第五話:道案内
「おー! あれがモンテスオロ……大きい街ですね〜」
「ああ、思った以上だ。山から見てこれだけ大きく見えるんなら、近くで見るともっと凄いだろうな」
遠目に見た限りでは広い平地の中に灰色に近い白っぽい色をした四角や半球型の建物が多い。多分石造りの家なんだろう。
その奥には一際大きな山が見える。あそこが地竜王の住処かな? テラーノも洞窟に住んでたし、地竜王って名乗るくらいだからあの山の中に洞窟でも掘って住んでそうだ。
「それじゃすぐにでも行きましょう! 私、地竜王さんに早く会ってみたいです!」
「そんなに気軽に会える相手じゃないと思うんだけどなぁ」
相手は一国を統べるような人……もとい竜族なんだから。
テラーノは友だって言ってたけど、ホントに大丈夫なのかな? まあ今更引けないけど。
「さあ行きましょう、レストさん!」
イコナは俺の手を引きながら小さな岩が剥き出しになっている坂を駆け下り始めた。
「お、おい引っ張るなって! ここ足場良くないんだから転がり落ちーー」
ガッ
「あっ……」
「えっ?」
やってしまった。地面から出ている岩に俺の足が引っかかり、体が宙に浮く。
最後に俺が見たのはイコナの呆気に取られた顔だ。
「うぉわああああ!!」
「きゃあああああああ!!」
山の頂上付近にいた俺達は道中で岩にぶつかっては砕きを繰り返しながら仲良く転がり落ちていった。
♢♢♢
「イコナ? 大丈夫か? おい! イコナ!」
「う〜ん、世界が回ってます……」
「回ってたのは俺達のほうだよ……」
指輪のおかげで俺は無傷だけど、流石のイコナでも頂上から転がり落ちたら軽く気を失うようだ。
まあこの様子だと大きなダメージは無さそうだし大丈夫か?
「どこかケガしたりしてないか? 痛むところとかは?」
「ん……ちょっとクラクラする以外は大丈夫です。レストさんは大丈夫でしたか?」
「俺は問題ないよ。とりあえず無事みたいだから良いけど、これからはもう少し後先考えて動いてくれよ?大事になってからじゃ遅いんだからな」
「うっ、気をつけます……」
こうやって素直に受け止めてくれるのは良いんだが……また調子に乗って暴走したりするんだろうなぁ。
物怖じしないと言えば聞こえは良いけど……うーん。
「それで、ここはどの辺りなんでしょう?」
「麓まで転がり落ちたのは間違いないだろうな。街道……とまでは言えないけど整備された道みたいなのもあるし」
背の低い木に囲まれた中に草も刈られ、ある程度整地された道のようなのが続いていた。方向から見て土の国に続く道、だよな。
反対側がどこに向かっているのかはわからないけど多分他の国へと続いてるんだろう。
「さて、立てるか? イコナ。まだ万全じゃないなら少し休憩していくか?」
「私は大丈夫です。もう世界も止まりましたし、地竜王さんのところへ行きましょう!」
「世界が止まったんじゃなくて、お前の目眩が収まっただけだ」
イコナが立ち上がり、そのまま二人で道なりに進んで行こうとしたその時だった。
土の国方面から一人の老人がこっちに歩いてきた。
「何やら叫び声が聞こえたと思ったが其方達か?」
「ハイ。実は私達、土の国に向かってたんですけど山から転げ落ちちゃって……あ、私イコナといいます。こっちはお友達のレストさんです」
「どうも……レストといいます」
この人……黒に近い茶髪の中に見える後ろに伸びた四本の角、髪と似た色の鱗に覆われた尻尾。そして人の姿のテラーノと同じ……いやそれより大きそうな背丈。
竜族……だろうな。イコナには完全な人の姿になるようにって言いつけてるけど、本来なら竜族は角と尻尾は見えるようにしておくものなんだろう。テラーノもそうだったし。
「これは丁寧にどうも。それにしてもあの山から転げ落ちたにしてはピンピンしているようだな。ならば見た目は人族だが……正体は上位の魔族か。あー詳しくは聞かぬ。正体を明かしたがらぬ魔族も多いからな。我もその気持ちはわかるぞ」
ハッハッハと大きく笑うその姿……どことなくテラーノを思い出すな。
悪い人には見えないけど……イコナの事もあるし、というかイコナが人を疑うことを知らないような性格だから俺が少し過ぎるくらい警戒してちょうど良いくらいだろ。
「ところで其方らは土の国に向かっていると言っておったな? もし良ければ我に案内をさせてもらえないだろうか?」
「良いんですか? やった! ありがとうございます!」
イコナは笑顔で礼をしていた。
……案内してもらえるのは助かるけども。
この老人が魔族なのは間違いないはず。となると、もしイコナの魔力性質を覗かれたらイコナの正体がバレてもおかしくはない。俺も同じくだ……テラーノがもしバレそうになった時のために誤魔化す文句は考えてくれたけど……どうしたもんかな。
「……ふむ。イコナ、だったな。其方の連れは余り喜ばしいと思っていないように見えるぞ。だが少年よ、そこまで気を張り詰めていては気疲れをするぞ。なに、取って食おうなど思ってはおらん。そもそも襲う気なら其方らが転げ落ちてきたところを狙うておる」
イコナが不思議そうな顔で俺を見つめていた。なんで俺がそんな風に思っていたのかわからない様子だ。まあイコナには今のままでいて欲しいような……やっぱりもう少し警戒して欲しいような……。
それはそれとして、この流れで無理に断ったら逆に怪しまれかねない。ここは穏便に済ませよう。
「……すまない。初めて来たものだからちょっと気を張りすぎてたかな。無礼だったけど良かったら一緒に行かせてもらえないかな?」
「うむ。我としても我が国の良さを知って欲しいからな。それに見たところ遠出には慣れていないのだろう。ならばそれくらい警戒しても当然。増してこのような愛らしい娘を連れてとあれば尚のこと。うむ若いとは良いものだ。其方らと同じ年頃が懐かしい」
「そんな……愛らしいなんて、照れちゃいます……」
顔を赤らめてモジモジする姿は確かに愛らしい。でも中身は少々残念なんですよ。
「そういえばまだ名乗っていなかったな。我のことはロンと呼んでくれ。道中よろしく頼むぞ、と言ってもここからはこの道なりに行くだけだがな。だが土の国内の案内は任せて欲しい」
「ロンさん、ですね。こちらこそよろしくお願いします!」
「俺も改めてよろしくお願いするよ」
さて土の国まであと少しだ。もうひと頑張りするか。後はイコナの正体がバレないことを祈ろう。もしバレそうになったら……なんとか誤魔化すしかないな。




