プロローグ:マジックスライム
第二章スタートです!
「ほら〜レストさんも触ってみてくださいよ〜プニプニでポヨポヨしてて気持ちいいですよ〜」
小型犬より少し大きいくらいの水の塊をチョンチョンと突くイコナはとても楽しそうにしていた。一方、水の塊の中心には少し濁った輝きを放つ小さな石ころが見えている。
水の塊ーーもといスライムは突かれる度にプルンプルンと震えるだけで、イコナにされるがままっぽい。
見た目だけなら、あ〜微笑ましい光景だな〜で済むところなんだけど。
「なあイコナ」
「ハイ、なんでしょう?」
触り心地をよほど気に入ったのか、イコナは返事をしながらもスライムを突き続けていた。
コレ……ヴォルが見たら嫉妬するんじゃないか? そのままスライムに攻撃するのが目に見えるぞ。
そんな事よりも、ちゃんと確認だけはしとかないと……
「スライムはその身体に触れた物をなんでも溶かして、そのまま栄養として吸収できたと思うんだけど……触っても大丈夫なのか?」
実は竜族ってそういうのに耐性があるのかな〜と思いつつ、少し離れた位置から眺めてたけど、おそらくそういう感じなんだろう。
あのポンコツ竜と言えど自分の身に危険があるとわかり切ってる物を即座に触りには行かないだろうし。
しかし俺の予想とは裏腹に、イコナは突くのをピタッと止めて青ざめた顔で俺へと向き直った。まるでギギギ……と軋む音が聞こえそうな様子で。
「そ、それ……本当、ですか?」
「ん?ああ。スライムは栄養補給しようと思ったら例え草だろうが岩だろうが、もちろん魔族も人間もなんでも溶かして吸収するって聞いたことがある」
ただし動きは遅いし溶かすスピードも遅い。そして弱点の魔石は丸見えで狙い放題なうえに、もともとは水が多くの魔力を吸収した結果、意思を持って動き出した存在だから蒸発させようと思えばできる。おまけに魔力を多く含んだ水とか池みたいなのがあんまり無いから数も多いわけでは無い。
以上のことから最弱の魔物って呼ばれてるのがスライム、本物は初めてみたな。
そもそも人の領域で魔物を見ること自体あんまり無いんだけども。ヴォルといい魔物とポンポン出くわすのはさすが魔族領域ってとこかな。
「レストさん!私の手、溶けてないですよね!?大丈夫ですよね!?」
イコナは俺へと一気に近づいてきて手を見せてきた。
相当焦ってるようで。
「安心しろー溶けてない溶けてな〜い」
「よ、良かったぁ。レストさん、そういうのはもっと早く教えて下さいよ〜」
世話の焼ける竜娘である。
「お前が見つけた途端に突っ込んでいったの忘れたか?というかよくわからない物には不用意に近づくな、とかテラーノに言われたことないのか?」
「そうですね……あっ『よくわからない魔物に会ったらとりあえずぶん殴るのじゃぞ』って言われたことはありました!」
殺られる前に殺れ、と。なんともテラーノらしい教えですね。感服しましたよ、ええ。
だからこんなに無用心に育っちゃったんですかね。
「はあ、まあいいや。さて、このスライムはどうしたもんかなっと」
「どうって、もしかして殺しちゃうんですか?」
心なしかスライムが怯えたようにプルプルと震えた気がした。
「いや別に殺す必要は無いな。ほっといてもこの近くにいる他の魔物にやられちゃいそうだし」
「それはそれでかわいそうです……」
「……そうは言ってもなぁ」
それが自然って言えばそれまでなんだけど。イコナにとっては可愛らしい生き物を見つけたから守ってあげたいとかそんな感じなんだろう。
「どうにかして守ってあげたりできないんですか?」
そんな悲しげな目で見つめないでくれ。どうにかって言われてもコレばっかりはどうにも……ってスライムのほうからこっちに近づいて来てる?
スライムはそのままゆっくりと這いずりながら近づいて来て、イコナの足元で止まるとプルプル震え始めた。何かを訴えかけるように。
イコナもそれに対して腰を落とし聞いて?いた。
「ふんふん、なるほどなるほど。あ〜そういうことならわかりました。私に任せてください!」
交渉成立らしい。
「って、普通に会話してたみたいになってるけどスライムって喋るのか!?」
「ヴォルちゃんの時と同じですよ〜」
なるほど、つまり俺にはわからないけどイコナにはわかる、と。
「あ〜そういうことな。わかった。んで、そのスライムはなんて言ってたんだ?」
「えっとですね、まずこの子は普通のスライムじゃなくて『マジックスライム』って種族らしいです」
マジックスライム?どっかで聞いたことあるような……あ!思い出した。
「マジックスライムってなると結構珍しい魔物だな」
「そうなんですか?」
「ああ。スライムの中でも大気中とかの色んな魔力を取り込んで取り込んで、普通のスライムの何十倍もの魔力を蓄えて強くなったスライムがマジックスライムだ」
そもそもスライムの魔力量は一般的な魔法を使える人間を基準に考えたらかなり少ないんだけど、マジックスライムは人間の半分くらいは持ってるらしい。
ただ強いかどうかと言われると、スライムと大差無いんだとか。コレがもし特定の属性に特化したマジックスライムなら魔法を放って来て厄介になるけど、そんなマジックスライムは数百年に一体現れるか現れないとかなんとか。それでも初級魔法を使えるくらいだから結局弱いって話だけど。
にしても普通のスライムが何十年と生きて魔力を蓄え続けたらマジックスライムへと姿を変えるって聞いたことあるけど、まさかそんな珍しい魔物に会うとはなぁ。
「待てよ、マジックスライムなら水でできた帽子みたいなのもくっついてるって聞いたけど、そいつにはそんな物ついてないよな?」
「それはさっき狼みたいな魔獣に追いかけ回されてて、逃げるために魔力を使い切っちゃったそうなんです。そのせいで帽子が目に見えないほど小さくなってるんだとか」
「そういうことだったのか」
マジックスライムの帽子って魔力を貯めてる部位だったのな……これは新発見かもしれない。
「それでですね。マジックスライムは身体のほとんどが水ではなく魔力そのものになってるらしいんですよ。それでさっきの狼魔獣から逃げる時に魔力のほとんどを使っちゃったから、空気中の魔力を吸い込むだけだと回復が間に合わなくて、身体が保たないとのことです」
これまた新しい発見。マジックスライムは普通のスライムと違って、身体のほとんどが魔力でできていると。水はちょっとだけなんだろうな。
「でこのままじゃ死んでしまうからイコナの魔力を分けて欲しい、とかそんなところか?」
「そういうことみたいですね〜」
果たしてこのマジックスライムはイコナが竜人族であるとわかっているのかいないのか。少ないとはいえ竜族の魔力を取り込んだマジックスライムってどうなるんだ?
スライムがなんでも吸収するみたいに、マジックスライムは魔力ならなんでも吸収できるのかな?
スライムはまたしてもプルプルと震えてイコナに何かを訴えかけていた。
そろそろ限界とか?
「わかりました。では私の魔力を分けてあげますね。ただちょっとだけですよ?吸われすぎたら私のが無くなっちゃいます」
竜族は人基準で見ると数百人分くらいの魔力量とか聞いたし、イコナもそれなりにあると思うからそうそう無くならないと思うぞ。
そしてマジックスライムは頷くような動きをした後、触手のようなモノを伸ばしてイコナの体に纏わりついていった。
「ひゃっ!冷たくて、くすぐったいですぅ」
横から見てるとイコナが取り込まれていってるようにも見えるな……もしも何かあった時のために目を離さないようにしないと。
触手は数を増やしていき、ついには顔以外の全身に触手が纏わりついた。
触手の合間から白い服やイコナの肌がチラっと見えるくらいだ。
「あっ……魔力がほんの少しずつ吸われてます……」
それと同時にマジックスライムの本体の上で帽子のような何かが膨れていっていた。
どうやら順調に魔力を吸収しているようで、イコナも特別おかしな様子は見えーーいや、待てよ。
良く見てみると、イコナが着ている服が少しずつ溶けていっているような。イコナ本人は気付いてないみたいだけど……
……そうか!イコナの服はイコナ自身が魔力で作った服だから、イコナの魔力を吸収すると同時に服の魔力も吸収しちゃってるってことか!
その間も魔力の吸収は続き、服は少しずつ消えていっていた。
ダメだ。本当は見ないほうが良いんだろうけど、もしもの事があったらいけないから目を離すわけには……やましい気持ちは無い。無いったら無いぞ!
♢♢♢
「ふう。思ってたよりもかなり少ない量でしたね。本当にこれで大丈夫なんですか?」
マジックスライムは触手をしまって何度も頷くような動作をしていた。見る影すら無かった帽子のような部位は本体と同じくらいの大きさになっている。
「それなら良かったです。あ、レストさん終わりましたよ〜」
少し離れた場所にいるレストにイコナは笑顔で呼びかけた。
その時のレストはイコナから顔を背けていた。少し顔が赤いようにも見える。イコナは何故レストが顔を背け、顔を少し赤らめているのかわからなかった。
「イコナ……とりあえず服を直したら、どうだ?」
レストの声はいつもより小さかった。
「ん?服です……か?」
そうして自分の体を見てイコナは服がボロボロになっていることにようやく気づいた。
「あー!私の服が!うう、自信作でお気に入りだったのにぃ……」
イコナは服がボロボロになっている事に気づくとその顔を一気に赤くした。
一部隠れているとはいえほとんど見えているのだから当然だろう。
「レストさん、まさかずっと見てたんですか!?」
レストは目を瞑ったまま思いっきり頭を横に振った。見てない、絶対に見てない!とでも言いたげだ。
さしものイコナといえど、その様子からしてやましい事をしていたというのはわかった。
そして羞恥の赤と怒りの赤で膨れっ面を染めていく。
「レストさんのバカーー!!」
「ぶはっ!?」
近くにあった小石をレストに向かって投げつけた。
その小石は見事にレストの額に命中し、レストはダメージこそ無いものの地面へと倒れ込んだ。
そしてレストは思った。指輪の効果が無ければ死んでたな……と。
もふもふ「グルル……わう」
親バカ竜「おっ戻ってきたかヴォルよ。その悔しそうな様子からして獲物は取れなかったようじゃのう。ふっやはり、まだまだじゃ
ゴスッ
親バカ竜「お主……最近、ワシに乱暴すぎぬか……?」
もふもふ「わうっ」(知らん顔)




