エピローグ:帰路へ
「おっはようございまーす!」
「うっ、もう少し寝かせてくれよ……」
イコナの元気な挨拶と共にいつの間にか頭から被っていた布団が宙を舞った。
その直後に朝の日差しが俺を襲う。
「え〜外はもう明るくなって、わぷっ!? 急に暗くなるなんて聞いてないです!」
「何やってんだよ……」
もちろん外が急に暗くなったわけではない。イコナが放り投げた布団がそのまま頭の上に覆い被さったってだけ。
その場でバタバタ慌て始めたあたり、本当に状況が把握できてないみたいだな。
「わー! レストさん、どこですかー!?」
「落ち着け、俺はここにいるから」
なんで朝からこんなに騒がしくできるのか……この城に来てから騒がしさに磨きがかかってる気がするんだよなぁ。
「こ、ここって、こっちですか?」
「よーし、そこで止まれ〜。よしよし良い子だな〜それじゃあ……ほいっと」
俺の声に反応して近づいて来たイコナの頭から布団を取り上げる。
意外と重いな……さすがは王城の布団、とでも言っておこうか。
「アレ? また明るくなりました。でもどうして……あっ! もしかして、レストさんもフラッシュの魔法を使えるようになったんですか? おめでとうございます!」
う〜ん、頭がおかしくなりそうだ。ただでさえ例の変な夢のせいで寝不足だってのに。
「そんなわけないだろ? さっきのはイコナが頭の上から布団被ってただけ。で、俺がそれを取ったんだ。ほら、これがその布団。さっきイコナが俺から引っ剥がしたやつ」
イコナは俺と布団を見比べてハッとした表情になった。
やっと気づいたか、まさかこんな茶番みたいなことが起こるとは……。
ここまでの流れがわざとじゃなくて素でやってるってのがもう……なんだかなぁ。
「それはそれとして、お腹空きました!」
「なっ……あ〜もう少ししたら給仕さんが来てくれると思うから、もうちょっと我慢してくれ」
「ん〜わかりました!」
はぁ、昨夜のまるで聖母……は言い過ぎだな。昨夜の綺麗なイコナは何処へ行ってしまったのか。
……思い出したら恥ずかしくなって来たからこれ以上は止めとこう。
そんなことを考えていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
イコナは待ってましたと言わんばかりに勢いよくドアへと振り返っていた。
「二人とも起きているか? 我……あ〜いや、ロンだ」
イコナはドア越しにロンの声を聞いた瞬間、露骨にテンションを下げていた。
「むぅ、ロンさんでしたか。来てくれたのは嬉しいですけど、給仕さんじゃなかったのは残念です」
「お前なぁ……俺達は親しくさせてもらってるけどロンは本来、一国の王様だからな? すっごく偉いんだからな? 普通そんなこと言っちゃダメなんだぞ?」
ロンなら許してくれそうだけど、それでも度が過ぎたら怒ってもおかしくないからな。
まあ肝心のイコナは、良くわかってないように見えますけど。
……今思えばテラーノとずっと二人きりで暮らしてたから、そういうのに疎いのも仕方ないんだろうけど……それはそれ、これはこれだ。
ともかく俺がドアを開けてロンに入ってもらうことにした。
ただ不思議なことにドアの外に立っていたロンはまるで給仕係のような格好をしていて、その隣には朝食(にしては豪華)が乗った専用の台車があった。
「ロン、どうしたんだその格好?」
「ああコレか。それなりには似合っているだろう? 実は給仕を担当していた者に無理を言って、役目を代わってもらったのだ」
ロンはにこやかに話していたが、王様に無理を言われた本来の担当者は気が気じゃなかっただろうな。
王様がやる仕事じゃないと思うし。
俺が給仕さんに哀れみに似た感情を抱いていると、ロンは俺に耳打ちをしてきた。
「それで、レストよ。念のために確認したいのだが、昨日部屋に戻ってから何もしでかしていないな?」
昨日? 昨日っていうと……ああ!
「そんなわけないだろ。俺はただイコナの傷に薬を塗っただけだ」
内心焦りながらも小声で話す。
決してイコナが寝ている間に薬を塗るフリして、あんなことやそんなことはしていない。断じて、していない。
……そもそも、イコナが普段着ている服がワンピースのような服だから、腕や脚は普段から露出しているわけなので、服を脱がせたりとかもしていない。
ただ、どことは言わないが女性特有の柔らかな感触を楽しむことができたのも事実。
まあコレくらいは役得ってことで、多少はね? 念のためにもう一度言っておくけど、決して怒られるような真似はしていない……はずだ。
「ならば良いのだ。さて部屋の奥から凄まじい視線も感じることだし、そろそろ入らせてもらえるか?」
ロンの言ったことが気になり部屋の奥へと振り返ると、そこには獲物を見つけた肉食獣のような目でロン――正確にはロンが持ってきた朝食を見つめるイコナの姿があった。
尻尾をブンブンと振りながらヨダレを垂らしているその姿は、竜人ではなくエサを待つ子犬のようにも見える。
そんなイコナを見て俺は苦笑いを浮かべながらロンへと向き直った。
「ああ、わざわざありがとう、ロン」
「礼には及ばぬ。我が好きでやったことだ」
そうして部屋にロンと料理が入るなり、俺達三人のこれまた賑やかな朝食が始まったのは言うまでも無いよな。
♢♢♢
「そうか、では一度テラーノの元へと戻るということだな?」
「ああ、今話し合った限りではそうしたほうが良さそうだしな。イコナもそれで良いんだよな?」
「わらひも、むぐむぐ……それで良いと思います」
俺達は朝食を食べながら今後どうするかについて話し合っていた。
で、最終的に出た結論はとりあえずテラーノの所に戻ってゆっくり決めたら良いんじゃないか、ということ。
もちろんイコナに知られないほうが良さそうなことは伏せてある。テラーノと相談して伝えたほうが良いってなった時に伝えるってしても遅くは無いだろうし。
ちなみに朝食のほとんどは竜コンビの腹の中へと消えていった。俺が食べれた量だけでも朝食にしては多いように思えたから、まあそれはそれで良し。
「ご馳走様でした! やっぱりココのご飯はとっても美味しいですね〜。いっそこのまま住んじゃいたいくらいです」
「そう言ってもらえると我も嬉しいぞ。だが、本当にここに住み着いてしまったらテラーノが泣き叫ぶことだろう」
「あう、それはイヤです……」
なんなら孫娘を餌付けして取ったとか、そういう変な難癖つけて殴り込みに来そうなもんだけど。
あのジイさんならやりかねないのが恐ろしい。
「さあ料理も食べ終わったし、そろそろ出発の準備をしようぜ」
「え〜! もう出発するんですか? まだロクダさん達に挨拶できてないですし、それにお買い物とかしたいです!」
「そうは言ってもなぁ。早めに出ないと山の中で野宿するハメになるんだよ。それは避けたいんだ」
本音を言えばイコナが今言ってたことをやったら、そのままイコナの正体がバレかねないから、とっとと退散したいんです。
「イコナの気持ちもわかるが、レストの言い分ももっともだ。そこでだ、イコナよ。ロクダ達には我からよろしく伝えておくから安心するがいい。それと、買い物代わりにこの魔石を授けよう」
ロンは懐から、掌に収まるほどの小さな石を二つ取り出した。
その石は宝石のように凄く綺麗とまでは言えないが、キラキラと輝いていた。
「ロンさん、コレは?」
イコナは不思議そうに二つの石を見つめながら尋ねていた。
「これは契約石と言って、魔物を従えるための魔法を使う媒体となる魔石、使い方は簡単だ。まずはこの魔石に契約者の魔力を込めて、魔物に食べさせる。魔物が契約者を認めれば、魔法陣が出現する。しなかった場合は諦めるしか無いがな。出現したなら、その魔物に契約者本人が名付けをすれば契約完了、魔物は忠実に付き従ってくれようぞ」
あっそう言えば地竜王に契約石をもらうのも目標の一つだったってこと完全に忘れてた……。
まあ結果的にもらえるなら良しとしようか。これでイコナとヴォルが契約できるから、旅の心強い仲間が増えるってわけだ。
「やった! ありがとうございますロンさん!」
「大事に扱うのだぞ。あまり多くは出回らない貴重な物だからな。今回は特別に二人分渡すが、普通はそう簡単に手に入るわけではない、ということをゆめゆめ忘れるでないぞ。わかったな?」
「わかりました! ロンさんがくれた貴重な物、大事にしますね!」
「うむ、レストも頼んだぞ」
「ああ任せてくれよ」
ロンは俺達の返事を聞いて満足そうな表情を浮かべていた。
「では、少し早いが見送りとさせてもらおうか。本当なら国を出るまで見送って行きたいのだが……ロクダがそれを許してくれぬからな」
「お気持ちだけでも嬉しいですよ。色々とありがとうございましたロンさん。どうかお元気で!」
「イコナの言う通りだ。本当にありがとう、ロン」
「礼を言うのはこちらのほうだ。其方達と共に過ごせたこと、心から感謝する。また我が国モンテスオロに遊びに来てくれ。その時はより一層の歓迎をさせてもらおう」
そして俺達は別れの挨拶を済ませた後、パパっと準備を済ませて地の国モンテスオロを旅立った。
目指すはテラーノの住処、俺とイコナにとって帰るべき場所だ。
ただし、行きでアレだけ寄り道したんだ。もちろん、寄り道せずに帰れるわけもなく……。
「わ〜見てくださいレストさん! プニプニしてて可愛らしいスライムさんですよ!」
「あ〜ハイハイ、ソウデスネ〜」
ヴォルと出会った林、そこに入る少し手前で出会った一体のスライムのせいで、もれなく立ち往生するハメになっていた。
別に急ぐ旅ってわけじゃないから寄り道自体は良いけど、良いんだけど……また行ったり来たりして振り回されるのはゴメンですよ……ハイ。
次話から第二章スタート! 今後もよろしくお願いします。
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