第七話:試練
「ロンさん!? ロンさんが地竜王さんだったんですか? だったら早く教えて欲しかったです〜」
「ハハハッすまんすまん。先程も言ったが我が街中を歩いていると知れたら騒ぎになりかねないからな。許してくれイコナ」
「ドゥーロン様、譲歩して日中の散歩はお許ししておりますがなるべく他者との接触はしないという約束……そろそろお守りしていただきたい」
二人いる近衛らしき魔族の片割れ、見た目からしてドワーフかな? その人がドゥーロンを注意している……意外とドゥーロンって好き勝手やってるっぽい?
「今は客を招いているのだ。堅いことは言わずとも良いではないか、ロクダ」
「だからと言って逃げる口実にはなりませぬ。それに見たところこの方達はドゥーロン様と既に近しい仲のご様子……なればこの程度の注意は問題無いと判断します」
「ぐう、そういうところは大臣として心強いが、こういう時にはなりを潜めてくれて良いのだぞ?」
「私めが諌めねば他の誰が好き勝手をするドゥーロン様を諌めると言うのです? この前だってーー
「わかった! 我が悪かった! 小言は後でちゃんと聞くから今は彼らと話をさせてくれ!」
「承知しました。思えばドゥーロン様のお客人をお待たせするのも失礼ですね。考えが足りずに申し訳ありません」
「……良い。今回は我に非があるからな」
「今回も、でございます」
「ぐう……まあ良い。すまぬな二人とも、待たせてしまった。改めて話をしようではないか」
「ハイ。ロンさん、あっ今はドゥーロンさんって呼んだ方が良いですか?」
「好きに呼んでくれて構わぬぞ。我は堅苦しいのは好かぬ」
「ではロンさんと呼ばせてもらいますね。にしても、ロンさんと……ロクダさんでしたっけ? お二人は仲が良いんですね〜」
イコナ……普通に話してるけど相手は一国を治める王だぞ? さっきまで、そうだとは知らないで親しくしていたとはいえ、しれっと友達感覚で話すその度胸は尊敬に値するな。いや〜さすがですイコナさん。
それにドゥーロン……ロンでいっか。ロンは偉大な存在なのは間違いないんだろうけど、さっきのロクダって魔族とのやり取りを聞く限りではテラーノとどこか似たような感じがする……二人が友達だって言われても納得できるほどには。
「うーむ……まあ確かにロクダは若い頃から良く働いてくれておるし、そこのガルドと共に、我にとって無くてはならぬ忠臣であるな。ただロクダにはもう少し小言を控えて欲しいのだが……」
一国の王ともあろう竜が、あんなげんなりした顔するとは、ロクダさん恐るべし。それに比べてもう一人の近衛らしき魔族、多分ミノタウルス……のガルドって魔族は寡黙な戦士って感じで何も喋らないな。
「お言葉ですが、私めとしてはドゥーロン様が慎みある行動をしてくだされば小言を減らすことができます」
「お前が若い頃はもっと素直でかわいかったはずなんだがなぁ……まあこの話は置いておくとしよう。さて……レストよ、我に渡す物があるのではなかったか?」
おっとそうだった。今のやり取りを聞いてたらすっかり忘れてた。
「えっと、あったあった。改めてテラーノからの手紙……です」
「なんだ、緊張しているのか? 我のことなら気にせずとも良いぞ。むしろ先程までと同じくただのロンとして接して欲しいくらいだ」
そうは言っても緊張するのは仕方ないだろう!? 相手の正体が正体なんだから!
「なんでレストさんはそんなに緊張してるんですか? ロンさんはロンさんですよ?」
その図太い精神が羨ましいよイコナ……。
でもなぁ……ロンもああ言ってるし、少し開き直るくらいでいくか!
……相手はロン、相手はロン、テラーノと似たような竜、テラーノと似たような竜……そう思うとなんか気が楽になってきた。ありがとう、テラーノ。
「すまない、ロン。場の空気が空気だからちょっと身構え過ぎてたみたいだ」
「うむ、それで良い。初めて会った時もそうだったがお前は肩肘を張り過ぎるところがあるようだな」
「ちょっと昔に色々あってな。それで警戒心が強くなり過ぎてるのかもしれない」
「そうか……我からは何も言うまい。さてガルドよ、手紙を受け取ってもらえるか?」
「はっ!」
ロンの隣に控えていたガルドがこっちに近づいて来る。近くでみるとそのゴツい体のせいで威圧感が凄い……着てる鎧も重厚だから余計にそう感じるんだろう。イコナと力比べしたらどっちが勝つんだろうか?
「では手紙をこちらへ」
「……ああ、お願いするよ」
ガルドは手紙を受け取るとすぐにロンの元へと戻り手紙を手渡した。
「ドゥーロン様、こちらを」
「うむ、ご苦労。テラーノから手紙をもらうのはいつ以来になるか……また、あやつと手合わせをしたいものだ」
ってことはやっぱりテラーノとロンって友達みたいなもんなのか?封を開けて手紙を読むその表情もさっきよりにこやかな感じに見えるし……ごめんテラーノ、正直疑ってた。
……ん? 手紙を目で読み進めるロンの顔が少しずつ険しいものになってるような?
「ふむ、そうではないかと思いはしたが、おおよそは当たっていたか。ガルド、ロクダ、我はこの者らと内密な話がある。一度下がり、この部屋に誰も入らぬよう見張りを頼む」
「はっ!」
「承知しました。また何かあればすぐにお呼びください」
「助かる。ではしばしの間頼んだぞ」
二人はロンと俺達に一礼すると部屋から出て行った。
「ロンさん、内密な話って……おじいちゃんは一体どんなお手紙を書いてたんですか?」
「そう、だな」
言い難い内容……みたいだな。例の貯蓄してある魔力に関して書いてあるのは間違い無いとして、後はイコナの正体……とかか?
「他愛もない話に始まり……イコナ、お前が如何に可愛いかについて長々と続きーー」
「か、可愛いか!? 私がですか? うぅ、おじいちゃんそんなこと書かなくても良いじゃないですか……ロ、ロンさん! 私の恥ずかしい事とか書いてなかったですよね? ね!?」
イコナは鬼気迫る勢いでロンに詰め寄っていった。
「……あ、ああ。書いてあったのは幼少の頃の事や……最近で言えば魔獣を狩ろうとしてーー」
「わー! わー! それ以上は言っちゃダメです! 多分ダメなのだって私の直感が言ってます!」
「そうか、それは……すまなかった」
イコナはイコナで苦労してるな。主にテラーノのせいで。
「……だが、テラーノの言い分もわかる気がするぞ。今のように赤面していたりする姿は愛らしいというか微笑ましいというか」
「ロンさんまで、もう! からかわないでくださいよ!」
「からかってなどおらぬぞ。我もイコナのような元気で可愛らしい孫が欲しくなってきたわ。ハッハッハ!」
「……今すぐ誰もいないところに行きたいです……」
イコナの顔がリンゴみたいに真っ赤に染まってる。ロンの言う通りああしてうずくまってる姿なんかは、こう、なんというか……微笑ましいんだよな。
「ふふ、すまぬな。話を戻そう。イコナよ、我に頼み事があるのだろう?」
「……あっ、ハイそうです! えっと、特別な魔石にお参りさせてください!」
「うむ。だがお前達の頼みと言えどそう簡単に他者をあの魔石の元へと行かせるわけにはいかぬ」
まあそうだよな。テラーノの話通りなら一般には公開されてない重大な秘密もあるらしい魔石なんだし。
「我が国では成人し、特に危険が伴う職……例えば軍や採掘師に就く意思のある者への祝福を授ける式を行う時にのみ魔石の元へ行くことができると決まっている」
「じゃあ私達はお参りできないんですか……?」
「いやそうではない。そもそも祝福とは言っておるが、ようは願掛けみたいなものだからな」
「なら俺達はどうすればいいんだ?」
「結論から言えば試練を受けてもらう。それを突破できれば魔石の元へと案内しよう」
試練、か。ここまで来たんだ。今更引けるわけもないし、やってやろうじゃないか。
「本来はさっき言ったように成人した者の中でも一部が受けるものだが今回は特例だ。まずは同じようにダンジョンを突破してもらう」
「同じようにって採掘師を目指していてもダンジョンを突破するのか?」
「うむ。採掘をする場所は主に洞窟や過去の遺跡といった場所なのだが、過去の大戦や元々そこに住みついていた魔族の手によって防衛用の罠や仕掛けが張り巡らされている場合もあるのだ。そのため我が自作したダンジョンを攻略し、ある程度の経験を積んでもらうことにしている。少しでも危険に対処できるようになってもらうためにな」
なるほど、ロンも色々考えてるんだな。さすが地竜王……というかダンジョンって自作できるものなのか? そのあたりはやっぱり……ロンが竜王だからってところか。
「ダンジョンはここの地下にある。そこまでの案内はガルドに頼むからついて行くといい。ガルド! ロクダ! 中へ!」
閉じていた扉が開き、二人が入ってくる。そのままロンの前に行き二人は片膝をついてロンの指示を待っていた。
「ガルドよ。二人を試練のダンジョンへと案内してくれ。ロクダはここで待機だ」
「はっ! それでは案内を、こちらです」
部屋の入り口へと歩き始めたガルドに俺とイコナはついていく。
試練のダンジョンってのがどんなものかはわからないけど、イコナのためにもやれるだけやってみよう。
親バカ竜「はっ、はっ……ハックショーイ! ……ううむ、誰かがワシの噂でもしておるのかのう? なんとなく小馬鹿にされとるような気もするが……」
もふもふ「……グルル」
親バカ竜「ああ、すまんすまん。昼寝の邪魔をしてしもうたな。許しておくれ」
もふもふ「わう」
親バカ竜「……寝てる姿も可愛いもんじゃな。じゃがイコナの寝姿に比べたら……いや比べるまでもないのう」




