第一話:前にもあった気がする
「っとと、指輪のおかげでほとんどダメージを受けないとはいえ、もう少し加減してくれても良いんじゃないか?」
起き上がりながら、そんな愚痴をこぼす。
まあ悪いのは俺なんだけど、頭に石を思いっきり投げつけられたんだ。普通は死んでもおかしくないし、これくらい愚痴らせて欲しい。
「わー!まだこっち見ちゃダメです!」
「えっ?あ、ああゴメン!」
咄嗟に後ろへ振り向く。チラっと見えた限りではイコナの服はまだボロボロだった。
「な、なあイコナ?その服はイコナが魔法で作ったんだろ?だったらすぐ直せたりしないのか?」
「そう簡単に直せるんなら直してますよぉ……」
なるほど。言われてみれば飛翔の魔法も長い時間は使えないって言ってたし、服を作る魔法も使えるけどそこまで得意ではないってところか。
そもそも服を作る魔法ってのが難しいのかどうかすらわからないけどな。
「うう、自信作だったのに……あっスライムさんは悪くないですよ。気にしないでくださいね」
「……ゴメ……イ……」
「良いんですよ。今度はもっとキレイに作り直すだけですから〜」
ん?聞こえ辛かったけど、凄く拙い様子でスライムが喋ったような……気のせいか?
頭を打っておかしくなっちまったかな。スライムが喋るはずないし、でもそれならさっきの若い男のような声は一体?
「とりあえず、簡単に直しときましょうか。もう少しだけ待ってくださいね、レストさん」
「はいよ〜」
背中を向けたまま手を振りつつ返事をする。
は〜それにしても、のどかな良い天気だな〜。今頃テラーノ達はどうしてるのやら。テアト先生も元気にしてるかな……。
♢♢♢
「レストさん、終わりましたよ〜」
「おー終わったのか……って、それ服というかただ布巻いただけなんじゃ」
少なくとも俺の目には白い大きな一枚布を上半身と下半身に巻き付けただけのように見える。
「しょうがないじゃないですか!たった五分程度じゃコレが限界です。むしろ五分で良くぞここまでできたと褒めて欲しいくらいですよ」
イコナはプンスカ怒り、フン!っとそっぽを向いてしまった。
機嫌を損ねちゃったか?うーむ、とは言え見た目はどう見てもただの布だしなぁ。
「それなら今まで着てた服は作るのにどれくらいかかったんだ?」
「ん〜と、二時間はかかってたと思います。レストさんも知っての通り、おじいちゃんの洞窟に時計なんかは無かったので詳しくはわかりませんけどね」
早いのか遅いのか良くわからない……ワンピースみたいな服だったから結構簡単にできるんじゃないかと思ってたけど、イコナの口振りからしてそうでもないんだろうな。
「じゃあ早いところ戻ってちゃんと作り直さないとな。今度はもっとキレイに作るってなると、もっと時間が必要だろうし」
「そうですね〜。せっかくですし、今度はもっとヒラヒラとか付けて可愛くしてみるのも良いかもしれないです」
そう言うイコナは次の服のイメージを膨らませているのか、自分の世界に入り込んでるみたいだ。顔が蕩けてるのがその証拠だろう。
なんにせよ、機嫌が治ったようで良かった良かった。
「そうと決まれば早いとこ戻るとしようぜ。新しく魔法を使えるようになったと聞いたら、テラーノも大喜びしてくれるだろうし」
ここで足を止めてたら、何回でも野営することになりそうだし。少なくとも今日中にこの林くらいは越えておきたい。
そもそもなんでこの林付近ではこんなにも魔物に出くわすのかと。俺の魔力と、少ないとは言えイコナの竜族の魔力を感じとって魔物は寄ってこないはずなんだけどなぁ。
「ハイ、おじいちゃんの喜ぶ姿を早く見たいです!じゃあスライムさん、ここでお別れですね。お元気で」
イコナは腰を落とし、マジックスライムを撫でていた。当のマジックスライムは相変わらずプルプルしている。
そう言えばマジックスライムはスライム本来の溶かす能力を失った代わりに魔力を吸収できるようになった個体だとか聞いたことあるな。
だからイコナが触っても手が溶かされたりすることは無かったと。
まあそのせいでイコナの服は見事に溶けてボロボロになったんですけどね。
「じゃあ行きましょうか、レストさん」
「別れは済んだか?それじゃテラーノの洞窟へ向けて出発だ」
そのまま俺達が出発しようとしたその時だった。
「お?」「あれれ?」
例のマジックスライムが俺達の行く先に立ち塞がるようにピョンと跳ねて割り込んで来た。
「どうしたんですか?スライムさん?」
マジックスライムはイコナの声に反応して、その身体をブルンブルンと震えさせた。
何かを訴えかけてるんだろうけど……ダメだ、わからん。
「……イッ……ショ……タイ……」
この声!やっぱり間違い無い、コイツ……喋ってる!?
ただ途切れ途切れで何言ってるのかは全然わからないな……にしても喋るマジックスライム、か。マジックスライムってだけでも珍しいのに。
「ええ!?私達と一緒に来たいんですか?」
おっと?前にもこの林で似たようなことがあったような〜?あの時は確か狼みたいな魔物だったような気がする〜。
「レ、レストさん……どうしましょう」
「どうと言われてもなぁ。イコナはどうしたいんだ?」
「私は……」
イコナは俯き黙り込んでしまった。
ヴォルの時はすぐに決まってたけど今回は結構悩んでるみたいだな。
で、肝心のマジックスライムはっと。
「……!」
マジックスライムは仲間になりたそうにこちらを見ている!ような気がする。
あいつに目は無いけど、何か……こう、強い目力みたいなのは感じる。それだけ本気だって証拠だろうな。
「……せっかく仲良くなれましたし、スライムさんも本気のようなので私も一緒に行きたいです。ダメですか?レストさん」
イコナがしおらしいぞ。てっきり目をキラキラさせながら、『良いですよね!?』くらいの勢いで来ると思ってたんだけど。
まあイコナはイコナなりに、奥ゆかしさみたいなのを覚えて、精神面が成長してきたってことにしとこうか。
「別に構わないぞ。ちょうど契約石だって二つ貰ってたんだし、ヴォルと、このスライムとの契約に使えば良いんじゃないか?」
イコナはそれを聞いた途端に目の色を変え、俺に飛びついてきた。
「やったー!! レストさんのそういう優しいところ、大好きです!」
「うおっ!? ば、バカ!止めろって!抱きつくなー!」
「嫌ですよ〜だって嬉しいんですもん!」
訂正、やっぱりイコナはイコナだ。何も変わってない。
こっちは恥ずかしくて堪らないってのに平気でこういうことするんだからなぁ。
これだけ元気な方がイコナらしいっちゃらしいから良い……ことは無いな。そうだとしても限度ってもんがある。
「嬉しいのはわかったから離れろー!!」
「もう、そんなに顔を赤くして恥ずかしがらなくても良いじゃないですか〜」
イコナが奥ゆかしさを覚えたと、一瞬でも思った俺を殴り飛ばしたい。
こんなやり取りを見て、マジックスライムがやっぱり一緒に行かないことにします、とかならないと良いんだけど。
ともかく今はひっつき虫を剥がすことを優先しよう……。
ちなみに現実でミシン等を使って簡単なスカートを作る場合だと、構想から実際に完成するまでは約三時間ほどかかるそうです(作者調べ)
かかる時間は人にもよると思いますが、そう考えるとイコナの魔法はかなり便利ってことですね。
本当に魔法使えたらな〜。




