第十四話:少年の旅の行方
「……それで、手紙の内容ってのは何だったんだ?
」
「まあそう身構えるで無い。大体はお主も知っておる事だ」
大体は……か。知らない一部が何なのか気になって仕方ないんですけど。
「先にどんな事が書かれていたかだけ、簡単に説明しておくとしようか」
「そうだな……お願いするよ」
ロンは机に置いた手紙を一瞥した後、ゆっくりと口を開いた。
「まず始めに、イコナとレストについてだ。具体的にはイコナの正体と、其方がテラーノ達と暮らすようになった経緯、そして旅の理由だな」
「そっか……じゃあイコナの種族も、俺が人間ってことも」
「うむ、承知している。だが安心するがいい。其方達が何者であれ、我は今までと変わらず接すると約束しよう。無論、其方達の正体を口外することも無い」
「……ありがとう、ロン」
テラーノが俺達のことをロンに伝えたってことは、それだけロンは信頼に足るってことだろう。俺もロンは信頼できる。
ロンは俺の礼に頷きを返し、そのまま続けた。
「内容の続きだが……そこからしばらくはイコナがどれだけ愛らしいか、ただそれを語る文がつらつらと続いていたな、ここは聞いていただろう?」
「お、おう……」
ロンは少し疲れたような……呆れたような、そんな雰囲気を醸し出していた。
あの親バカめ……重要な手紙ってわかっててやっただろ。この微妙な空気どうしてくれんだよ……。
「……そしてだな、其方達のことをよろしく頼む、とあった」
「……俺達のことをよろしく頼む、か。それは今回の旅の件について、だよな?」
「ソレもあるだろうな」
「ソレも?」
他に何かあったっけ? まさかこのままロンと暮らせってことか? いや、さすがに無いか。
「うむ、さて手紙の内容はほぼ話した。ここからはソレらも踏まえて我自身が問いたかったことを話そう」
「あ、ああわかった」
一体、何を聞かれるんだ? ロンの眼からして何かとても重要なことみたいだけど……わからないな。
ロンは机に置いた手紙を懐にしまい、一呼吸置いてから話始めた。
「レストよ、其方達の旅はあくまでもイコナのための旅、そこは間違いないな?」
「……そうだな。俺はただイコナの手助けとしてついてきてる感じ……かな」
「……其方はそれでいいのか?」
「えっ、どういう意味だ?」
思わず聞き返していた。
「そのままの意味だ。其方達が今している旅はイコナが主体のもの。ではレストよ、其方はどうなんだ? 何故、旅をする?」
「それは……イコナを助けるため、かな」
「本当にそれで満足か?」
「……わからない。最初はテラーノに頼まれたし、俺を友達だって言って仲良くしてくれるイコナのためにって思ってた。でも逆に言えば、それしか理由が無いんだ。俺自身がこの旅で何をしたいのか……もちろんイコナの力にはなってやりたい。でも、それ以外はなにも……わからない」
「……そうか」
夜の静けさが沈黙した俺とロンを包んでいく。
……少し気まずくなり、何か喋ろうとしたその時ロンのほうから喋り始めた。
「ならばこういうのはどうだ? この旅を通してレスト自身の出生や、何故赤子の時から一人だったのか、そういった自分でもわからぬことを探り、真実を見つける……というのは?」
俺の出生や何故一人だったかの理由探し……ってことか?
「……でも魔族領域じゃ、人である俺のことなんかわかる訳ないだろ。まして俺は王族とかそんな名のある者じゃ無いだろうし」
「ソレはわからぬぞ。魔族領域と言っても、『水竜王フルボーナ』が治める、水の国『アファリアック』ならば何かわかるかもしれん。少なくとも可能性はあるはずだ」
「どうして、そう言えるんだ?」
「水竜王は五大竜王の中で、最も若く紅一点にあたる存在。だが、その若さに反して見識の広さと頭脳は五大竜王の中でも群を抜いている。そして水の国は魔族領域随一の商業国家だ」
商業国家? 水竜王の見識の広さならまだわかるけど、商業国家は何か関係あるのか?
「水の国は水竜王の策により、魔族領域の新生国の中で最も早く、人族の国と交流を始めた国。その時から今に至るまで、海路を使い貿易をしている。つまり人族の情報が流れることも多いのだ。そして商人にとって情報は命とも言える。商いに役立てようと、些細な噂話にも聞き耳を立てていることだろう」
「そういった多くの情報の中や、もしくは商人達が俺のことを知ってるかもしれないって言うのか?」
「うむ。試す価値はあると思わないか?」
「……どうかな? 俺はただの人間だぜ? 産まれた時から親に放置されてるなんてことは少なからずある。それだけを頼りに情報を聞いて、もし何かを知れたとしても、それが俺のことだってわかるとは思えない」
ロンの言葉に対し、思わず強く反論していた。
「その考えは少し間違っているぞ、レストよ」
「間違えてる? どこがさ?」
俺の言ったことは真実だろ? それとも根気よく探せばいつかは辿り着けるとかそんなことか?
「まず前提としてお前はただの人族、とは言い難い」
「……理由を聞かせてくれないか?」
「それはお前自身も良くわかっていると思っていたんだがな。だがわからないと言うのなら我が教えよう」
「……お願いします」
「よかろう。ハッキリと言ってしまえばお前の持つその膨大な魔力、この時点で本当に人間なのか疑うほどだ」
……俺の持つ魔力が人よりも遥かに多いのは自覚してた。でも人間なのか疑うほどなんて、そんな。
「次にお前の魔法適正だ。知っての通り六属性全てはおろか四つ以上の属性を使いこなした人族など、かの聖魔大戦にて突如現れた『賢者』しかおらぬ、少なくとも我らが知りうる歴史ではそう語られている。だがお前は初級程度とはいえ、四属性を使うことができる。そうテラーノの手紙には書いてあったが、コレが本当ならば……レストよ、其方はただの人族とは言えぬ……わかるな?」
「じゃあ……」
拳をこれ以上無いほど強く握りしめ、同時に震えるほどの力を腕に込め、俺は感情の赴くまま声を張り上げた。
「じゃあ、俺は何だって言うんだよ! 人間じゃなくて魔族だって!? それとも人でも魔族でもない、ただの化け物だって言うのか!?」
ロンは俺が言い終わるまで、ただ黙っていた。俺の全てを受け止めるかのように。
「そうでは無い。其方は……レストは特別な存在だと言いたいのだ。他ならぬ、お前だけが持ちうるその才能、それは異質に見えるだろう。だが、物事は全て捉え方次第だ。何か一つ些細な事を取っても、その当事者次第で良き事だと思う者もいれば、悪しき事だと思う者もいる。世の中はそういうものだと思わないか?」
ロンはとても優しい表情を浮かべていた。俺の目にはその姿がまるで全てを受け入れる、母なる大地のように見えた……ロンは男だけども。
「……ロン、ゴメン。ついムキになった」
「気にするな。我の言い方も悪かったのだ……改めて問おうか、レストよ。お前は自分の出生……果ては何故そのような強大な力を持っていたのか、それを知りたいと思わないか?」
「……そうだな。良い機会だし、俺は自分を知りたい。答えが見つかるかはわからないけど、何もしないでいるよりかは、探してみるほうが良いと思うんだ。もしかしたら、その先で俺の本当の両親にも会えるかもしれないし」
「……もしその先にある答えが、レストの望む答えとは違う……その上、悪しきものだったとしても……そう言えるか?」
「なんだよ。人に探すのを薦めておきながら、今度はやけに具体的に脅すんだな」
ロンは真剣な表情をいつもの優しげな表情へと戻しつつ答えた。
「具体的とはいえ、例えばの話だ。それだけ強大な力ならば、もしもがあってもおかしくは無い。そうだろう?」
「それもそうか……でも俺は仮にそうだとしても、答えを探すことにしてみるよ。自分が何者なのか、今まで考えたことも無かったけど、今は本気で知りたいって思うんだ。その先に何が待っていても……な」
「……むにゃ……お二人とも、もう少し静かにお話ししてくださいよう……特にレストさん」
声のした方を向くとイコナが上半身を起こし、寝ぼけ眼でこちらを見ていた。
……あ〜さっき俺が大声出したから、起こしちまったのかな。
「……その、ゴメンよ? イコナ。つい、大声出しちまった。今から静かにするよ」
「う〜わかれば良いのですよ〜。何を話されてたのかは知りませんが……お二人も早くおやすみになったほうが良いと、思い……ま、す……スー」
あ、寝た。起きたっていうよりは、ただ寝ぼけてただけみたいだな。
「ふふっイコナはマイペースなものだな」
「……そうだな。いつもあんな調子だからさ……時々、なんとなく羨ましくもなるよ」
「そうか……レストよ。自分の正体が一体何か、それを追い求めるとなると、きっと苦労も多いだろう。だがそういう時こそ、イコナのように気楽な、マイペースになることも大事だと、我は思うぞ」
「年長者のありがたいお言葉として、受け取っておくよ」
「そうしてもらえると嬉しいものだ……ではそろそろ、我はお暇するとしよう。話せて良かったぞレストよ。また明日会うのを楽しみにしている」
「ああ俺も楽しみにしてるよ。今日はありがとう」
「うむ。ではな」
ロンはそのままゆっくりと立ち上がり、静かに部屋を出て行った。
俺の旅の目的、か。イコナとの旅が終わるまでに俺が一体何者なのか、その答えが見つかれば御の字だけど……もし見つからなかったら今度は人間の領域を探し回る旅をするのも良いかもな。
その時にイコナはついて来てくれるかな? いやイコナなら無理にでもついて来そうだ。
さて、俺自身の旅の目的も決まったし、ふかふかのベッドで寝るぞー! 今日は良い夢が見れそうだ。
♢♢♢
「我が友よ。コレで良かったのだろう? 道は確かに示した。後は若き彼らの選択次第。我らは歳を取ったからな、これからは見守り……いざという時に助ける程度としようぞ。なあ戦友よ……」
地竜王と呼ばれるその者は、若き頃からの唯一無二の親友と呼べる竜からの手紙を見つめ、どこか懐かしさを覚える二人の若者を思いながら、誰に聞かせるでもなく、一人呟いていた。
親友が教えてくれた、とある考えを胸に秘めたまま……。
シリアス回でした。明るいイコナの旅と対照的に、裏でレスト自身が自分は一体何者なのか? その真実を探る旅が続く……。




