第十五話:歴史と竜娘の秘密
説明回です。今までより少し長めになってます。
「今日はこれくらいにしておこうかのう」
「疲れました〜何回やってもお勉強は苦手です〜」
「俺に魔法を教えて欲しいって言ってた頃が懐かしいな」
「ソレはソレ、コレはコレです〜」
ホント、石机に突っ伏したまま愚痴をこぼす姿からはあの時のイコナは想像できないな……思えば俺がここに来てもう二週間か。
この二週間は濃いものだったな。野性味溢れる食事に、テラーノが使う数々の魔法。そしてイコナのドジっぷり。
ある日、俺に良いところを見せようと張り切って狩りに出かけたらしいんだが、その日帰ってきたイコナは手ぶらだった。なんでも張り切り過ぎて獲物をどこか遠くに吹っ飛ばしてしまったとのこと。実にイコナらしい。
そういえば今もそうだけどイコナがずっと人に角と尻尾が生えた姿だった事は気になるな。後で聞いてみるか。
「昔から魔法に関する事だけは熱心じゃったからのう。ワシとしては色々な事を覚えて素敵な淑女に育って欲しいのじゃが」
淑女には世界がひっくり返ってもなれないと思うぞ。世界そのものが丸々変わればもしかしたら……いや、それでも無いだろう。
動物を目で見えなくなる距離まで殴り飛ばす淑女なんていてたまるか。
「う〜、私は淑女なんかより強くてかっこいい竜になりたいんですよ〜」
「強くなるためにはこういう地道な勉強も大事じゃぞ。特に、今日教えた聖魔大戦は魔族も人族も誰もが知る常識じゃ。ちゃんと復習しておくんじゃぞ」
そう言いながらテラーノが指す黒板代わりの石板には人族と魔族の長い戦いの歴史に終止符を打ったと伝わっている、およそ百年前の大戦を模した絵が描かれている。
いつかもわからないほどの大昔から争っていた人族と魔族は消耗しては数年単位で休戦し、また戦乱を起こしを繰り返していた。
戦乱が始まる理由なんてのはただの小競り合いか、それとも大きな野望のような何かがあったのか、その都度変わっていたとされている。とにかく何百、もしかしたら何千年と人族と魔族は争っていた。
そんな時に数十年続く長い戦乱があった。今まではただ力のある者が争っていたに過ぎなかったがそのときは違った。
魔族は全てを包み込むかのような強大な存在『聖竜』と呼ばれる存在によって統一され、人族は魔法を極めたとすら言われる『賢者』に導かれ、総力戦になっていった。どちらも絶対的な強者に依存したまま。
それ故に互いに今までに経験したことのない甚大な被害を出した。
魔族は国という国の有力者が消えていき、維持ができなくなるほどに。人族は人口の半分が命を落としたと言われている。
このままどちらかが潰れるまで続くと思われた戦乱は誰も想像しなかった結末を迎える事になる。
それは聖竜と賢者が和平条約を結ぶというものだった。
突然の出来事に誰もが不満を口にした。
同胞の死を無駄にするのかと。家族の、友の命を奪った者を許せと言うのかと。
そんな中で聖竜と賢者は最前線に最も近い城で少数の護衛だけを連れ会談したという。
その会談を多くの者達が城の外で見守っていた。
だがその会談が終わった時には聖竜も賢者も姿を消していた。それ以来、聖竜と賢者は行方不明になっている。
代わりに聖竜の護衛だったといわれる赤い竜だけが現れ、消えた二人の代弁者を担った。
いわく『戦乱の時代を終わらせる時が来た。我ら二人は真の平和が訪れるまで姿を隠す事に決めた。我々は互いに大きく傷ついた。そしてこれまで戦乱終結に尽力してきた者たちの意思を尊重するためにもこれ以上の争いは不要だ』と。
もちろんすぐにハイ、そうですか。なんて納得できるものではない。しかし互いに小競り合いをしながらも、魔族は五体の竜をそれぞれ王とした新しい国を中心に立て直し、人族もまた四英雄と謳われた者達を中心に少しずつ復興を。そして両種族は和解をしていった。
人族と魔族で言語が統一され始めているのも和解の証と言えるだろう。
この一連の流れを『聖なる竜と呼ばれ崇められた者』と『魔法を極めたと謳われし者』に導かれた大戦という事で『聖魔大戦』と呼ぶ。
そして今、人の国に魔族が住んでいたりその逆もチラホラと見え始めている。
それでもお互いの事を良く思ってない輩がまだ多くいるのも事実だろうけど。テラーノもそうみたいだし。それでも人の言語を覚えてくれている辺り、心底嫌ってる訳では無いのかな?
……とりあえずこれで今日の授業はまとめになるかな。学園でも聖魔大戦は教えてもらったけど、テラーノ自身が聖魔大戦の経験者との事だからより深いところを聞けた気がする。
テラーノがイコナに色々と諭そうとして反論されるのを尻目にそんなことを考えていると、テラーノが俺の方を向いた。
「時にレストよ。実は二人だけで話したい事があるんじゃが、この後は大丈夫か?」
「俺は大丈夫だけど、一体どうしたんだ?」
「後でお主の部屋に行く。詳細はその時じゃ」
「二人だけでなんてズルいです。私も混ぜてくださいよ」
拗ねている、それはもう拗ねているな。尻尾でペシペシと地面を叩くのはイコナが拗ねてる時の癖だ。
俺が持ってきた照明の魔道具を初めて見た時、触らせて欲しいと言われて俺が頑なに断った時はバシバシいってたけど。
許せイコナよ。魔道具は貴重だから、もしも壊されたら困るんだ。
「すまんのうイコナ。今回ばかりは我慢しておくれ。我慢してくれたら今日の晩御飯は大好物のタイタンホーンブルの丸焼きにしてあげるからのう」
「じゃあ我慢します。約束ですよ、おじいちゃん!」
ヨダレが垂れてるぞー。どんだけ食い意地はってるんだ。
というかタイタンホーンブルって確か、国が抱えてる騎士団の精鋭が十人がかりで辛うじて倒せるレベルの牛型魔獣って聞いた覚えが……そんな奴が普通にいるのはまあ魔族領域だから、動物が魔力を蓄えた結果なんだとしても、そいつをちょっとした晩御飯レベルとは……つくづく思ってたけど、俺ってやっぱ場違いだよな。
「では、後でのうレストよ」
「あ、ああわかったよ」
二人だけでの話、何かあるのは間違いなさそうだけど……とりあえず部屋で待っとくか。
「お肉、お肉〜♪」
スキップまでして呑気なもんで。今はイコナが羨ましい。
♢♢♢
「待たせたのう」
「ああ大丈夫」
俺がこれから何が話されるのかと考えていたら、人の姿でテラーノが部屋に入ってきた。その表情から重要な話だという事がよくわかる。
「早速じゃが、話というのはイコナに関する事じゃ」
「イコナの? 一体なんの話なんだ?」
「……この二週間、共に暮らし改めてお主を見定めさせてもらった。勝手なことをしていることは重々承知の上じゃ。そこは先に謝罪させてもらう」
口ぶりからして、俺は認められたってことか。もし認められてなかったら……いや考えるのはやめよう。
どうせ今日の晩御飯あたりにでもなってたんだろうし。
「そこは良いよ。それより早く本題に入ろう。俺も気が気じゃないし」
「うむ、そう言ってもらえると助かる。では本題じゃが……まずイコナは拾われた子じゃと言うのは聞いておるな?」
「ああ、初めて会った時に本人から聞かされたよ」
だからこそ親近感が湧いたとも思ってる。不思議な縁というかなんというか。
「うむ。ではなぜイコナが魔族……もとい竜族なら本来使えるはずの魔法を使えないと思う?」
「それは……特異体質とか?」
「ふむ、半分正解のようなものじゃな」
どういうことだ?テラーノは目を閉じたまま俯いてるし。
ほんの少しの沈黙の後テラーノは俯いたまま口を開いた。
「イコナは……あの子は、竜と人の間に生まれた娘。竜人族と呼ばれる稀有な存在なんじゃ」
「……え?」
俺はただ唖然とすることしかできなかった。
タイトルがドラゴン娘なのはイコナがただの竜じゃないからだったりします。
次回、いよいよ旅立ちます!(正直話数かかり過ぎてるような…)
ちなみに作者は基本的にハッピーエンドが好きですので今後の展開もそんな感じになります




