はレストだ。よろしくな、ライム」
やっぱり長いってあの名前……
「ん、よろしゅうな坊主……っ!マズい、奴が来とる!お嬢、離れといてや!」
「えっ?奴……ですか?あっライムちゃん!」
突然ライムはイコナの腕を振り解き地面へと飛び降りて、そのまま林の方角の茂みへと向き直った……気がする。
いまいち向いてる方向わからないけど、多分あってると思う。
「なあライム、奴って誰だ?」
「奴は奴や!ワイを追っかけ回してた狼魔獣や!」
そういやそんな話してたような……って、ライムを追いかけてた奴がまた来たってことはライムを仕留めに来たってことなんじゃないか!?
「イコナ!」
「ハイ!ライムちゃんは私が守ってみせます!」
金色の竜尻尾をピンと立てイコナも臨戦態勢になったみたいだ。
そこいらの魔獣くらいならイコナの一撃でどうとでもなるだろうし。さすが竜人族、安心感が違う。
ガサッ!
茂みが大きく揺れてる、『奴』はもうすぐそこか……。
「来るで!」
ライムの声とほぼ同時に茂みを大きく掻き分け、一匹の狼型魔獣が飛び出してきた。
「アオーン!」
「え?」「んな?」
大きく吠えるその魔獣を見て、俺とイコナは思わず固まってしまった。
あの黒い毛並み……腹側は白い毛で覆われてるし、まさか……
「ヴォルちゃん!?」「ヴォルか!?」
「ワウ〜ン」
魔獣は『そうだよ〜』とでも言いたげに吠えている。
「なんやなんや?知り合いなんか?」
それに対しライムは困惑していた。
まあそりゃそうか。敵だと思ってたら知り合いの知り合いでした、みたいな感じだしな。
さて、どこから説明したもんかな……。
いっそイコナに任せて……いやややこしくなりかねないからやめとこう……
面倒くさいことにならないように慎重に説明しなければ……
親バカ竜「ヴォルのやつめ、急に走りだしてどこかに行ってしまうとは……探すほうの身にもなって欲しいわい」
ちなみにライムの『西方スラ弁』は言うまでもなく某方言を元ネタにさせてもらっています。もし間違った表現をしてたらごめんなさい!
できればその辺りは温かい目で見て『西方スラ弁』だからって解釈してもらえたらありがたいです。
作者は関西圏の人間では無いので……。




