第十一話:少年の苦悩と喜び
「ふむ……この紋章、間違いなく試練突破の証だな」
玉座に座るロンは俺達が取ってきた輝くメダル……証をまじまじと見つめ、それが本物であると確信してくれたようだ。
俺が落とし穴に落ちた後、しばらくしてからイコナに救助してもらった。
幸いなことに落とし穴以外はなんの仕掛けもなかったから、そのまま台座に置いてあった証を回収。すぐに帰還石を使い、俺達はダンジョン入り口前へと帰ることに成功した。
その時のガルドは、入り口近くの休憩室で飲み物を飲みながら休憩してたらしいんだけど、俺達の帰りが早すぎたらしく、てっきり攻略を一旦諦めて帰ってきたと思ったんだとか。
俺の手にある証を見た時の驚きようは、もう一度見たくなるくらい面白かったな。
少しだけ休憩した後、ガルドの案内のもと俺達は玉座の間へ戻り、俺達がダンジョンを突破したという報告を別の部屋にいたロン達へガルドがしてくれた。
そして今、ロンとその近衛二人の前で改めて報告をしているというわけなんだが……。
「それにしても我のダンジョンが半日もかからず突破されるとはな……昼ごろに攻略を開始していたから、早くても日が暮れた後になると思っていたんだが」
部屋の窓を見る限りでは夕方くらい……かな。空が赤く染まり始めてる。
俺としては色々ありすぎてもっと時間が経ってると思ってたんだけどなぁ…
「面白い仕掛けがたーくさんあって、とっても楽しかったですよロンさん!」
「……ドゥーロン様が作られたダンジョンを楽しかった? 初めて見た時からただ者では無いと思っていましたが……興味深いですね。如何して突破なされたのかお聞かせ願ってもよろしいでしょうか?」
うっわぁ……これロクダに目を付けられたんじゃないか? というか如何も何も力技で強引に突破しただけなんですけどね。
「えっとですね……最初の大岩が転がってくるのは私が、こう……えいっ! て、感じで壊して〜、その後の天井がゆっくり落ちてくるのは私が天井を支えてる間にレストさんが扉の仕掛けを解いて〜それからですね〜」
そうしてイコナは俺達が引っ掛かった罠全てをどうやって突破していったのか、そりゃあもう楽しそうに身振り手振りを混ぜながら説明していった。
もちろん同時に罠という罠にかかっていったことも全部バレる訳で……ああ今だけはもう一度あの落とし穴に入って隠れてたい……。
「……そういうわけで最後はレストさんの作戦が無かったら二人とも落とし穴に落ちちゃうところだったんですよ。いや〜危なかったです」
「うん? 最後の落とし穴は引っ掛かる者がそうおらんかったから、少し寂しかったのだが……まさかレストが引っ掛かってしまうとはな。慎重に見えていたから意外なものだ」
「嘘だろ!? あんな完璧に偽装された落とし穴、わかる訳ないじゃないか!」
「目だけでは確かに見抜けぬだろうな。だが土属性魔法を使い地層を確認するのは基本中の基本……いや、すまぬ。あのダンジョンは土魔法がある程度使える事を前提に作ってあるということを伝えるのを忘れていた」
「そういう大事なことを言い忘れるなよーー!!」
申し訳無さそうなロンを前に俺の魂の叫びが響き渡った。
道理で試すためのダンジョンって割りにはわかりづらい罠とかが多かったわけだ。そもそも、土属性魔法による探査をすること前提なんだもんな。
土魔法の中には地中をある程度の範囲まで探ることができる魔法もある。そしてこの国は土魔法を得意とする魔族が多い国、例えばロクダの種族であるドワーフなんかはそれくらい片手間で使えるだろう。
今のロンの説明で、ダンジョンの難易度とかは納得がいく部分もある。あるけども……なんだろう、このなんともやるせない気持ちは。
「レスト様、心中お察ししますが玉座の間ではお静かに願います」
「あ、あ〜その、ごめんなさい。つい……」
「良い、気にするな。レストが怒るのも無理ない話だ。本来この国の者しか行かぬからこそ、レスト達にはちゃんと説明せねばならなかったこと。それを忘れていた我に落ち度がある」
「ドゥーロン様、お言葉ですがこの件については案内役を仰せつかったにも関わらず、説明不足だったこの不肖ガルドに責があると考えます。どうかご自身を責められませぬよう」
おお、真面目なガルドだ。あの様子からしてロンに対しての忠誠は半端なものじゃないんだろう。それだけロンの人望……人じゃないけど、とにかくそんな感じのが厚いって証拠だよな。
「ガルドよ、気遣い感謝する……せっかくレストとイコナが試練を突破したのだ。まずはそれを祝おうではないか、二人ともよくぞやりとげた」
「ハイ、ありがとうございます!」
イコナは元気よく返事をした。それに続くように俺も礼をして応える。
「我としては、縁ある友の孫娘と友が認めし者、二人を祝うために宴でも開きたいところだが……立場上あまり大々的なことはできぬのだ。すまない」
「いやそんな……気持ちだけでも充分さ」
「そうですよ。お祝いしてくれただけでも私、とっても嬉しいです!」
「そう言ってもらえると助かる。その代わりと言ってはなんだが、この国に来てすぐに試練に挑んだのだ。疲れたであろう? 今宵は我の居城であるここの客室を使うといい。部屋の質は保証するぞ」
王城の客室か……そんなところに泊まれるなんて夢にも思わなかったな。
ここは山の中だけど、王都の城に負けず劣らず豪華な雰囲気だし、客室っていうのなら、なおのこと期待できそうだ。まあ王都の城に入ったことなんて無いんですけどね。
とにかく、ようやくまともなベッドで寝れる。イコナ達と暮らし始めてから今に至るまで、およそ半月ほどの寝袋生活からようやく解放される……これだけで充分なご褒美だ。
「レストよ、感極まったような顔をしてどうしたのだ? 試練を突破したことがそんなに嬉しかったのか?」
しまった、顔に出てたか……久々にまともなベッドで寝れそうだから嬉しいです! なんて言えないし。
「あ〜、そんなとこかな? イコナの目的のためだけど自分のことのように嬉しい、というか……そんな感じ?」
「レストさん……そんな風に思ってくれてたんですね。私ホントに嬉しいです!」
そのままイコナは俺に飛びつくなり抱きしめてきた。
胸の辺りにあたる、小さな柔らかいなにかと、痛みはないけど体内の空気全てが口から出ていきそうな感覚を覚えながら、俺は声を絞り出した。
「い、イコナ? みんなが、見てる前……だぞ」
「えっ? あっ、ごめんなさい! その……つい嬉しくて」
俺の声を聞いてイコナはバッと飛び退いた。それと同時に俺も深く息を吸って落ち着く。
……恥ずかしいやら、苦しいやらで色々と危なかった。
「ハハハッ! 良いではないか。仲睦まじきことは良きことだ。さて、それでは客室にてゆっくりと休むが良い。ガルドよ、また案内を頼めるか?」
「ハッ! 承知しました」
「うむ、頼んだぞ……おっとその前にイコナよ、願いに関してだが明日の朝にお前達の部屋に使いを送る。その使いの者の指示に従って動いて欲しい。詳細はその後だ」
「わかりました! ではまた明日ですね」
「うむ。引き止めてすまなかった。今度こそゆっくり休んでくれ」
そうして俺達はガルドの案内のもと客室へと向かった。
……ようやく、ようやくだ。久しぶりにぐっすりと眠れるぞ!
明日は明日でイコナにとって大事な日になるし今日はしっかりと休まないとな〜。いや〜楽しみだ。
約半月近くの寝袋生活……ちゃんとした寝床が恋しくなるのも無理ないですよね。




