第十三話:老いた者達の過去の闘争
「……なるほど、そして我がお前達を見つけた、というわけか」
「恥ずかしい話だけど、そういうことだよ」
「転げ落ちなかったら……むぐむぐ……ロンさんに会えなかったかもですし、もぐもぐ……ある意味、私のお手柄ですね! ……ゴクン、ん〜次はどれ食べましょう?」
「……イコナ、ちゃんと口の中のものを飲み込んでから喋れ」
俺達の旅話の途中で料理が来てからというもの、イコナは初めて見る料理が多いせいか、夢中で食べ続けていた。ただ、ある程度食べたら満足したのか、料理を頬張りながら喋り始めたのがついさっきのこと。
「あんまり行儀悪くしてたら帰った時にテラーノへ報告するぞ?」
「うっ……それは勘弁してください」
俺の注意、というか脅しを受けてイコナは大人しくなった。
イコナのやらかし関連で困った時はテラーノ様々だな。
「……ふむ、こうして見ているとレストはまるでイコナの保護者のようだな」
「そうなんですよ! 最近のレストさんは、なんとなくおじいちゃんに似てきてるんです!」
「イコナ、お前なぁ……というかロン、保護者というよりは、俺がしっかりしないとイコナが暴走しかねないから仕方なくって言ったほうが近いぞ。それと旅が終わってテラーノの元へ帰った時に、もしイコナが変な育ち方した……なんて事になってたら、テラーノに何されるかわかったもんじゃないからな」
旅が終わって帰ったら、こんがり焼かれました〜なんて絶対にごめんだ。
「むぅ……私、暴走なんてしてませんよ。ただちょっと、その……えっと、気の向くまま行動してるだけです!」
「それの度が過ぎてるから暴走してるって言うんだよ」
「う〜! レストさんの意地悪! バカ! ん〜と……アンポンタン!」
アンポンタンってなんだ、アンポンタンって。
「馬鹿はお前のほうだ。それとも、何か? この口が悪いのか? ん?」
俺はイコナの頬を摘んで、ぐにぐにと引っ張って伸ばしてみた。
「わー! やめてくらひゃい! ほっへが、ほっへが伸びひゃいましゅー!」
おお〜柔らかくて思った以上に伸びるな。コレはちょっと面白いし、しばらくの間はイコナへのいいお仕置きになりそうだ。
イコナは腕をジタバタさせながら猛抗議を続けていた。
「ハッハッハ! お前達は本当に仲が良いようだな」
「……まあ、イコナのおかげで退屈はしてないかな」
その分、苦労もあるけど。まあ慣れてしまえば、ああいつものだって思えるし……いや待て、慣れてはいけないことじゃないかコレ?
その間もイコナへのお仕置きは続けている。モチモチしてて触り心地が良いんだよな。こんなこと考えてるって知られたら変態呼ばわりされても仕方ないけど……紛れもない事実だ。
「わらしが悪かったでしゅ。らから、そろそろやめてくらひゃい〜」
……さすがにこれ以上はやり過ぎだろうな。イコナの目がちょっと潤んできたし、反省もしてる……よな?
「よし、じゃあこの辺でやめておこうか。大丈夫かイコナ?」
「うう……大丈夫です。大丈夫ですけど、心配するくらいならもう少し早くやめてくださいよぅ……」
「ああ、悪かったよ。ついやり過ぎちまった」
「……でも元はと言えば私が悪いので、コレでチャラにしときましょう。ね? レストさん」
「そうだな。そうしておこう」
俺の返事を聞いて、イコナは満足そうな表情で窓際のベッドへ向かった。ちなみにベッドは三つ並んで置いてある。本来なら三人くらいは同時に迎えられる客室なんだろう。
三人用の客室にしてもこの部屋はかなり広い気がするけど。
「では、お腹も満たされたのでそろそろ寝ますね……不貞寝じゃないですよ。違いますからね!」
「わかったよ。明日もあるんだし、早めに寝るのも良いと思うぞ」
「そうです。明日に備えて早く寝るんです。ではレストさん、ロンさん、申し訳ないですがお先におやすみなさい」
「ああ、おやすみ」 「うむ、気にせずゆっくり休むといい」
俺に怒られたから不貞寝するんですね。外を見た限りじゃまだ暗くなってそう時間が経ってないようだし、間違いない。
「……スー、スー」
不貞寝でも寝つくのが早いとは…コレはイコナの才能と言っても良いのではなかろうか?
「……まさか、イコナはもう寝たのか?」
「多分な。普段から寝つきはかなり良いんだけど、まさか不貞寝でもこんなに早く寝るとは思わなかった」
「……やはり、不貞寝なのか?」
「コレは間違いないと思うぞ。腹が満たされたのもあるんだろうけど、ほとんど不貞寝だろう」
「なるほど……まあ、ここまで旅をしてきたレストが言うのなら間違いないのだろうな……それにしてもお前達を見ていると、若かりし頃の我とテラーノを思い出す」
「若い頃のロンとテラーノを? なんでまた?」
さっきみたいに口喧嘩をしてたとか? ロンは口喧嘩するようには見えないんだけどなぁ。どっちかというと喧嘩してるのを止める側ってイメージだ。
「実は、昔の我らは会う度に喧嘩をしていてな。先ほどのお前達のやり取りを見て、ふと思い出したのだ。ああ、喧嘩していたと言っても仲が悪かったわけではないぞ? どちらかというと、じゃれあっていたと言うほうが良いやもしれぬ」
そいつは意外だな。テラーノはまだしも、ロンはそういうの嫌いなんじゃないかと思ってたのに。
「なんで会う度に喧嘩なんかしてたんだ?」
「そうだな……一言で言えば、どちらが強いか競い合っていたから、だな。あの頃の我は血の気が多かった。当時のテラーノも魔族から、そして人族からも恐れられるほど暴れていたものだ」
血の気が多かったロン……か、ちょっと想像できないな。んでもってテラーノはそんなにヤバい奴だったの? 『獄炎の赤竜』って呼ばれてたとか言ってたけど……そういうことか?
確かに初めて会った時のことを思えばそんな雰囲気あったけど……今じゃただの親バカにしか思えないんだよなぁ、残念ながら。
「初めてテラーノと会ったのは、聖魔大戦の少し前だったか。我が修行じみたことをしていた時に奴が空から現れたのだ」
少しって言ってるけどあくまでも竜族視点の『少し』だから何十年単位の可能性もあり得るんだよな。
まあ今はいいや、それよりもなんか面白い話が聞けそうだぞ。
俺は頷きながら、ロンの語りに耳を傾けることにした。
対してロンは昔を懐かしむように話を進めていく。
「奴の第一声は確か『この辺りで一番強い地竜ってのはお前か? 俺の名はテラーノ、この世で最強の火竜となる存在だ! 俺が最強だと証明するために俺と戦え!』とか言っておったな」
……自分が最強だって、テラーノが……ダメだ、笑いを堪えるのでやっとだ。
「当時の魔族領域は力こそ全てだった。故にテラーノも、我も力を求めていたのだ。その時の我も自分は強者だと自負しておったからな。それに誰彼構わず戦闘を仕掛ける、強き火竜の噂も耳に入っていた。だからこそ挑戦されたからにはと、二つ返事で決闘を始めた」
力が全て……か。今がそんな世の中じゃなくて本当に良かった。もしそうだったら俺なんかじゃ生き残れる気がしないし。
「そこからは激しい戦いが続いた。奴が空から業火のブレスを吐き我の身体を焼けば、我の生み出した岩石の剣が地面から奴の甲殻を砕く。我が奴に尾の一撃を喰らわせれば、奴はその鋭い爪で我を引っ掻き、巨大な翼でまた空へと羽ばたく。あの時は我にも翼があればと強く願ったものよ」
火竜と地竜の戦いか……地竜族は翼を持たない種族、それに対して火竜族は一部を除き翼を持つ種族。
そうなるとやっぱりロンよりテラーノのほうが有利なのは当たり前か。
「そうして互いに少なからず傷を負いながらも、戦いは昼夜問わず続いた。そうして二日ほど経った頃だったか、互いに魔力は底をつき地上での肉弾戦となっていったのだ」
二日も寝ずに戦ってたって!? 凄いな……なにより空飛ぶ相手に対してそこまで互角に戦ってるロンが凄い、さすが地竜王……あ〜でもその時はまだなってなかったのか。まあ細かいことは気にしない気にしない。
「地上戦にさえ持ち込めば我の領分だと思ったな。我ら地竜族は大地のように硬い鱗でできた甲殻による絶対的な防御を誇る種族、それ故の……慢心だった」
慢心……? ロンの言う通り地竜族はその硬い鱗と強靭な四肢、そして地属性の魔法を持って地上戦においてはトップクラスだって聞いたけど。
「奴は取っ組み合いの最中に、わざと力を抜き我を前のめりにさせた。そしてその一瞬の隙をつかれ、我はうつ伏せに倒されたのだ。奴はそのまま鋭い爪に炎を纏わせ我の背中に向けて振り下ろした」
おお、テラーノって力でゴリ押すタイプだと思ってたけど頭使うところもあるんだな。でも腹ならまだしも背中は硬い甲殻に覆われている。それならまだロンは耐えれるはず。
「我はその一撃を耐え、逆に大きな一撃を与える……はずだった」
「我の甲殻は奴のブレスで一部が焼けていた。そのせいで少し脆くなっていたのだ。それ故に防ぎ切ることができなかった。奴の爪は我の甲殻を抉り、そして炎が肉を焼いた。我は今まで受けたことのない強烈な痛みに、死を覚悟した」
そんな、テラーノがロンを……いや待て待て、じゃあ目の前で話してるロンは何なんだって話になる。続きを、続きを早く!
「だがその時、『聖竜』様が現れたのだ」
よっしゃ! 救いの手が来た! しかも聖竜って……これまた大御所が来たな。
「テラーノの戦意は傷ついた我ではなく、突如現れた聖竜様へと向いた……そこで我は気を失ったのだ」
テラーノも傷ついてるのにそのまま聖竜に喧嘩売ったのかな? ちょっと好戦的過ぎませんかね?
「我が次に目を開けた時にはすっかり傷が癒えたテラーノと、我へ回復魔法をかけてくださっている聖竜様が見えた。気を失っている間に何があったのかはわからないままだが、少なくとも聖竜様がテラーノを説得したこと、そしてその傷を癒したことは確かだった」
やっぱり聖竜って謳われてるだけあって回復魔法を使えるんだな。傷を癒すといえば光属性の魔法ってイメージだし、思ってたとおりって感じだ。
「聖竜様の回復魔法は別格だった……いやアレは元来の怪我人の治癒力を高め、癒す回復魔法ではなく、そう……まるで、時そのものを戻すかのような、そんな魔法だった」
そんな魔法聞いたことないぞ!? 一番上位の回復魔法でも確か光属性ので、瞬時に治癒力を高めるのがやっとだったはず……時間そのものを戻すかのような回復魔法なんて、聖竜って謳われるのはそれ故なのかな? まるで光竜の上位のような存在……だから聖竜、なんかそれっぽい気がする。
「そうして、我の傷も最後に受けた背中の大傷だけとなった時、我はソレを古傷として残したいと願ったのだ」
「……なんでそんなことを? 治してもらえるなら全部治してもらえば良いのに」
「一つのケジメ、いや戒めと言ったほうが良いか。己の防御を過信し、痛烈な一撃をもらった自分自身へのな」
「なるほど、じゃあ今も残ってるんだ。その古傷は」
「うむ、我の背中に古傷は残っておる。ここだけは甲殻どころか鱗も残っていない部分もあるのでな、いわば我の弱点となっている」
「へ〜でもそんな殺し合いじみた事をしたのに、どうやってテラーノと仲良くなったんだ?」
「それはだな、その時にテラーノは聖竜様へと忠誠を誓っていたのだ。我が気絶している間にな。そして我も命を救ってもらったも同然。もちろん我も聖竜様へと忠誠を誓った」
「つまり、同じ相手に忠誠を誓ったから流れで仲良くなったとか?」
「まあ待て、そんなちっぽけな理由ではない。テラーノいわく、我が古傷を残す潔さ、そしてあそこまで互角に戦ったのは我が初めてだったからと言っていたか」
「つまり、互いに認め合った……ってところかな?」
「うむ。それ以来、事あるごとに互いを高め合う意味も兼ねて戦った。そうしてテラーノにできた傷は今も古傷として所々に残っている。レストも見たことがあるのではないか?」
そう言えばテラーノの身体には古傷がたくさんあったな。アレはロンとの戦いでできた傷だったのか。
「あの古傷はロンへの対抗心の表れと言ってもいいのかな?」
「ああ、おそらくそうだろうな」
そういうロンはとても楽しそうだった。なんだか羨ましいなぁ……ロンとテラーノの友情が。誰かと殺し合うのはゴメンだけど。
「……さて、我の昔話はこの辺りにしておいて、そろそろ本題に入るとしよう」
「本題? ロンが来たのは俺達を祝うためじゃなかったのか?」
ロンは先程までの微笑みを消し、真剣な表情をしていた。
「もちろんソレもある。だが本当の目的は……レストよ。我は其方と、この手紙……そう、我が友テラーノが我に宛てた手紙について、話し合いたかったからだ」
テラーノは懐から俺が渡した、テラーノの手紙を差し出し机の上に置いた。
この手紙……テラーノが絶対に封を開けてはいけないと言っていた手紙。それにロンがテラーノの孫娘ってことになってるイコナではなく、俺と話したいってことは、まさかこの手紙の内容って……。
年寄りの方の昔話って何かと長かったりしますよね?そんなわけで、今までで一番長くなっちゃいました。これは狙ってのものですよ?
親バカ竜「言い訳はせんでもよいぞ」
生徒思いの先生「正直に本当の事を話したほうが身のためですよ?」
もふもふ「ガウ」
いや〜つい戦闘シーンを書くのが楽しくて(作者はかっこいいドラゴンが大好きです)




