第八話:ダンジョンへ
「レストさん、ダンジョンってどんな感じなんでしょう? おじいちゃんの洞窟より広かったりするんですかね?」
「そりゃダンジョンのほうが広いに決まってるだろう」
「でもでも、レストさんも知っての通りおじいちゃんの洞窟も広いですよ? それより広いとなると……探検しがいがありますね!」
「お前なぁ……」
イコナの尻尾がパタパタ振られている幻覚が見える。これからダンジョンだっていうのにもう疲れが溜まってるのかもしれない……この様子だと今日は一旦休んだほうが良いかもなぁ。
「そっちの嬢ちゃんは、なかなか良い度胸してるみてぇだな。ただ残念ながら、お前達が行くダンジョンは凄く広いってわけでもないんだなぁコレが。だから余り期待しすぎてガッカリしないでくれよ?」
先頭を行くガルドが首だけをこちらに向けて話しかけてきた。
さっきまでの寡黙そうな雰囲気とは打って変わったな。多分ドゥーロンの前では控えてるだけなんだろう。
「そうなんですか……ところで、ガルドさんはダンジョンに入ったことあるんですか?」
「あたぼうよ〜。俺がダンジョンに挑んだのは……ちょうどお前達くらいの時だったかな。あの堅物ロクダと一緒に挑戦したんだ」
「ロクダさんとですか? じゃあ、お二人はお友達だったんですね!」
「まあそんな所だな。俺達はそれぞれドゥーロン様に長く仕えてきた家の出でな。ちっさい時から良く顔を突き合わせてたもんだよ。その度アイツは作法がどうとか礼節がどうとか口うるさくってなぁ。いくらアイツが大臣とか高官を多く出してる家系とはいえ……っとすまねぇ愚痴を聞かせちまったな。悪い、許してくれ」
ロンといい、ガルドといい、ロクダにはかなり厳しくされてるみたいだな。実はこの土の国はロクダが裏で支配してました〜なんて言われても信じられそうだ。
「そんな謝らないでください。私もおじいちゃんには厳しく言われてきたので気持ちは良くわかります!」
ガルドはともかく、イコナが厳しくされるのは主にお前のせいだろう。
「そうかそうか。でもな俺としてはそうやって色々と言ってくれる奴がいるってのはありがてぇ事だと思うんだよ」
「私はもう少し優しくというか……そんな感じにして欲しいな〜って思う時がありますね」
「ああ、俺もそう思う時はあるさ。ドゥーロン様もそうだろうな、ロクダに小言を言われる度に俺に愚痴ってくるくらいだからよ。でもな俺は何かと大雑把だし、ドゥーロン様も小さい事は気にしない、それはもう色々と大きい方だからよ、ロクダみたいに細かいところを見てくれる奴がいてくれると安心できるんだわ」
「なるほど……確かにガルドさんの言うことも一理ありますね。私もおじいちゃんに厳しく言われてるからこそ……っていうのも気付いてないだけであるんですよね、多分」
そこは断言してあげようぜ……テラーノが聞いたら泣くぞ?
「ああ嬢ちゃんが気付いてなくても、多分間違いないだろうよ。何かと言ってくれる奴がいるってのはありがたい事なんだと思うぞホントに。なんも言われなくなっちまったら、もう見限られたって事だろうからな」
「……見限られる、ですか……あうぅ」
イコナは体を縮こまらせて少し震えていた。
イコナにとって家族と言えるのはテラーノだけだし無理もないか。
「大丈夫、テラーノがイコナを見限る事なんて無いよ。俺が保証する」
「レストさん……そうですね。ありがとうございます!」
あの親バカ竜に限ってイコナを見限るなんてことあるわけない。誰が見てもそう言うだろ。
「おっと不安にさせちまったか。すまなかったな、そんなつもりじゃなかったんだ」
「いえ、気にしないでください。今思えばおじいちゃんは厳しいけどとっても優しいので大丈夫です! 私だって見限られるような事するつもりはありませんし」
イコナは確かに色々とやらかす事はあるけど根は良い子なんだしその辺は心配いらないと思うんだけどな〜。まあ家族に見限られるかもってなったら誰だって不安になるか。
……俺のジイさんは俺のことをどう思ってたんだろうか? 結局、何も聞けないまま……考えても仕方ない、今は目の前の事に集中しよう。
「そうか……実はな、ロクダも厳しい奴に見えたと思うけど、ホントは凄く良いやつなんだぜ? なにかと裏では俺やドゥーロン様が困らないように色々と手を回してくれてたりするんだ……っとそんな話をしてたら見えてきたな。あの扉がダンジョンへの入り口だ」
そこにあったのは玉座の間への扉とはまた違う、どこか重い空気を感じる扉だ。
「……なんだか物々しいですね」
「ああ、入ることを拒まれてるみたいだ」
「実際、普段入ることはあんまり無いからな。それにこの中はダンジョン、危険がいっぱいだ。改めて気を引き締めてもらうためにもこんな扉にしてるってわけさ」
なるほど。いくら試験みたいなものとはいえ、危険な事に変わりは無いからってことか。
「先に言っておくが普通のダンジョンなら魔物が湧いたりすることもあったりする。だがここではそれは無いから安心してくれ。ただ仕掛けや罠はもちろんある。モノによっては命を落としかねない」
そんなのまであるのか……ちょっとやり過ぎな気もするんだけど。
「その顔、やり過ぎじゃないかって思ってるな? でもな本物のダンジョンはそんな仕掛けがゴロゴロある。このダンジョンはそいつらに比べたら肩慣らし程度なんだよ」
言われてみればそうだよな。コレは本来、危険と隣り合わせになる職に就く者への試練。それなら命を落としかねないモノもあって当然だ。
「……怖気付いたか? 引き返すなら今の内だぞ」
……て正直怖い。でもここまで来たからには。
「レストさん」
「イコナ? どうしたんだ?」
イコナはいつになく真剣な表情で俺を見つめていた。
初めて会ったとき以来だな。イコナのこんな表情を見るのは。
「ここからは私一人で行きます。危険があるってわかりきってるのにこれ以上レストさんについて来てもらうわけにはいきません」
「……何言ってんだよ。危険だってのは旅に出た時からわかりきってたことだろ? それに俺達は友達、だろ? 友達が危険なとこに行くってのにそれをほっとけるかってんだ」
「……でも、レストさんにもし何かあったら、私……」
そうやって心配してくれるだけで充分だ。全く、イコナにこんな不安な顔させてるってテラーノに知られたら何言われるかわかったもんじゃない。
「俺は大丈夫だ。この指輪だってあるんだし。それにイコナが俺を心配してくれるように、俺だってイコナが心配なんだ。だから一緒に行かせてくれ。頼む」
俺は頭を下げて頼み込んだ。
「レストさん……」
「それに、ダンジョン内に仕掛けがあるっていうんならイコナじゃ解けないかもしれないしな」
俺は顔を上げて意地悪そうな笑顔を浮かべながらそう言った。多分だけど今の顔を見たらまあイラっとくるだろうな。
「むう……私そんなにバカじゃないですよ! やっぱりレストさんは意地悪です……でも」
「でも?」
「いえ、なんでもないです。それよりレストさん、一緒に……来てくれますか?」
「当たり前だろ? さあ行こうぜ。二人で」
「ハイ!」
さっきイコナが何を言いかけたのか気になるけど、今は聞かないでおこう。それよりも、だ。
「どうやら決まったようだな。それならお前達にコレを渡しておく」
「……これは?」
「綺麗な石……ですね」
ガルドが差し出した手には二つのうっすらと光る石があった。
「これは帰還石といってな。特別な魔法が封じられている。もし本当に危ないと思ったらこれを握って帰還、と叫ぶんだ。そうすればこの入り口へと戻ってこれる。いざという時のためにすぐ取り出せるようにしておけ」
俺達は帰還石を受け取り石に付いていたホルダーをそれぞれ腰の辺りにつけた。俺はベルトがあるけど……イコナはどういう原理だ? そう言えばイコナの服は魔法で作ってるんだから少しいじって引っ掛けるところを作るくらいはできる……のかな?
「ありがとうございます! ガルドさん」
「良いんだよ、こういう決まりだからな。それと、その帰還石があるからといっても、絶対に無茶をするなよ。もしダメだったらもう一度挑戦すれば良いだけなんだから。命あってこそだぞ」
「忠告ありがとう。絶対無事に帰ってくるよ」
「ああ、そうしてくれ。お前達に何かあったらドゥーロン様が悲しまれる。俺もお前達とはまた会いたいしな」
そう言ってガルドは笑顔を浮かべた。
「じゃあ行ってくるよ」
「ああ気をつけてな」
「ガルドさん。必ず無事にかえってきますから!」
さあいよいよダンジョン攻略だ。気を引き締めて行こう。




