第二十一話:仲直り
「落ち着いたか?」
「……はい。ありがとうございます、ロンさん」
泣き疲れた様子のイコナに、ロンは優しく微笑みかける。その姿はまるで実の孫娘に対して優しく接する祖父のようにも見えた。
この光景、なんか見たことあるような……?
……あ〜そうか。イコナと初めて会った時だ。
あの時は俺が慰めてたけども……そういやあんな感じで腫れぼったい目になってたなぁ。せっかくの美少女が台無しだなって思ったっけ。
「そうそうイコナよ。レストがお前に話があるそうだぞ?」
「えっ?」
瞬間、イコナは座り込んだまま全身を張り詰めらせ身構えた。地面にへたり込んでいた尻尾もピンと空へ向けて伸びている。
「そう怯えずとも良い。お前にとって悪い話では無いからな……そうだろう? レストよ」
ロンが目配せをしてきた。しくじるなよ、とでも言いたげに。
……大丈夫。まずは謝って、後は……なんとかなる、だったよな?
「……ああ」
できる限り優しい感じで返事したつもりだけど……あまりイコナを不安にさせたくないからな。
「……わ、わかりました」
イコナは小さく頷き、ゆっくり立ち上がると俺の方へ近づいてきた。
その表情にはまだ不安の色が少し見える……気がした。
ここで俺まで不安になってたらダメだよな……よし!
「イコナ!」
「っ!? は、はい!」
あっ、つい力んで声が大きくなっちまった……って、イコナがぷるぷるし始めた……やっちまったよ。
イコナの背中越しにロンが呆れてるのが見える……違うんだって、わざとじゃないんだって。
「……あ、そのゴメン。俺も緊張しちゃってるみたいだ。それで、その……話なんだけど」
イコナはただ黙って俺を見つめていた。何かを祈っているようにも見える。
どうやら話は聞いてくれるみたい……だな。
「えっと……さっきは俺がやり過ぎた、ゴメン。イコナに辛い思いをさせようとか、そんなことは思ってなかったんだ」
「……ど、どういうことですか?」
「だから、俺が怒り過ぎてたってことだよ。イコナがあんなに悲しむなんて思いもしなかったから……だから、ゴメン」
「レストさん……」
くう、なんか恥ずかしくてイコナに顔を合わせられねぇ……まいったな。
「じゃあ、レストさんは私のこと……嫌いになったわけじゃ……?」
「そんなわけないだろ! ただ今回はいつもよりちょっと頭に来ちゃっただけで……だから、イコナが気に病む必要なんか無いんだよ」
「そ、それなら……私のこと、どう思ってますか?」
「ど、どうって……どういう意味だよ?」
「そのままの意味です! 私のこと好きか、嫌いか……です」
「はぁ!?」
いやいや急になに聞いてんの!? えっ? 好きか嫌いか? ちょっと待って、そういうこと? コレそういうこと!?
……そういうことは考えたこと無かったんですけど。
「ちょ、ちょっと待ってもらってもいいか?」
「……? どうしてですか?」
「どうしてって……そりゃそんなこと聞かれてすぐ答えれるかよ」
「そういうもの、なんですか?」
「そういうもんだよ!」
「そこまで言うなら、わかりました」
つい勢いでイコナの方を向いてしまった。
そして気づいてしまった。
なんで顔赤らめてんの!? そのモジモジしながら待ってるのもなんで!? 尻尾までクネクネしてるし、やっぱり……そういうことかぁ。
「レストよ。男ならば覚悟して挑むべき時は必ず来るものだぞ」
なんだよその無駄に良い笑顔は!? 今がその時ってか!?
だあぁもう! わかったよ! やってやろうじゃねぇか!!
……思えばイコナは間違い無くポンコツだ。その見た目に反してダメなところが多いとか、人の話を最後まで聞かないとか……とにかく色々だ。
それでも一緒にいて楽しいと思えるし、これからも一緒にいたいと思える。
なら……答えは一つだよな。
「俺は……これからもイコナと一緒にいたい」
イコナは顔を赤くしたまま目を逸らしていた。
「それは……その、好きってこと、ですか?」
「……そういうことでいいよ」
イコナはレストの返事を聞いた途端に、その白い頬をより一層赤く染めながら輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
「私も……私も大好きです!!」
「うおっ待て、ロンが見てるだろ!」
イコナはレストへと飛びつき抱きついていた。レストは戸惑い、恥ずかしがりながらもしっかりとイコナを受け止める。
「我のことは気にせずとも良い。うむ、やはり若さとは良いものだな」
「あ、あの……それじゃあ、これからレストさんは……私の……その」
「わ、私の?」
あっ待って、確かにそれっぽい雰囲気になったけど……いざそういう関係になると思うと、心の準備がああぁぁ……ダメだ、もう何も考えられなくなってきた。
「……私の親友ですね!」
「は?」「ん?」
おかしい、何かがおかしい気がする。
「あれ? どうしました?」
「いや、その……俺の聞き間違いかもしれないからもう一度言ってもらってもいい、ですか?」
「そんな……恥ずかしいですよぅ。もう一度だけですからね?」
いや、もしかしたら俺とロンのほうが恥ずかしい思いするかもしれないんですけど?
「レストさんは私の……親友、です。うう、やっぱりいざ口にすると恥ずかしいですぅ」
「……あ、親友、親友ね。そっかそっか」
イヤァァァ!! 今すぐ俺をあのダンジョンの落とし穴に落としてそのまま生き埋めにしてくれぇぇ!!
「も、もしかして親友は嫌でしたか!?」
「……え? あっイヤ……そうじゃないんだ。そうじゃなくてだな……うん……」
どうやらイコナには勘違いしてたとバレていないらしい。それだけは唯一の救いと言える。
「……ああ、そっか! そういうことですね!」
え? 待って、なにその大事な事に気づきましたって感じ。しかもちょっと悪い笑顔してない?
……まさか、いやそんな、イコナだぞ? そう簡単にバレるわけない。
「私達はもう家族でしたね!」
んんんん!? なんか凄い勢いで段階を踏み飛ばしてませんか!?
「そうですよね。今思えば同じ洞窟に住んでて、同じようにご飯食べて、同じようにおじいちゃんにお勉強教えてもらって……うん! やっぱり家族そのものです。そうなると、レストさんは私より色んなこと知ってますし……私のお兄ちゃん、みたいなものですね!」
お〜頭が追いつかなくなってきたぞ〜。
「待て、落ち着くんだイコナ」
そして俺も落ち着け、冷静になれ。
「どうしたんですか? レストさ……お、お兄ちゃん?」
「とりあえずお兄ちゃん呼びは辞めようか」
「むう」
ハイそこ〜『せっかく勇気出して呼んだのに!』みたいな感じで頬を膨らませな〜い。
そんなリスみたいに膨らませるなら〜こうだ。
イコナの膨れた頬を横から挟んだ。すると間の抜けたような音と共にイコナの口から空気が吐き出された。
「……何するんですかぁ」
「こうして欲しそうに見えたからな」
「そんなこと思ってないです!」
……なんだかんだで、いつもの調子に戻ったみたいだな。
とりあえずそれで良しってことにしとこうか。
「いいか? イコナ。俺達は確かに短い間だけど家族みたいに暮らした。でも俺達はあくまでも友達……まあ親友ってことでいいか。とにかくそういうことだからな。わかったか?」
イコナはムスッとした表情から、嬉しそうな表情へと変わり元気に応えた。
「ハイ! 私とレストさんは親友です! 大の仲良しです!」
「そういうことだ。さて良いようにまとまったし、そろそろ本命に行こうぜ?」
「本命……ですか?」
「ああ、忘れたとは言わせないぞ? すぐそこに例の魔石があるんだからな」
「……あ、あああ! そうでした! ゴールは目の前なんでした!」
忘れてたな。そうじゃないかとは思ってたけど。
「私、先に行きますね。一番乗りは絶対に譲れないですから!」
「あっ、おい! ったく、ロンがいないと祠の入り口は開かないってのも忘れてるな? いつもの事と言ってしまえばそれまでだけど」
あっという間に祠の目の前にまで走っていったイコナは入り口が開かず困り果てているようだ。
「レストよ……その、すまない」
「……後で美味いもん食わせてくれたら許そう。結局イコナがほとんど食ってたようなもんだから、食べ損ねたのも多くてな」
「あいわかった。だが、あそこまで慌てた様子のレストが見れるとはな……くくっ」
「……いくら地竜王といえど、なんでも許されると思うなよ?」
「すまない。つい、な」
本当に悪かったって思ってんのか? さっきから笑いを堪えきれてないのが目に見えてるぞ。
「レストさーん! ロンさーん! 扉が開かないんですけどー!」
少し遠くでイコナがこちらに向かって手を大きく振っているのが見える。
「今行くからちょっと待ってろー!」
ロンは後で改めて問い詰めるとして、今は旅の目的を果たすとしようか。
あのまま放置してたら扉を壊してでも入りそうだし……さすがにそんな事になったらどうしようも無くなっちまう。
それにしてもいよいよか。聖竜石、きっととてつもない代物なんだろうな。
イコナがはしゃいで何か悪い事件を起こさないように気をつけないと。
親バカ竜「ふっ……なかなかやるようになったではないか?」
もふもふ「ガウッ!」
親バカ竜「良かろう。イコナのほうも落ち着いたような気がするしな……それにその戦いっぷり、これからは食料調達も兼ねて、そこいらの魔獣と実戦でもするかのう?」
もふもふ「わふん」
親バカ竜「とりあえず今日はちょっと良い肉をくれてやるからそれで我慢せい」




