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人と竜の成長譚 〜ポンコツかわいい竜娘に今日も翻弄されています〜  作者: 蒼遊海
第一章 土の国モンテスオロ編
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第二十五話:地竜王の試練の果てに

「よし。とりあえず我がお前に教えられるのはこの程度だな」

「あたかも少なかったかのように言ってるけど結構な情報量だったぞ?」


 テラーノの授業よりもわかりやすかったからそう感じるだけかもしれないけど。


「そうか、ならば少しまとめておくか?」

「そうさせてもらうよ。俺なりにまとめるから間違ってないか確かめてもらってもいいか?」


「良かろう、ちゃんと我の話を聞いていたかどうか見定めさせてもらうぞ」


 ロンは俺を試すような目で見ていた。

 上手くできたらご褒美……なんてことはないか。


「えっと、まず第一にそもそも竜族をはじめとした魔族と俺達人間の魔力は同じようで少し違ってて、同じ器……つまり誰か一人が同時に持つこと自体が本来ありえないんだよな?」


 ようするにイコナの体内に魔族と人間の二種類の魔力があること自体が本来ありえないってことだな。


「そうだ。本来なら魔族と人族の魔力は反発しあうもの。故に同じ肉体に宿そうとしても、後から入れようとしたほうは拒絶反応を起こし弾かれるのだ」


 もし、人間の俺が聖竜石の魔力……つまり、ロンの貯めた魔力を貰おうとしても、それは不可能ってわけだ。

「そして魔力とは肉体そのものに宿るもの。だから人と魔族の間に子どもを作ろうとしても、親が宿している魔力そのものが反発しあうから、子どもができないんだよな?」


「うむ、ここまでは大丈夫だな」


 よしよし。ちょっとややこしいように思えるけど、ようは人間とそこら辺の動物の間に子どもはできないってのと似たようなもんだよな。


 おっと、魔族のことをそこら辺の動物呼ばわりしてるわけじゃないぞ?


「……そして、その本来ありえないことが起こって産まれたのがイコナ……つまり竜人族だな」

「そうだ。本来反発しあうはずの魔力が反発しあうことなく同じ肉体に入った。その最たる例が竜人族というわけだな」


 理由はわかんないけど、イコナの親にあたる竜族と人間の魔力は拒絶しあわなかったってことだ。

 もしかしたらこれが愛の力ってやつか? だとしたら凄いもんだ。


「最後にイコナの体内に二種類の魔力があるとはいえ、その二つは水と油みたいなもので決して混ざり合うことなく、お互いにそのまま残っていると」


「うむ。そして今のイコナは言ってみれば『人の魔力』(大量の水)『竜族の魔力』(極少量の油)が入った容器にほんの少しだけ油を足したような状態というわけだ」


「もしそのまま『竜族の魔力』()を一気に足そうものなら、器から溢れ出てしまってどうなるかわかったもんじゃない。だから今回イコナに渡せる魔力は少なくしないといけなかった。そうだよな?」


「そうだ。イコナが魔法に慣れて、魔力の器が大きくなれば更に追加することもできるだろう。だが、その時同じ魔力を追加し続けたら、彼女の体内で光属性ではない別の属性が強くなりすぎてしまう可能性がある。そうなってしまった時どうなるかは我にもわからぬからな。だからこそ、避けねばならんのだ」


「そのためにロンの聖竜石だけじゃなく、他の竜王が保管している聖竜石から魔力をもらう必要がある、と」


「……よろしい。お前のように理解するのが早い者に教えるのはやり易くて助かる」


 ロンはにこやかに微笑んでいた。


 今の話をもしイコナにしたら、三回くらいは繰り返し説明しないと理解してもらえないだろうしなぁ。ロンの気持ちはなんとなくわかる。


「そういえばふと気になったんだけど、どうしてロンはそんなに詳しいんだ?」


 何気ない質問だった。だがロンは昔を懐かしむかのように天を見上げながら答えた。


「昔、魔力とはそもそも何なのかを研究していた知り合いがいたのだ。我の知識は、かの者が導いた答えを写しただけに過ぎぬよ」


「そっか。凄い人……いや魔族だったんだろうな」


「ああ、凄い存在だった。魔法の知識に関しては今でもあやつを超える者を見たことが無いほどにな」


 それって賢者様と同じくらい凄いってことじゃないか!?

 いやいや待て待て、ロンが出会った中ではってことだよな多分。もし賢者様みたいに凄い奴が魔族側にいたんなら、もっとそれらしい話が残ってるはずだ。ロンの話し方からして昔の話みたいだからな。


 これ以上は詮索しないことにしよう……なんか聞かないほうが良いような気がする。


「あ〜えっと……とりあえずはテラーノに報告しに行かないとダメだよな。今後どうするかも相談したいし」


「それが良いだろう。だが今日は休め。適当な理由をつけてお前達の部屋には何人たりとも入らないようにしておくから安心してよいぞ」


 気づけばもう太陽は天辺を超えているように見えた。

 昼過ぎからテラーノの住処に向けて出発したんじゃ山中で野宿することになりそうだしなぁ。


 今日は甘えさせてもらおうか。


「ああ。イコナの正体がバレないように頼んだぜ。もちろん俺も気をつけるから」

「承知した……では、イコナを迎えに行くとしようぞ。そろそろ疲れて来た頃合いだろう」


 そう言うロンの表情は孫の成長を見守る祖父のようにも見えた。まあそんな光景を見たことないから想像に過ぎないんだけども。

 それはそれとしてイコナの声が聞こえなくなってたのは疲れてたから……か? だとしたらまだ良いんだけど。


 ロンが扉を開け、イコナを呼ぶ。俺もその後ろについて行った。


 だがイコナの返事は無かった。


「おかしい……ここってそんなに広くは無かったよな?」

「ああ、声が聞こえぬことは無いはずなんだが、そもそも姿が見当たらないというのも気になるな」


 出て行ったなんてことは無いだろうし、一体どこに……ん?


「なあロン、あそこで横になってるのって……」

「ん……? なるほど、そういうことか」


 そこにいたのは金髪で、これまた金色の尻尾が生えた少女だった。見たところ意識は無いみたいだ。


「おい、イコナ!! 何があった!?」


 俺は考えるよりも早くその少女……イコナの側に駆け寄り、なんとか意識を取り戻させられないかと、イコナの体を揺すりながら声をかけていた。


 しかしイコナは目を覚まさなかった。何度揺らしても、どれだけ大声で名前を叫んでも。


「イコナ! おいイコナ! 返事してくれよ!!」


 まさか、取り込んだ魔力のせいで……ロンの言ってたことが本当なら竜族の魔力と人の魔力が反発しあって、イコナの体に何かしらの大きな負担がかかっているって可能性もある。

 それに一気に取り込みすぎたら何が起こるかわからないって言ってたもんな……。


 でも取り込んだ量は極少量のはず、なら一体どうして……?


「落ち着け、レストよ」


 ロンが俺の肩に手を置いてきた。


「落ち着いていられるかよ! イコナが倒れてたんだぞ!?」


「だからこそ落ち着けと言っているのがわからないのか? テラーノは過保護だと思っていたが、お前も大概のようだな」


 ロンはそう言いながら笑っていた。


「なんでこの状況で笑っていられるんだ……?」


「それは決まっているだろう。イコナの身に大事は無いからだ」


 大事は……無い? でも現にイコナは倒れていて


「く〜……すぴ〜……」


「……は?」


 間の抜けた寝息のような音が聞こえ、俺まで素っ頓狂な声を出していた。


「その様子からしてやはり気づいていなかったか」

「な……まさか? ロン?」


「その『まさか』だ」


 改めてイコナの顔をよく見てみた。その表情はとても気持ち良さそうに眠っているように見える。


 ……というか間違いない。


「おそらく、まだ慣れない魔法を今できる最大出力で使い続けた影響で、魔力切れが近くなり、そのうえ我との戦闘の疲れが出たのだろうな」


 はい、ロンさん、冷静かつ的確な解説ありがとうございまーす。


 それはそれとして。


「ようは疲れて寝てただけだってのかよぉぉぉ!!」


「むにゃむにゃ……すー……すぴ〜……」


 俺の魂の叫びは虚しく祠に響き渡り、イコナはそんなこと知りませんと言わんばかりに、それはもう気持ち良さそうに眠っていた。


 心配して損した……。


「コホン、あーレストよ。お前も頑張っていたがイコナもまた頑張っていたのだ。今くらいはゆっくり休ませてやっても悪くないのではないか?」


「……わかってるよ。ただ……ん〜なんて言うか、ほらどうしようもないこの気持ちがさ」


「ふむ、わからんでもないな。なんにせよ、今日はもう部屋に戻って休むといい。お前も疲れているだろう?」


「そうだな。じゃあお言葉に甘えて」


 色んな意味で疲れましたよ。ええそりゃもうね。


「うむ、それでは……と、その前にせっかくここまで来たのだ。レストよ、お前も聖竜石に祈りを捧げておくか? なんでも祈りを捧げれば願いが叶うという噂があるらしいではないか。お前自身の旅の目的が叶うように祈っておくのも悪くないと思うのだが、どうだ?」


 そういえば元々はそんな噂があるからって理由で旅を始めたことになってるんだったな。

 お祈りするだけならタダだし、せっかくだからさせてもらおう。


「じゃあイコナを任せても良いか?」

「任せておけ。祈り方は大丈夫だな?」


「ああ、イコナのを見てたからバッチリだよ」


 居眠り姫(イコナ)をロンに任せて、聖竜石へと向かう。

 遠目に見てただけだったけど、いざ近づいてみると威圧感にも似たものすら感じるな。本当にとんでもない代物なんだって嫌でも思わされる。


「できれば俺の願いも叶えてくださいっと」


 そう小さく呟いた後、イコナがしていたように祈りを捧げていく。


『…いに……きが……て……ったな』

「っ!?」


 なんだ……今の? まるで頭に直接響くような声がしたような……。


「どうかしたか? レストよ」

「いや……なあ、ロン今何か喋ったか?」


 ロンは不思議そうに首を傾げていた。


「我は何も喋っていない。急にどうしたのだ? なにやら様子がおかしいぞ」


 ロンは喋ってない? じゃあイコナが寝言でも……いやアレはイコナの声じゃなかった。どちらかというと男、しかも俺と同い年くらいのような声だった。でも、一体誰の?


「お前も疲れているから、幻聴か何かでも聞こえたのではないか? もしかしたら聖竜様が直接応援してくださったのかもな。ハッハッハ!」


「……ああ、そうかもな」


 ロンが愉快に笑う中、俺は生返事を返すくらいしかできなかった。


「……そうそう、大事な物を忘れていた」

「大事な物? なんだよそれは?」


 ロンはおもむろに懐から袋に包まれた草を取り出した。

 毎度思うけど、その懐に入れてた物って本来の竜の姿に戻った時はどこに入ってるんだ?


「コレは我が国の中でも有名な薬草でな。肉まで抉れているような傷でもたちまち治るという謳い文句まであるのだ」


「ソレ……本当か?」


 それもう薬草っていうか一種の回復魔法では?


「さあな。なにせ我はこの国ができてからというもの薬草が必要な傷など負ったことがないから、試したことは無いのだ」


 でしょうね。そもそも一国の王が傷つくなんてことあったら、その国はもうヤバい状況ってことだし。


「まあその謳い文句は置いといて、効くのは効くんだろう? でも俺は知っての通りこの指輪のおかげで傷一つ無いぞ?」

「お前はそうだろうが、この娘はそうではないだろう?」


 ロンはイコナの方を向きながら、違うか?と言いたげにしていた。


「……そうだったな。アレだけ元気にしてたけど確かに傷ついてたもんな」


「ああ、我々竜族は傷の治りが比較的早いほうだが、イコナは女性だ。もしも身体に古傷が残ろうものならテラーノ(あのバカ)が何を言ってくるかわからないからな」


 ついでにレスト()の丸焼きもできるかもな。


「というわけだ。頼んだぞ」

「ん? 何をだ?」


「決まっているだろう? イコナの傷に薬草を塗って、ちゃんと治るようにしてやってくれ」


 いやいやなんで!? なんで俺なの!? そこはお城で働いてる女の人とか……ってそれじゃイコナの正体がバレちまうかもしれないんだった。


「べ、別にロンがやっても良いんじゃないか?」


「それはもちろん傷つけたのは我だからちゃんとしてやりたいところだが、ロクダが仕事を片付けろと、うるさくてな。できる限り早く戻らねばまた小言を聞かされるハメになるのだ」


 相当うんざりしていらっしゃいますね……心中お察ししますから、俺の心中もお察しして頂けませんか?


「……わかったよ。部屋でイコナが寝てる間にやっとく」


 俺の返事を聞いてロンはニッコリと微笑んだ。


「助かる。あ〜それと、其方なら大丈夫だと思うが念のために……くれぐれも変な気を起こすなよ? 後が怖いからな。もし、何かしでかしたとしても……我は助けれぬぞ?」


「わかってるよ! 俺だってそれくらい弁えてる!」

「なら良いのだ。後日、丸焼きになったお前を見たくはないからな」


 俺だってそんなのゴメンだ。


「では、そろそろ部屋に向かうとするか」

「そうしよう。もう俺は疲れたよ……ロン」


 ロンは苦笑いを浮かべながら、寝ているイコナをお姫様抱っこした。このまま部屋に連れて行ってくれるんだろう。


 部屋に戻ったらやることやって俺も寝よう……。


親バカ竜「イコナの貞操に危機が迫っておる気がする……奴か!」


もふもふ「ガウ」


親バカ竜「止めるなヴォル! ワシは、ワシはイコナを守らねばなら、ごふぅ!」


もふもふ「ワウン」(やり切った顔)

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