第十六話:王たる大地の竜と若き光の竜
「さあ、着いたぞ。ここで我と戦ってもらう。もちろん二人一緒で構わぬぞ」
二人一緒……と言っても俺はほとんど戦力外なんですけど。
頂上への案内はロン一人だけだった。頂上と言っても、山の頂上とは思えないほど広い平地……その先には平家のような建物がポツンと建っていた。
ちなみにロクダ達はこの頂上の周りを囲っている、目には見えない魔力の壁……もとい結界を維持する魔法部隊の指揮とか、その他手伝いをしているらしい。
「だが戦う前に……あの奥に見えている祠、そこにイコナの目的である魔石、我らは聖竜石と呼んでいる件の魔石がある」
あの平屋っぽいのは祠だったのか……特別な魔石、もとい聖竜石だったか……があるのはもっと豪華で厳重な場所をイメージしてたんだけどなぁ。
ちょっと残念……かな。
「あの、ロンさん。聖竜石……でしたっけ? 特別な物のはずなのに、もっとこう……大事に保管したりとかはしないんですか?」
ナイスだ、イコナ。ちょうど俺の聞きたかったことを聞いてくれた。
「遠目には厳重な警備も何もしていないうえに、こんな開けた場所にあって危なっかしいように見えるだろうな」
「ハイ、そう見えます」
「だが実際のところ、あの祠は我が丹精込めて作った建物だからな。それこそ我のような竜族の攻撃だろうと、少々受けた程度では傷一つ付かぬ。そして正面のみにある入り口だが、我がいなければ入れない結界を張ってあるため、他者は入ろうにも入れぬのだ」
そう言えば土属性は、大きく六つに分けられる魔法属性の中で、最も防御に秀でた属性って言われてたな。今周りに張ってあるであろう結界とか、祠の結界とかも土属性なら容易に張れるんだろう。
俺もいつかはそんな魔法を……と夢見て、早何年経ったかな、はぁ。
「それに、あの祠は今張らせている周囲の結界よりも外にあるからな。我らの戦闘で壊れる心配もしなくて良い……さて、前置きはこの辺りにしてそろそろ始めようではないか。我が友に育てられたイコナ、そして我が友に認められしレスト。そんな其方達と戦えると思うと、久しく血が滾るのだ」
ロンは平地の中心付近へと歩いて行き俺達へと振り返った。
その顔は普段の穏やかな表情ではなく、まるで戦いに慣れ親しんだ戦士のような表情だった。
若い頃の血が騒ぐとかそんな感じか? そんなに楽しみにされても困るんだけどなぁ。
イコナはともかく俺は……って今思えば、ロンは俺が大した戦力にならないどころか、むしろ邪魔になるまであるのを知ってるはずだよな!?
「改めて名乗ろう。我は地竜王ドゥーロン、地の国を治める者にして、かつて偉大なる聖竜様の絶対なる盾と呼ばれし地竜なり!」
名乗り終えたロンの姿はみるみる内に人のソレから、竜のソレへと変わっていった。
小さな丘とさえ思える、見上げるほどの巨体。その巨体は二本の足で立っていた。
腹側と背中側はそれぞれ岩石のような鱗でできた、薄黄色と土色の甲殻に覆わている。その甲殻のところどころは色あせたようになっており、長い時を生きてきた証拠になっていた。そして尻尾は前に見たテラーノのそれよりも太く長いうえに、先端はまるでトゲのついた大槌のようだ。
背中に翼は無いが、そんな物は必要ないと言わんばかりの逞しい四肢。頭部には後方へと伸びる四つの太い角と鼻先に鋭い角が一つ、それらは一本一本が人間の大人よりも大きいように見える。
「さあ、其方達の力を我に示してみせよ!」
そしてロンの咆哮が響き渡る。それだけで地面が揺れたように感じるほどの轟音。
……凄いプレッシャーだ。
「これがロンさんの本当の姿……凄い、凄いです! おじいちゃんよりも大きくて逞しくて……でも私だって負けるわけにはいかないんです。応援してくれたおじいちゃんのためにも、ここまでついてきてくれたレストさんのためにも……絶対に!」
イコナ……そうだよな。イコナがあれだけ張り切ってるんだ。俺がビビってるわけにはいかない!
「レストさん! もう……良いですよね? 今のロンさん相手には人間さんの姿じゃ……多分敵わないですから」
イコナは決意を固めた表情で俺を見つめていた。
……つまり竜の姿になってもいいかってことだよな?
確かにイコナの言う通り、本来の姿になったロン相手には人の姿じゃ無理があるだろうな……。
ふと、俺はロンの顔を見た。ロンは俺を見るとただ静かに頷いていた。
……何も心配はいらない。俺にはロンがそう言ってるように思えた。だったら……答えは一つだ。
「……思いっきり暴れろ、イコナ!」
「ありがとうございます、レストさん!」
イコナの体が光に包まれ、姿が変わっていく。
全身を包む金色の甲殻は陽光を浴びて光り輝く。その背中には少女の時の髪を彷彿とさせる、黄金の鬣が風に靡いていた。
四肢も尻尾も、そして後頭部にある二本の角もロンのそれに比べれば、か細く感じるがそれを補うかのように、鬣を挟んだ背中の両翼は大きく広げられていた。
「……綺麗だ」
俺は思わず見惚れていた。さっきまで感じていたロンの大きなプレッシャーを忘れるほどに。
しかし、ロンとイコナの体格差は歴然だった。イコナはロンの半分ほどで、これだけを見ればイコナには勝ち目が無いようにすら思えた。
「やるからには全力でいきます! 絶対に試練を突破してみせますから!!」
先ほどのロンの咆哮に負けじと、イコナの咆哮が響き渡る。ロンのソレとは違い透き通った、それでいて確かな重みを感じる不思議な咆哮だった。
その咆哮は恐怖を打ち消し、己自身を鼓舞するかのようにも聞こえた。
「イコナ……絶対に勝つぞ!」
イコナのためにも、俺ができることを考えるんだ。……何か少しでもできることを。
親バカ竜「な〜んかワシが噛ませのように扱われておる気がするんじゃが?」
もふもふ「うう……わう」
親バカ竜「……なんじゃその目は? 頼むからそんな憐むような目で見るのはやめてくれんかのう」




