第四話:時には我慢も大事
「イコナ、いるんだろう?ヴォルの事で話があるんだ」
……返事がない。部屋のドアは開かないし中にいるのは間違いないんだけど。俺の部屋みたいにドアが無けりゃすぐに入れるんだけどなぁ。
仕方ない、ドア越しに伝えるか。
「テラーノと話したんだけど、ヴォルも旅に連れて行けそうなんだ」
バンっ!
「ホントですか!? ……ってレストさん、どこですか?」
「……こっちだ」
「えっ? ドアの裏……って、大丈夫ですか!? レストさん、なんで倒れてるんですか!?」
「お前が勢いよくドアを開けたからだよ……」
まるで蹴破ったようにドアを開けるもんだから、ドアのすぐ近くに立っていた俺は吹き飛ばされてしまった。
ただ、イコナのアワアワしている姿を見てなぜかホッとしてしまう。
「ご……ごめんなさい! ……ん? レストさんなんで笑ってるんですか?」
「なんでもないよ。それよりヴォルの事なんだけど」
「あっハイ!本当にヴォルちゃんを連れて行けるんですか?」
「ああ。ただしばらく時間はかかると思うけど」
俺はゆっくり立ち上がりイコナに事情を説明しながらテラーノ達の元へ向かった。
♢♢♢
「じゃあヴォルちゃんは今よりもっと強くなるんですね!」
「そういうことになるな。テラーノに鍛えられるんだ、もしかしたら竜族並みに強くなるんじゃないか?」
「……冗談で言ってるのかもですけど、ホントにそうなるかもしれませんよ?」
えっ……ホントになるかもしれないの? テラーノってそんなに鍛えるの上手なの?
「その顔……図星ですね。おじいちゃんはああ見えて訓練となるとキッツイんですよ。思い出しただけでも身震いしちゃいます……」
ん〜イコナに対してそんなにキツくするとは思えないんだけどなぁ。でもさっきの叱り様からして大事な時にはキッチリしてるのか?
「イコナ……さっきはキツイ事を言ってすまんかったのう」
そんな事を考えていたらいつの間にかテラーノ達の所に戻っていた。あの様子からしてさっき叱って嫌われたんじゃないかとか思ってたのかな。
「いえ、私が考え無しでした。ちゃんと考えてみたんです。そしたらおじいちゃんとレストさんの言う通りだなって思いました」
「イコナぁ……わかってくれたんじゃな。ワシはただお前に怖い目にあって欲しくない。ただその一心なんじゃよ……」
テラーノ……気持ちはわからないでも無いけど、半泣きになるのは行き過ぎでは?
「それで、ヴォルちゃんについてはレストさんから話を聞きました。おじいちゃんにお任せしても……良いですか?」
「ああもちろんじゃとも。ただ時間は必要じゃぞ。今が火の月の終わり頃じゃから……そうさな風の月くらいには仕上がるんじゃないかのう」
火の月と風の月…魔族の暦だ。年の始めが光の月でそこから火、水、風、土、闇、そしてまた光の月って感じで流れるんだったな。で俺達の暦に合わせると一つあたり二ヶ月くらいとの事だから……大体四ヶ月ってところか。
「ちょっと長いですね……寂しくなりますけど、でもわかりました。私のワガママでヴォルちゃんやレストさんに迷惑はかけたくないですから」
「わう?」
「心配してくれてありがとうヴォルちゃん。でも私は大丈夫です! レストさんもいますし。それにヴォルちゃんも強くなりたいんでしょう?強くなったヴォルちゃんに会うのを楽しみにしてます!」
「わふ!」
そのまま二人はこれから会えない時間を埋めるかのように寄り添い、ただ静かに身を任せあっていた。
♢♢♢
「本当に良かったのか? イコナが良いならヴォルが鍛え終わるまで、待ってても良かったんだぞ?」
「そのまま待ってたらヴォルちゃんが責任感じちゃうかもしれないので……もちろん、寂しいですけど。それにヴォルちゃんも頑張ってくれてるんだから、私も頑張らないとって思ったんです」
イコナはそう言いながら、今はもう見えなくなった洞窟の方を向いて寂しそうな表情を浮かべていた。
「……そっか。それなら俺も頑張らないとな。そうと決まれば遅れを取り戻すぞ! 今、昼くらいだから暗くなる前にヴォルと出会った林の前くらいまでは進んでおくとしよう」
「わかりました。さあ全力で行きますよー!」
元気に走り出したイコナは、どこか寂しさを紛らわそうとしてるようにも見えた。
子供っぽいと思ってたけど、イコナもイコナなりに成長してたりするのかな? 俺もただのお荷物にならないよう頑張らないと。
「レストさーん! 早く来ないと置いて行っちゃいますよー!」
「待ってくれよ。今行くから!」
少し先で手を振るイコナは笑顔を浮かべていた。あの様子だとすぐにでも土の国に着いちゃいそうだ。




