第十二話:老竜ドゥーロン
「それじゃごゆっくり……もう少ししたら飯も届くと思うぞ。俺はまだやることがあるからまた明日な」
「ハイ。案内ありがとうございました、ガルドさん!」
イコナのお礼の言葉に対し、ガルドは背を向けたまま軽く片手を上げ、そのままどこかへ行ってしまった。
ようやくのんびりできる……はずだったのに。
「なんで相部屋なんだよ……」
「ん? 私達が一緒に旅してて、一緒にダンジョン攻略したからじゃないですか?」
「そうじゃなくて……まあいいや」
山の中をくり抜いて作ったような城とはいえ、王城なんだから客室はいくつかあるもんじゃないのか? それとも俺のほうが間違ってる?
……なんにせよ、一人でのんびりできると思ってたのにイコナも一緒となると、騒がしくなるよなぁ絶対。
「レストさん、見てください! 街が良く見えますよ。夕陽も綺麗ですし、最高の眺めです!」
イコナは窓から外を眺めつつ、はしゃいでいた。
窓って言っても山の中腹に穴を開けてそこにガラス板をはめ込んでるみたいだから、なんとも変な感じだなぁ。
そして、コレもロンの仕業なんだよな。つくづくやる事が大胆というかなんというか。
「ほら、レストさんも見てみてくださいよ。この眺めを見逃したら絶対に損ですよ!」
「わかったよ。わかったからちょっと落ち着けって……というかイコナはあのダンジョン攻略で疲れてないのか?」
「ん〜疲れたというか、むしろ興奮してますね! ダンジョンは楽しかったし、明日はいよいよ特別な魔石の所に行けます! それにお部屋からの眺めもとっても綺麗ですし」
ですよね〜聞く前からわかってましたよ。ええ、わかってましたとも。
じゃあなんで聞いたかって? わかり切った答えだとしても、念のために答え合わせは必要だろ?
……疲れでいよいよ頭がイカれ始めたのかもしれない。俺は一体誰と喋ってるんだ。
「っと、それはそれとして……ほらレストさん、こっちに来てくださいよ〜」
「へいへい、今行きますよっと……」
イコナの手招きに誘われ、俺は重たい足を窓へと進める。
……そうして窓から見えた光景は、疲れを忘れて心奪われるほど綺麗なものだった。
「……コレは、本当に良い眺めだな」
「でしょ〜。おじいちゃんの背中に乗って空から眺める景色も良いですけど、この眺めも負けてないと思います」
いくつもの石造りの建物が並び、その内の白を基調とした色合いのものは夕陽を浴びてほんのり赤く染まっていく。
大理石のような石をふんだんに使っている一際豪華な屋敷が並ぶ通りは、夕陽を浴びて鮮やかな、それでいて優しい輝きを放っている。
昼間は全部似たように見えた石の建物なのに、夕陽を浴びてこんなにも印象が変わるなんて……。
「綺麗なもんだな……」
思わず感嘆の声が漏れる。
「綺麗ですよね〜まるでお星様が地面で輝いてるみたい……」
星……は言い過ぎな気がするけど、今ソレを言うのは野暮だな。
そうしてしばらくの間、外の景色を眺めたり、テラーノの洞窟を出てからココに至るまでのことを二人でゆっくりと話していた時だった。
「少しよろしいかな?」
入り口の向こうから声が聞こえてきた。この声はロンかな?
「ロンさんですかね?」
「多分そうだろうな。入ってもらおうか」
「ハイ、そうしましょう」
俺は入り口へと向かい、ガチャりと音を立てた後ゆっくりとドアを開いていく。
「おおレストよ、急にすまない。邪魔ではなかったか?」
そこに立っていたのは、初めて会った時に着ていた軽装に身を包んでいるロンだった。
なんか玉座の間で見たロンよりこっちのロンのほうがイキイキしてるように感じるなぁ。
「ああ大丈夫。これまでの旅を振り返ってたりしただけだからさ」
「ほほう、それは気になるな。もし良ければ我にも話してもらえぬか?」
「それは良いけど……仕事は大丈夫なのか? ロンは一国の主なんだから、なにかと忙しいんじゃ?」
「そこは問題無い。ロクダに託して来たからな。それとだな、この姿の時は地竜王ドゥーロンの事は忘れて、ただのロンとして接してくれると助かる」
また変なことを……というかロクダに託して来たって、丸投げしたわけじゃないよな?
「えっ? ロンさんはロンさんじゃないですか? 地竜王さんであり、見ず知らずだった私達に道案内もしてくれた優しい方、それがロンさんですよ」
イコナはさも当然のことだと言いたげに、それでいてどことなく諭すような雰囲気でロンへと話していた。
「……ククっ、ハハハっ! そうだな。イコナの言う通りだ。我は我、それ以上でもそれ以下でもない。どうやら地位や体裁に縛られ過ぎていたようだな。我も歳を取ったということか、ハハハっ!」
「わ、私……何か変なこと言いましたかね? うう、レストさん……」
「いや、むしろ良いことを言ったぞ。見ろ、あのロンの嬉しそうな顔を」
ロンは無邪気な子供のように明るい笑顔を浮かべていた。それはもう心から嬉しいというのを全面に押し出すように。
「ああその通りだ、ありがとうイコナ。我は元々、王とは程遠い生活をしていたものでな。いざ地竜王となってからは王らしく、というのを意識していたのだが……それもあってか、今は誰もが我をまず地竜王として見るのだ。それ故にお前のような、我のことを一から見てくれる者は久しくてな。つい嬉しくなってしまった」
「なるほど……ロンさんも色々と大変なんですね」
「……まあそうだな。そういう理由もあって我はこうしてただのロンとして良く街へ繰り出すのだ。この姿なら普段は聞こえぬ民の本音も聞けるからな。おかげでより良い国造りもできている……と信じたいものだ」
民の本音、か。そうして国の人達のことを考えているからこそ地竜王として讃えられてるんだろうな。
ん〜なんというかちょっと皮肉っぽい?
「やっぱりロンさんは優しい方ですね……ううん、ただ優しいだけじゃない。ロクダさんやガルドさんのロンさんを慕っている姿からして、とっても凄くて優しい方です。ね? レストさん!」
「ああそうだな。ロンは凄いと思う。ただ、大事な事を言い忘れたりするような、抜けてる部分もあるけどな」
「ぐ……それについては悪かったと言っているだろう。せっかくお前達を個人的に祝おうと思い、来たというのに」
「わかってるよ、軽い冗談みたいなもんだって。で、そういうことならここで立ち話ってのもなんだし、中で座って話そう。意地悪言ったお詫びに、俺達の旅話をするからさ」
「ふむ……期待しているぞ」
そう言うロンは一国の王というよりも、親しみある普通の老人という雰囲気を放っていた。どちらかというとこっちがロンの本当の姿なんだろうな。
イコナだけでも騒がしくてゆっくり休めないと思ってたけど、この様子だと今日は寝れないかもしれないな。
……でも不思議と悪い気はしない、かな。




