第三話:お互いのために
「そんなぁ! なんで連れて行ったらダメなんですか!?」
「ヴォルは大きいし、魔獣としての強さも高いほうだろう。そんなヴォルを何気なく連れて歩いていたら間違いなく目立つ。そうなったら俺達にも注意が向く。その後変な輩に眼をつけられでもしたら、たまったもんじゃないからな」
野営した翌日、俺達は朝起きてすぐにテラーノの元へと帰ってきた。
帰りはヴォルに乗せてもらったんだけど、これが速いのなんの。テラーノの飛行に比べたらそりゃ遅いかもしれないけど俺達が朝から昼まで歩きっぱなしでようやくたどり着いたテラーノの洞窟から林の間をその半分もかからない程で走り抜けるんだもんな。
イコナは前に座り『速い速〜い!』と楽しんでたけど俺からしたら獣道を走るわ、ガタガタ揺れるわで楽しむどころか掴まってるので精一杯だったのはイコナには内緒だ。
さてそんなわけでヴォルが強いのは間違いない。イコナにあれだけ懐いてるから信頼もできる。旅の仲間としては最高だろう。俺は嫌われてるようだけど。
もちろんテラーノは何事かと驚いていた。でもイコナの声を聞くなり、人の姿になってすぐ抱きついてきた辺り親バカだなぁって、なんだか安心してしまった俺もいる。
そのテラーノに事情を話して、しばらくの間ヴォルをここに置いてもらえないか? と頼んだのがついさっき。テラーノとヴォルは少し離れたところで見つめあっていた。
いや、どっちかというと見定めあっているってほうが正しいのかもしれない。
そしてイコナには伝えてなかったから猛反対を食らっている、と。まあ反対されるのは予想通りなんだけど。
「そんな……ヴォルちゃん強くて、優しくて、可愛いのに……もし変な人に絡まれたら、私が撃退します。だから!」
イコナは半ベソになり始めていた。
そんな悲しそうな顔しないでくれよ……俺だって連れて行きたいさ。でももし悪目立ちして、それが原因でイコナの正体がバレでもしたら、そのままイコナが辛い思いをする事になったら……。
それだけは絶対に避けたい。ただでさえイコナは色々と目立つ。少しでもイコナに……俺達に注意が向かないようにしないといけないんだ。
「イコナよ」
「おじいちゃん……」
テラーノはヴォルへと向いたまま静かに口を開いた。
イコナは助けを求めるようにテラーノのほうを向く。
「今回ばかりはレストの言う通りじゃ。この魔獣……ヴォルじゃったか。こやつは確かに強い、じゃが足りぬ。魔族の中でも中程度の実力を持つ種族一人相手なら勝てるじゃろう。じゃが複数人相手なら敵わんじゃろうて」
そのままテラーノは現実を突きつけると言わんばかりの表情でイコナに向き直り、続けた。
「そのうえ、魔獣を契約石も無しに従えている……それだけで充分目立つ。ましてイコナ、お主は光竜……光竜という存在がどんなに珍しいかは教えておるはずじゃ。それも、うら若き少女とあればな。そんな珍しい存在が他に人族を連れているだけとあれば、誘拐し売り捌こうと考える畜生どもが現れてもなんらおかしくはない。そんなもの考えたくもないがな」
イコナは側から見るだけなら光竜に見える。本当は竜人族だけど、その事は本人にも秘密。これだけはイコナにも他の誰にも知られるわけにはいかない。だからあえてイコナは光竜だと言ってるんだろう。昔からそう言い聞かせてきたように。
そして、もし赤の他人に光竜だと見られたらイコナが珍しい存在として見られるのとほぼ同じ。変な奴らに目をつけられるってのも本当なんだろう。正直信じられないけど、テラーノがイコナを心配してるのは間違いないし。
ただ契約石ってのが何かわからないけど、多分魔獣を従えたりするのに本来必要な物なんだろうな。
「でも、私だって戦えます。いざとなったら……」
「甘い!!」
「っ!?」
テラーノの一喝……今まで聞いたこともない声音と迫力にイコナと俺は縮こまってしまった。
テラーノは険しい表情のまま、ただどこか心配するような声で話し始めた。
「確かにイコナは複数人相手でも竜の姿になれば余裕を持って戦えるじゃろう。じゃがヴォルはどうじゃ?もしこの子が捕らわれ盾とされたら?」
「……それは……」
イコナは肩を落とし黙り込んでしまった。その手は固く握られ少し震えている。
「……ワシがレストだけを共に行かせたのは、もしもレストが人質になったとしてもその指輪のおかげでレストごと不埒者どもを吹き飛ばしても問題ないからじゃ」
さらっと酷いこと言ったな。まあ悔しいけどそうするのが一番手っ取り早いのも事実だし、今問題なのはそこじゃないから流すとしよう。
「イコナよ、実感があまり湧かないのも無理はないやもしれんが……お前は自分がどういう存在なのかを考えねばならんのじゃ。わかっておくれ」
「……私は……」
イコナは言葉に詰まり俯いていた。
「……じゃがどうしてもと言うのならーー」
「少し一人にさせてください」
「あっおい、イコナ!」
イコナは俺達の声に耳を傾ける事なく奥へと走り去ってしまった。
「くぅ〜ん……」
ヴォル……短い時間しか過ごしていないのにお前は本当にイコナの事を思ってくれてるんだな。
イコナの走り去った方を向いたままそこを動こうとしないのはイコナの去り際に放った言葉を尊重してのことなんだろう。
「……テラーノ、やっぱりヴォルを連れて行くことはできないのか? さっきは俺もああ言ったけど、何か目立たなくする方法とかあったりしないのか?」
「残念ながらそんな便利な方法、ワシは持ち合わせておらん」
「そっか……そうだよな。じゃあやっぱりヴォルは置いて行った方が良いのか……」
イコナには気の毒だけどやっぱり諦めてもらうしかないのか。
「全く、二人揃って最後まで話を聞かんのう。ほれ、そんなしょぼくれた顔せずしゃんとせい。」
「……でも、ヴォルは置いていかないとイコナの正体がバレる原因になったりするんだろ? だったら……」
「今のままならのう。じゃが逆に利用することもできる」
「それって、どういう?」
テラーノはニカッと笑うといつもの優しげな口調で話し始めた。
「簡単な話じゃ。まずはヴォルを鍛え、そこいらの魔族じゃ手出しをできなくする。さすれば護衛も兼ねることができるからのう。次に契約石……簡単に言うと魔族と魔物を繋ぎ主従の関係にする魔法の媒体となる石なんじゃが、それを用いてイコナとヴォルが主従の関係になれば良い。さすれば強き魔獣を従える者、すなわち相応の実力者と見られイコナを竜族だと思わせることが比較的容易になるはずじゃ」
「なるほど……でもその契約石ってのはどこにあるんだ?」
「土の国は様々な魔法石の名産地でもある。我が友ドゥーロンに頼めば一つや二つくらい分けてくれるはずじゃ。そしてお主らが土の国に行っておる間、ワシがみっちりとヴォルを鍛えてみせよう」
「それじゃあ……」
「うむ。少しの辛抱は必要じゃがヴォルも旅に同行できるぞ」
「なんでソレを早く言ってくれないんだよ!」
「じゃから言おうとしておったろうに……まあよい。ワシはヴォルと話をつけておこう。あやつは言葉は喋れずともワシらの言ってることは理解できておるようじゃしな。じゃから……イコナは頼めるか?」
そう言うテラーノはどこか罪悪感に苛まれてるようにも見えた。
「……わかった。じゃあ行ってくるよ」
「うむ、頼んだぞ」
俺は急いでイコナの部屋へと向かった。今頃、部屋の隅で泣きべそかいてるんじゃないのかな。でもこの話を聞けばまたいつもの笑顔を見せてくれるはずだ。
とある生徒思いの先生「作者さん? 土の国編と言っておきながら進むどころか戻っているのはどういうことなのでしょうか?」
作者「土の国編と言ったな? だがしかし……作者も読者の皆さんもイコナに振り回されることになるのだ!」
先生「私は正直に謝ることが大事だと思うのです」
作者「すいません……本編も後書きもつい調子にのりました」




