第十話:弱点
「……この扉、いかにもって雰囲気だけど、これで最後だよな? そうだよな?」
頼むからそうだと言ってくれ。
「ん〜この扉で最後なら少し残念ですね。面白い仕掛けがたくさんあって楽しかったのに」
いやいやいや! どこが楽しかったってんだよ!? こっちは寿命縮まるかと思ったんだぞ!?
壁から棒が飛び出してくるとか、広い空間で天井が段々迫ってくるとか、定番とも言える罠がいっぱいあったし。
……うう、思い出しただけでもなんか辛くなってきた……もしかして、このダンジョンに仕掛けてある罠のほぼ全部発動させたんじゃないか?
……まあ正直、俺だって罠とか詳しくないから偉そうなこと言えないけどさ。
それでもこのザマは無いだろ。そもそも後半は自分から罠にかかり始めてたもんな。どっかの誰かさんが。
「さあレストさん! 名残り惜しいですが、ダンジョン突破までもう少しですよ。元気出して頑張っていきましょう!」
誰のせいで元気無くなったと思ってるんだよ……まったく。まあ愚痴を並べても仕方ないか。イコナのおかげで無理やり突破できたところもあったんだし。
「じゃあ最後の番人も頼んだぞイコナ。今まで罠を突破してきたのと同じようにな」
「ハイ、お任せください。番人さんには悪いですけど、サクッと突破させてもらいますよ!」
気合い充分なイコナを尻目に俺は扉に手をかけそのまま押した。
見た目に反して扉はすんなりと開いてくれた。
いよいよ番人とご対面だ。
扉の先は広い部屋だった。奥には扉らしき物と中央に大きな岩がある以外にはなんの変哲もない部屋……というか大きな空間。
……おかしいな。ガルドの話だと番人がいるはずなのに。もしかしてここは休憩地点かなんかで、まだ先が続くとか? 勘弁してくれ。
そうして肩を落としたまま、部屋の中へ一歩進んだ時だった。
「レストさん! あれ!」
「アレ? アレってなんだ……って、もしかしてアレがそうなのか!?」
イコナが指差す先で大きな岩がゴゴゴ……と音を立てながら動き始めていた。
そのまま岩から脚が、腕が、最後に頭部と思しき岩が飛び出し、頭部の窪みからは俺達を睨むかのような輝きが二つ放たれていた。
「ゴーレム……アイツが番人ってわけか」
「……アレがゴーレム、カッコいいですね!」
「そんなこと言ってる余裕は無さそうだぞ、イコナ」
ゴーレムはゆっくりとこちらに迫って来ていた。距離はまだあるのにその大きさ故か大きなプレッシャーを感じる。
初めて会った時のテラーノに比べればマシ……かな。
「……硬そうですね。レストさんと良い勝負できるんじゃないですか?」
「人を岩みたいに言わないでくれ。それよりこのダンジョンに入って最初にかかった罠、覚えてるか?」
「えっと、ああ覚えてますよ。大きな岩が転がって来て、それを私が砕きました! でもそれがどうかしたんですか?」
「いくら魔物とはいえアイツも岩の塊みたいなもんだからな。同じようにいけたりしないかなって」
言ってはみたけど流石にそう簡単にはいかないよな〜。相手はただの大岩じゃなくてれっきとした魔物なんだし。イコナだってそれくらいは
ゴッ!
鈍い音が響き渡った。
……ん〜少し現実から目を逸らしたくなってきた。
俺の目には跳躍して、ゴーレムに腹パンしている金髪の少女が映っていた。
当のゴーレムは少しぐらついた様子だがそこまで大きなダメージは入っていないように見える。
「オオォ!」
「ふふっ、やっぱりレストさんのほうが硬いですね〜」
俺をなんだと思ってるんだ。俺が硬いのは指輪の効果であってだな。
そんなことを思っている間もイコナの攻撃は続く。
拳で、脚で。連撃を受けたゴーレムの腹部には少しずつヒビが入っていく。
そしてイコナはいつの間にか小さな角と逞しい尻尾も出し、その尻尾を鞭のようにしならせた一撃をゴーレムの頭部に加えた。
重い一撃を受けたゴーレムはたまらず仰向けに倒れ込む。その反動でヒビ割れた腹部の一部が砕け散るのが見えた。
「ふっふっふ〜どんなもんです? 私だって竜族の端くれ、岩を砕くくらいは朝飯前ですよ!」
「まだだイコナ! ゴーレムは魔核っていう弱点を壊さない限りは近くの岩を集めて再生する、アイツの体内にある光る石が魔核だ!」
「魔核……? えっと……あ、アレですね!」
ゴーレムの砕けた腹部の奥に淡い紫の光を放つ丸い石がちらりと見えた。
イコナはそれを見つけると大きく飛び上がり、そのまま重力に身を任せゴーレムの壊れていない身体の上から魔石に向けて拳を振り下ろした。
「これで! 終わりです!!」
「ッ!! オオォォ……」
イコナの拳とゴーレムの岩石の身体がぶつかった轟音と共に、辺り一面に塵が舞い俺の視界が奪われる。
「くっ! イコナ!!」
視界が晴れた時にはゴーレムだった岩塊の上に乗り、勝ち誇った様子で拳を突き上げるイコナが見えた。
「イコナ! 大丈夫か!?」
「ハイ! 楽勝っです!」
イコナは俺に振り向きながら満面の笑顔で小さくガッツポーズを作って見せた。
「……いつものことながら調子良いもんだな。怪我は無いか?」
「大丈夫ですよ〜。レストさんのほうこそ大丈夫ですか? さっき凄い量の塵とかが舞ってましたし」
そう言いながらイコナは岩塊から飛び降り、俺の方へと歩いてきた。
「そりゃお前のせいだろ……俺も大丈夫だよ。なんにせよ、良くやったなイコナ」
「えへへ〜もっと褒めてくれも良いんですよ?」
「……あんまり調子に乗るな。無茶して怪我してからじゃ遅いんだからな」
「むぅ、わかりました……最近レストさんがおじいちゃんに似てきてる気がします」
「なっ!? そんなことないだろ!」
俺があの親バカに似てきたなんて冗談じゃない。俺はまだ若いし? 何よりあんなに親バカじゃないし?
「そんなに強く否定したって聞いたらおじいちゃんがどう思うやら……っと、レストさん奥の扉が開いてますよ!」
うっ、テラーノを怒らせたくはないしイコナが黙っててくれることを祈ろう。
それよりもだ。
「さあ早いとこ証とやらを取って帰ろうぜ。もうしばらくはダンジョンなんか見たくない気分だし」
「え〜そんなこと言わずまた来ましょうよ〜」
「絶対にイヤだ! それより、ほら行くぞ」
俺はイコナの手を掴み少々強引に奥の扉へと向かって行った。
扉の先は少し長めの一本道になっていて一番奥に台座があった。
その上に輝くメダルのようなものが立てられているのが見える。
「あのキラキラ輝いてるのが証……なんでしょうか?」
「多分そうだろうな。この先も無さそうだし間違いないだろ」
「じゃあ早速取りにーー」
「待て」
「あう、何するんですか〜いきなり尻尾掴まないでくださいよ〜」
勇み足で証の元へと行こうとしたイコナの尻尾を掴んで止める。出したままにしてくれてて助かった。おかげで止めやすかったぞ。
「最後くらいは罠にかからず綺麗に終わらせたいからな。イコナは一旦ここで待機!」
「えー! そんなぁ……って、良いとこ取りじゃないですかソレ! そもそもさっき番人さんを倒したんだからもう罠だって無いはずですよ!」
あ〜言われてみれば確かに良いとこ取りっぽいな。そこは悪いけど、ソレはソレとして。
「良いかイコナ。そもそもこの通路が怪しいだろ? 最後に証を取るだけで良いならわざわざこんな風に通路を長めに作る必要なんかない。となると何か仕掛けられてるんじゃないかって疑うのは当然だろ?」
「……確かにそうですけど、もしかしたらただ単に試練を達成した喜びに浸ってください、とかそういうサービスみたいなものかもしれないじゃないですか」
「お前なぁ……それも無いとは言い切れないけど、まず第一に証を持ち帰るまでが試練なんだからな。それにもしここに罠が仕掛けられてて、その罠に引っかかったら証が取れなくなる……とかだったらどうする?」
「それは……イヤです」
不服そうだったイコナは一転して肩を落としガックリしていた。
「だろ? だから、そうならない為にも俺が先に行って様子を見る。もし何かあったら、ここで待機してもらってたイコナに動いてもらう。そうすれば証を持ち帰れる可能性は高くなる。そう思わないか?」
「なるほど、流石レストさんです。完璧な作戦ですね!」
そこまで言われると逆に気恥ずかしいんだが、ともかくイコナも納得してくれたみたいだし作戦開始だ。
「じゃあイコナ、もし何かあったら頼むぞ」
「了解です。レストさんもお気をつけて!」
「ああ、任せろ」
さてと、とりあえず床に変なところは……無さそうだな。周りの壁も怪しそうなところは無い。天井も大丈夫そうだな。
となると、台座とかも怪しいところだが……ひとまず慎重に近づいてみるか。
慎重に一歩ずつ確かめるように台座へと進んで行く。
その時だった。
バキッ!
「なっ!?」
俺の足元の床が崩れ落ち大きな穴が床に空いた。
穴の下には細長い金属の棒が何本も立っているのが見える。
クソッ! ここに来て落とし穴かよ! 床に偽装した落とし穴なんて反則だろ! ロンの奴、地属性の魔法をフル活用して作りやがったな!
ってマズい! このままじゃーー
「ぐっ! ううぉぉぉああ……」
俺はちょうど棒の上に落ちた。そして運の悪いことに金属の棒は、俺の股間の棒を直撃したのだ。
……最悪だ。指輪のおかげで痛くはないけどこの衝撃と反射的に悶絶してしまうこの感じ……そう男ならわかる、このなんとも言えない感覚……しばらくは……動けないな。
「レストさん! 大丈夫ですか!?」
見上げると翼を出して飛んでいるイコナが見えた。竜人族って器用な事できるんだな。テラーノも人の姿で飛べるんだろうか……今度聞いてみるか。
……こうやって別のこと考えて、少しでも股間の衝撃を忘れないとやってられないぜ、まったく。
「……あ〜イコナ、俺は大丈夫だけど、俺の俺が大丈夫じゃない……」
「……? ちょっと何言ってるのかよくわからないです」
イコナは首を傾げていた。そうだよな、イコナは女性だからこの衝撃はわからないよな……。
「……イコナ、一つだけ覚えておいてくれ」
「ハイ? なんでしょうか?」
「……男ってのはな、ゴーレムの魔核とまでは言わないけど、それと同じくらい重要な弱点が股間にあるんだよ。そこに衝撃とかを受けるとしばらく悶絶するような弱点が、な……」
「レストさん……?レストさーん!」
俺はイコナの叫び声を聴きながら少しの間燃え尽きておくことにした。
親バカ竜「……のう、ヴォルよ」
もふもふ「わう?」
親バカ竜「最近ワシの威厳が無くなってきとる気がするんじゃが……」
もふもふ「がう、わふぅ」
親バカ竜「まあ確かに、お主に聞いてもわかるはずがないのう」




