エピローグ:旅立ちの日 後編
「ええっ!? わ、私とレストさんの二人だけで旅にですか!?」
「うむ。イコナも外の世界を見てみたいと前から言っておったじゃろう?じゃから良い機会じゃと思ってのう」
「さっきテラーノと話したけど、俺はイコナさえ良いなら旅に出るのも悪くないかなって思うぞ」
「レストさんまで……そんな急に言われても、私どうしたら」
俺とテラーノで話し合った直後、俺達はすぐイコナにも旅について話すことにした。こういうのは早いに限る。
で、まあ普通は困惑するよな。むしろ今みたいなアワアワしている姿を見るのが楽しみだったまである。
イコナには悪いけども。
「旅の目的は五つの国それぞれの竜王にあって特別な魔石にお参りさせてもらうことじゃ。なんでもお参りすると色んなご利益があるらしいからのう。もしかしたら魔法も使えるようになるかもしれんぞ?」
「それ、ホントですかおじいちゃん!?」
目が輝いていらっしゃる。やっぱりイコナにとって魔法は憧れというか、そんな感じの大きなモノなんだな。
旅の目的を少し濁してたりするのは、もちろんイコナに自分の正体を悟られることなく旅に誘導するのと、責任を感じないでもらうためだ。
「でも、そう簡単に竜王様に会ってお参りさせてもらうなんてできるんですか?」
「安心せい。土の国モンテスオロの地竜王ドゥーロンとは長い付き合いじゃからのう。この手紙を見せたら大丈夫なはずじゃ。ただしお主らは中身を見てはダメじゃぞ?」
テラーノの手には質素ながらなんだか格式を感じる封筒があった。その封のところには特別そうな印が押されている。
「おじいちゃんと地竜王様ってお友達だったんですか? 凄いです、どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか!」
イコナが尻尾をパタパタさせながら地竜王について色々聞いている。興奮するのはわかるけど、話の本筋忘れてないか?
♢♢♢
「そろそろ本題に戻っても良いかのう?イコナ」
「ハイ!地竜王様に会うのが楽しみです」
本題に戻る前に結果が出てるんですけど。イコナ行く気満々になってるんですけど。
地竜王ドゥーロン、テラーノいわく昔からの知り合いで良く喧嘩もしてたとか。今は国民思いの賢王という落ち着いた雰囲気になって支持も厚いらしい。
「イコナ、本来の旅の目的を忘れるなよ?」
「ふぇ? や、やだなぁ忘れるわけないじゃないですか。ちゃんと魔法が使えるようになりますようにってお参りしますよ」
最初そっぽを向いたあたり絶対忘れてたな。テラーノ以外の竜族に会えるってのがよっぽど楽しみらしい。
「その様子じゃと旅立ちは決まりで良さそうじゃのう」
「ハイ。おじいちゃんとしばらくお別れになるのは寂しいですけど、絶対魔法が使えるようになってみせます!」
「イコナぁ……」
あ、これダメなやつだ。テラーノの目に涙が見える。
「ワシも、ワシも寂しいぞ! イコナぁ! じゃが可愛い娘が行くと言うならワシは止めん! 必ず無事で帰ってくるんじゃぞ! ワシはただそれだけで嬉しいからのう!」
「お、おじいちゃん痛いです。もう少し力を緩めてください……」
テラーノは泣きながらイコナに抱きついた。まるで二度と離さないと言わんばかりに。
……前にもこんな光景見たような気がするぞ?
今思えばあの親バカっぷりなのに良く旅に出そうなんて思ったな。
♢♢♢
十分ほどだろうか、それくらい経ってようやくテラーノがイコナを離した。イコナには少し疲れの色が見える。無理もないよな。
「さてそれでは二人の旅立ちを記念してワシからプレゼントを渡そうかのう」
テラーノはそのまま自分の部屋に行ってしまった。
「プレゼント、楽しみですねレストさん」
「ああ。テラーノの事だから凄いものが出てきそうだ」
「これがプレゼントじゃ」
部屋から戻って来たテラーノの手には一見なんの変哲もない革袋があった。
「これはとある人物からもらった、魔道具? じゃったか。どんな大きさの物でも何個も入る袋らしい。旅をするには役立つはずじゃ。さっきの手紙と、テントや他にも必要そうな物を入れておいたからのう」
「普通の革袋に見えるのにテントや他にも入ってるんですか? 凄いです。魔道具って言ったらレストさんが持ってた照明のしか見たことなかったのに、おじいちゃんが持ってたなんて」
そんな凄い魔道具を一体どこで? そもそもそんな効果が高い魔道具があるなんて聞いたことないぞ。誰が作ったのか気になるけど……魔族は魔道具をほとんど作らないって話だし。
「どうしたんですか? レストさんボーッとして」
「あ、いやその魔道具凄いなーって思ってさ」
「ですよね。きっとこれを作った人は大魔法使いさんですよ!」
「そうだな。間違いないと思う」
イコナのはしゃぎっぷりが凄い。革袋を掲げてみたり覗き込んでみたり。まあイコナからしたら魔道具自体が珍しい物だもんな〜。
にしても、大魔法使い……まさかな。
「それと、レストにはコレを」
「これは?」
テラーノが差し出した手にはほんのりと光る宝石がはめ込まれた指輪があった。
「コレはワシが仕えていた方から頂いた指輪じゃ。身に付けた者が何かしらの攻撃を受けた際、自動的に防御力を上昇させる魔法を付与する。もちろん本人の魔力をそれに見合っただけ消費するが、どんな攻撃も防いでくれる優れ物じゃ。ついでにコレをつけていれば魔族言語も読めるようになる」
「そんな大事そうな物貰えねぇって!」
「いや、ワシはお主にこそ持っていて欲しい。お主の魔力量ならこの指輪の効果が一日に何度発動しようが問題なかろうて。それに我が主が願っていたのじゃ。本当に信頼できる人に渡して欲しい、とな」
それ違う意味じゃないか? まあ、テラーノにそういう相手がいるようには見えないけど。
「……そこまで言うならわかったよ。この旅の間だけ借りておく」
「うむ。受け取ってもらえて嬉しいぞ」
この後イコナが自分専用のプレゼントは無いのかと駄々をこねたのは言うまでもないだろう。
♢♢♢
翌日の朝、俺達は早速旅立つことになった。目指すは土の国モンテスオロ。ここから更に魔族領域の奥へ踏み込んでいくことになる。
「では二人とも達者でな。くれぐれも無理は禁物じゃ。それと良くわからん物は食べてはダメじゃぞ?毒のある植物なんかゴロゴロあるからのう。それからーー」
「おじいちゃん心配しすぎですよ。私がついているんですから人間のレストさんも大丈夫です!」
いやむしろお前だから心配してると思うんだが?
「……レストよ。くれぐれもイコナをよろしく頼むぞ」
「ああ大丈夫だ。任せてくれ」
テラーノは幸先が不安だと言わんばかりだな。正直俺も不安だけど。
「では早速出発しましょう!目指すは土の国。さあ、私について来てください!」
「イコナ、昨日教えてもらった方向は真逆なんだが?」
「あ、あれ?そうでしたっけ?アハハ……ごめんなさい」
旅の都合上イコナは竜の姿にはなれないし、ホントに大丈夫かな……もう悩んだところでどうしようもないか。
「では気をとりなおして今度こそ出発です。さあ行きましょうレストさん!」
「お、おい引っ張るなって!」
俺の手を引く金髪の少女は、朝日にも負けないほど輝く笑顔で広い世界へと走り始めた。
今回で序章が終わりです。次回から第一章に入ります。




