第六話:地竜王ドゥーロン
「さあ着いたぞ。まずはこの巨大な門。これぞ我が国の他者を分け隔て無く受け入れるという懐の大きさを象徴する開国の門だ。まあ厄介ごとを招く輩は門前払いとなるが」
これまたデカい門だ……竜ですら悠々と通れるだろう。国全体を壁で囲って、これまた巨大な門まで……地竜王ってのは豪快なことをする。
馬車や人が大勢行き交っているのに全く混んでいるように感じないのはこの門のおかげかもな。
「凄く大きいですね……それにとても綺麗です。私のお家にもこんな綺麗な門が欲しいです」
テラーノにこんな綺麗な門を作れと言うのは酷だと思うぞ。
「そうであろう、そうであろう。この門と国を囲う壁は我……ゴホン、地竜王ドゥーロンが国を任された時に国の象徴として、そして民を守るために作り上げたのだ。以来、国の皆から大事にされてきた由緒正しい建造物なのだぞ」
自分の事みたいに自慢気だな。この国の人達にとってそれだけ誇り高いものなんだろう。にしても地竜王たった一人で作り上げたのか……凄いとしか言えなくなってきた。
「さあ、入国するとしようぞ。我々は馬車などのように大荷物を持っている訳では無いからすぐに入れるはずだ。もしあるならこの先で一度検問を受けることになっているがな」
「じゃあ早速行きましょー!」
「そうだな。ここで止まってたら邪魔になるだろうし」
♢♢♢
「道中でも軽く説明はしたが我が国はドワーフを筆頭に土魔法に優れた種族が多い。そのため希少な鉱石や魔石の採掘、並びに加工が有名だ。最近は技術を学ぶためにわざわざここまで来る人族もちらほら見かけるぞ」
「ここまで人族が来るのか? 凄い度胸だな」
「我々魔族の領域の中では一番人族の領域に近い国だからというのもあるだろうな。それにここを別の国へ行くための拠点とする者もいる。だが一番多いのはこの地で採れる魔石を入手するために来る者達だ。魔道具というものを作るのに必要らしいが、我々としては飾り程度にしかならなかったものを商売道具として扱える故、ありがたいことだ」
「そうなのか。思ってたよりも交流は深まってたんだな」
「うむ。聖竜様も喜んでいることだろう」
より質の高い魔道具を作ろうと思えば高い魔力が宿った素材、例えば魔石とかを材料にするのが一番手っ取り早いとは聞いてたけど、まさか魔族領域で採れたのを使ってるところもあるなんて思いもしなかったな。
そりゃ人族の領域でも魔石は採れるけど、こっちのに比べたらただの石ころみたいなもんだろうし、最近王都で作り始められた冷蔵庫ってのもこの辺りの魔石を使ってるとしたらあの高性能っぷりと高額っぷりにも納得だ。
「それにしても色んな種族の方がいますね〜ドワーフさんやワーウルフさん……あっ人間さんもいます!」
ここが大通りだからっていうのもあるだろうけど、イコナの言う通り色んな種族が入り混じってる。
それに子供の笑い合う声とか商人が客を呼ぶ声とか、ただ雑談をしている人達の声とかそこら中から聞こえてくる。
「ここは我が国の中でも一番の大通りだからな。他国から来た者も良く見かけるし店も多く出ているぞ。もし魔石やアクセサリーといったもので何か探しているならこの大通りで探せば良い物が見つかるはずだ。武器防具の類なら西区に行けばあるが、残念ながら武を重んじる火の国製の物よりは見劣りするだろう」
「アクセサリーですか!? 私、綺麗な耳飾りとか憧れてたんですよ! 早速探してきます!」
「ちょ〜っと待った」
走り出そうとしたイコナの肩を掴んで止める。まったく目を離したらすぐにでも迷子になりそうだ。
「あう……レストさんなんで止めるんですか? すぐそこで綺麗なアクセサリー達が私を待ってるんですよ?」
「安心しろ〜アクセサリーは別にお前を待ってくれてはないからな〜」
「むう……」
そんな拗ねた顔したって無駄だぞ。
「イコナ。まさかとは思うが俺達がここに来た目的……忘れてないよな?」
「ハッ……そ、そんなまさか忘れるわけないじゃないですか〜」
じゃあなぜ目を逸らしてるんですかね? イコナさん?
「も、目的は目的として少しくらい観光とかしたっていいじゃないですか〜せっかく来たんですし。ロンさんだって案内するって言ってくれたんですし」
「そうだな。観光するのが悪いとは言わない。むしろ観光するのは良いんだ。俺も色々見てみたいし」
「じゃあなんで止めたんですか?」
「イコナ、俺達はな、ある大事なモノを一つも持ってないんだ。何かわかるか?」
「ん〜……綺麗なアクセサリーとかですか?」
「……確かにそうだが、そこから一度離れようか?」
「じゃあ何を持ってないって言うんですか? もったいぶらずに教えてくださいよ〜」
「それはな……お金だ」
そう俺達は今、お金を持っていない。テラーノが色々準備してくれたモノはあるけどその中には一ゴールドどころか金目の物すら入ってなかった。
「お金……って何ですか?」
「……えっ?」
「お金って何ですか?」
「まさかお金のこと知らないのか?」
「ハイ、知らないです」
ええ……まさかお金そのものを知らないとは思わなかった。
いや待てよ、つい忘れがちだけどイコナは俺と違って人じゃないんだ。そもそもここは魔族領域であって人とは違う文化でもおかしくない。
それにテラーノが必要なお金を入れ忘れるとは考え……られなくも無いけど、そう考えたくは無いし。もしかしたらお金って概念そのものが魔族には無いのかもしれない。
「ロン? もしかしてお金なんてものは……無かったり、する?」
「何を言っている?ちゃんと金というものはあるに決まっているだろう。そうしないと商売が円滑に進まぬ。それに人族と魔族の共通貨幣を作ろうという話も出ているくらいだぞ」
おいいい! テラーノ! なんでお金のことをイコナに教えてないんだよ!! そりゃ確かに洞窟暮らしなら金なんていらないだろうけど常識として教えておいてやれよ!
「あ〜イコナ? お金っていうのはだな。えっと……何か欲しいものがあった時にそれを手に入れるために払うもの……とでも言えばいいかな? まあそんな感じでアクセサリーが欲しいならその分のお金が無いと手に入らないんだよ」
「えー!! じゃあお肉とかと交換してもらったりはできないんですか?」
「まあ……多分無理だろうな」
「そんなぁ……目の前に綺麗なアクセサリーがいっぱいあるはずなのに、あんまりですぅ」
気持ちはわかるけど、こんな大勢が通るところでへたり込まないで欲しい。ああ……周りから視線を感じる。
「すまない。話を聞く限り、お前達は金を持っていないのか?」
「恥ずかしい話だけどロンの言う通りだよ」
「となると、お前達はどうしてこの国に来たのだ? ただ観光するためというわけでもないのだろう?」
「実は、この手紙を地竜王ドゥーロンに渡せって言われてさ」
俺は革袋から手紙を取り出しながらそう話した。ロンはその手紙を手に取りまじまじと見つめていた。
「この手紙……もしやテラーノからか?」
「えっ? テラーノを知ってるのか?」
「ああ知っている。最近の若者はあまり知らないかもしれんが長く生きてる者の中には知っている者も少なからずいるはずだ」
「おじいちゃんって、本当に有名だったんですね」
「ああ……まさか本当に有名だったとは」
もしかして地竜王と友達だってのも本当に本当なんだろうか?
「ん? イコナ、今テラーノのことを祖父だと言ったか?」
「ハイ! おじいちゃんは私のおじいちゃんです」
「そうか……そういうことか。ならば我が地竜王に会えるように手配しておこう。奥に見える山の麓に行くが良い。そこに地竜王の住処への入り口がある」
ロンは手紙を俺に返し、そのまま俺達に背を向けた。
「待ってくれよ。ロンが地竜王と会えるように手配してくれるって……そんなことできるのか?」
「安心するがいい。こう見えてこの国では上の立場にある身だ。ではまた会おうぞ」
そのままロンはどこかに行ってしまった。
「ロンさん、偉い方だったんですね」
「ああ、ただ自分の国が好きなジイさんかと思ってたのに。まあロンもああ言ってたし、地竜王のところに行ってみるとしよう」
「ハイ。地竜王さんに会えるんですね〜楽しみです!」
俺は正直、不安だよ。
♢♢♢
山の麓に行くとテラーノの洞窟よりも少し大きいくらいの洞窟が穴を開けていた。そこの門番らしき魔族達に事情を説明すると二つ返事で通してくれた。
そのまま俺達は門番の片割れの案内のもと、廊下のように整備された洞窟内や階段状になった石を登ったりしながら明らかに他とは違う装飾をされた大きな扉へ辿り着いた。
「この先にて地竜王様がお待ちだ。くれぐれも無礼のないように」
そうして門番が扉を開いた先には近衛と思わしき魔族と玉座に座る老人の姿をした魔族がいた。
「よくぞ参った。我が地竜王ドゥーロンである。とは言ってもお前達とはさっき別れたばかりだな」
「その声……まさかロン!?」
さっきとは姿が少し違うけど、その声と髪の色そして尻尾の色は間違いなくロンのものだった。
「うむ。騙すつもりは無かったのだが、我の正体が街中でバレては何かと面倒だからな」
ああ……今日は色々と驚くようなことばっかりだなぁ。
さっさと手紙渡して不貞寝でもしたくなってきた……。
親バカ竜「……そういえば金を入れるのを忘れておったわい……大丈夫かのう」
もふもふ「がう」
親バカ竜「もっと撫でろとでも? まったく世話のやける可愛いやつじゃ。ほれ、ここが良いんじゃろう?」
もふもふ「わふん」
親バカ竜「まあ……レストならどうにかしてくれるじゃろ。多分」




