第十六話:旅立ちの日 前編
「竜人族って確か、お伽話で聞いたことがあるような……」
「お主も聞いたことがあったか。なら話は早い。竜人族と呼ばれる存在はどのような扱いを受けていたか、それも知っておるな?」
「確か……俺が聞いた話だと、聖魔大戦より前に人と竜の間に子が産まれた。その子は人の姿に竜の翼と尻尾、そして角を持っていた。人族とも魔族とも言えないその子は忌子と呼ばれ、災厄を招くとして誰からも拒絶されその両親と共に誰も知らない地へ追いやられた。そんな感じだったと思うんだけど」
当時は人族と魔族は争いの真っ只中、そんな時にハーフなんていう今まで存在しなかった者が産まれたらこんな不当な扱いを受けてしまうのはある意味必然なのかもしれない。
納得できるかと言われたらできるわけないけど。
「そうじゃ。竜人族は災厄を招く存在と呼ばれた。どちらの種族とも呼べないから、たったそれだけの理由でのう」
「でも竜人族って呼ばれてるけどそんなに多くいたのか?」
「少なくともワシが知っておるのはお伽話の一人とイコナだけじゃ。ただ竜人と言ったら今のワシのように人の姿になっている竜族を指す場合もあるからのう。その差別化のためじゃろうて」
「そっか……イコナは自分の正体を知ってるのか?」
正直答えはわかりきってるけど。確認はしておいたほうが良いだろう。
「無論知らせておらん。あの子の正体を知っておるのはワシとお主の二人だけじゃ。もしも正体がバレてしまったら、お主の言うお伽話のようになりかねんからのう。それだけは避けねばならん」
「……なら、どうして俺に教えたんだ?イコナにとって邪魔な存在になるかもしれないんだぞ?」
「既に述べたはずじゃ。お主を見定めさせてもらったと。それに、お主は人間と魔族という関係など気にせずにイコナと友達になってくれた。それだけでお主を信頼するには充分じゃよ」
「……テラーノが大物なのかただの親バカなのか時々わからなくなるんだが」
「一言余計じゃ」
そのまま俺とテラーノはどちらともなく笑いあった。
「それで?イコナの秘密を話してくれたってことは何かあるんだろう?」
「察しが早くて助かるわい」
俺は訝しげな顔をしながら、テラーノはニカッと笑ったまま話し合う。
少なくとも悪い話じゃなさそうだ。
「お主にはイコナと共に旅に出て欲しいんじゃ」
「……ん?」
俺の聞き間違いかな? いきなり旅に出て欲しいなんて言うわけないよなぁ。
「なんじゃ聞こえんかったか? 二人で旅に出て欲しいと言うておるんじゃ」
いやいや、急すぎるだろ! 俺はまだここに来て二週間ほどしか経ってないんだぞ!? まだ魔族領域の基本的な常識くらいしか知らないってのに。
……あ〜いや、そういうことか。
「俺をここに連れて来て、色々と魔族に関することを教えてくれたのは初めからそのつもりだったってわけか」
「さて、なんのことかのう?」
とぼけた顔しやがって……その調子っぱずれな口笛も絶対わざとだろ。
「旅に出させるなら、俺がついて行くよりテラーノがついて行ったほうが何かと安全なんじゃないのか?」
「それで良いならそうしておるわ。ワシはこう見えても魔族では名が知れておるほうじゃからのう。悪目立ちをしてしまうんじゃ。そうなるとイコナの正体がバレかねんからのう」
テラーノが有名……ねぇ。実力が計り知れないのは確かだけど、まさか親バカで有名とかじゃないよな?
「なんじゃその顔は。さては疑っておるな? まあよい。お主にも教えたが魔族は他者の魔力を見ることができる者も多い。そしてイコナは竜人族じゃが、その魔力の性質はほとんど人族のソレ、つまりお主と同じなんじゃよ」
「それじゃイコナが魔法を使えないのは人族と同じように魔法への適正が関係してるからなのか」
「そういうことじゃ。それなのに竜族と一緒にいたり、竜族の姿をしていたら間違いなく怪しまれるじゃろう?」
そりゃそうだ。もし竜族と人間が一緒にいるなんてなったら、竜人族の話が思い出されて忌子が産まれてしまうとか、変なやっかみをつけられちまうかもしれないし。
「そこで、お主の出番と言うわけじゃ。イコナにとっては人間の姿も竜の姿も本来の姿となる。じゃが本来の竜族は変身魔法で人の姿になることはできるが、所詮は仮初の姿に過ぎん」
「待ってくれ。じゃあ今までイコナが変身魔法を使ってたのは?」
「アレはイコナにそう思い込ませていたのじゃ。自分が本来の竜族とは違うと気づいてしまう要因を少しでも減らす為にな。イコナは魔法を使わずとも人と竜の姿、どちらにもなれる。あの子が本来使える魔法というのは飛翔と服を作り出すものだけなんじゃよ。ちなみに服を作り出す魔法は変身魔法の下位互換のようなものじゃから使えるんじゃと思われる」
「そうだったのか……それで、どうして旅に出なきゃいけないんだ?」
「結論から言えばイコナの成長のため、そしてこれからどう生きるかを考えてもらうためじゃ」
「それなら別に旅に出なくてもいいんじゃないのか?」
イコナがどう生きるかなんてのは本人次第なんだし、旅なんてことしなくてもいくらでも考えようはあるはずだ。
「今この魔族領域にある五つの国、それぞれが竜王と呼ばれる存在に統治されているというのは覚えておるな?」
「ああ覚えてるよ」
「その王達は、己の魔力をとある魔石に蓄え続けておるんじゃ。来るべき時のためにな。ワシの見立てでは、その魔力を五ヶ所から少しずつでも分けて貰えばイコナも竜としての魔力を扱えるようになるはず」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 竜王達にそんなお願いしたらどうなるかわかったもんじゃないだろ!?」
それこそ不敬だとかなんとかで罰せられるかもしれないってのに。大事に蓄えてきた魔力を寄越せなんて言ったら……考えるだけでも恐ろしい。
「安心せい。竜王のなかにはワシの友がおる。まずはそこで実力を示せばなんとかなるじゃろ」
なんとかって……んな適当な。というか王と友達ってこのジイさんホントに何者なんだ?
「頼む、レストよ。イコナはいずれ成長し、己の正体を知る時が来るやもしれん。その時にただ身を隠し周りに正体がバレずに生きることしか選択できないなど、そんな辛い生き方をさせたくはないんじゃ。竜としての力を持っておれば竜族として生きていくこともできるじゃろう。だから……どうかお願いじゃ」
テラーノは地面に頭をつけ、俺に頼み込んでいた。本来なら誇り高き竜族が他人に頭を下げることはありえないだろう。
それを地に頭つけてまでとなると、それだけテラーノは本気ってことなんだろうな。
だったら、俺は……。




