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第十二話:別れ

「それではレスト君、くれぐれも体には気をつけるのですよ」


 イコナからなんとか解放された俺はテアト先生と一緒に寮へと帰った。イコナ達には森の湖で待ってもらっている。


 一度帰ったのはこれからの事を考えて俺の荷造りをするためだ。イコナの機嫌がまだ悪かったから機嫌が良くなるのを期待してってのもあるけど。


 そして今は寮の外でテアト先生に見送りをしてもらってるって訳だ。

 もう深夜を回っている頃だから周囲はただただ静かで月明かりが照らしてくれるだけ。今は下手に目立ちたくないからありがたい。


 見送りをしてくれるテアト先生はいつもの優しい笑顔を浮かべていた。でも俺には寂しいという思いを押し殺しているようにも見える。


「……はい。先生もお元気で。いつか必ずまた会いにきます」

「その時を楽しみにしていますね……本当に学園長には何も言わずに出て行くのですか?」


「ジイさんには……先生からよろしく言っておいてもらえませんか?」


 先生は困った表情を浮かべ、わかっていたと言わんばかりに肩を落とした。


「……わかりました。心配するかもしれませんが、私が上手く説得しておきます」

「俺としては心配してくれたら、まだ良いほうだと思いますけどね」


 いつもなら少しでもジイさんのフォローをする先生だけど、今回ばかりはそれもなくただ黙っていた。


 ほんの少しの間沈黙が続く。


 ……気まずいな。こういう時なんて言えばいいんだろう。


「私は……」


 おもむろに先生が口を開いた。それはまるで何か伝えなければいけないけど、どう伝えるべきかわからないと言外に言ってるようだった。


「私は、あなたの助けになれていたでしょうか?」


 その顔に笑顔は無く、ただ不安の色だけが見えた。


 ……先生のこんな顔、今まで見たことないな。


「俺がこの学園で我慢しながら頑張ってこれたのは先生のおかげです。それは絶対に間違いありません」

「そうですか。少しでもあなたの助けになれていたのなら、私にとって……本望です」


「少しなんて、そんなこと……」


 俺が続けようとすると先生は俺の口に人差し指を当て、ただニッコリと微笑みを向けてくれた。


「その気持ちだけで充分ですよ。さあ、お行きなさい。貴方を待っている方達がいるのですから」


 ゆっくりと指を離しながら、先生はそう口にした。


「……じゃあ、いってきます。今まで本当にありがとうございました」

「いってらっしゃい。貴方の行く先に幸せが満ちていますように……」


 振り返ることはせず、ただ森へ向かう。


 振り返ったらそのまま戻ってしまいそうだから。



 ♢♢♢




「そうですか、あの子は外の世界へ行きましたか」

「はい。レトロ学園長……お孫さんのことを託されていた身であるのに、このような事態を招いてしまったこと深くお詫び申し上げます」


 朝の日差しが差し込む部屋の中でテアトは深く頭を下げ、自分の上司でありレストの育ての親にあたる学園長レトロの言葉を待つ。


「良いのです。あの子は所詮その程度だったというだけの話。貴方は何も気にせず普段通りにしていればいい」

「……御心遣い感謝致します」

 ゆっくりと頭を上げテアトはレトロに向き直る。その目に映った白髪の老人は何でもないかのように無表情だった。


「一つ、お聞きしたいことがあるのですが」

「答えましょう」


「レトロ学園長は……レスト君のことをどう思っていたのですか?」


 それはテアトがずっと聞きたいことだった。しかし二人の関係を一人の教師に過ぎない自分が詮索することではないと今まで聞けずじまいでいた。


「何故、そのようなことを聞くのですか?」

「私があの子の先生だからです」


 テアトの表情に今までのような迷いは無かった。


 いつも辛い思いをその内に秘め、『大丈夫』と自分にぎこちない笑顔を向けていた一人の教え子が、親にあたる人物から愛されていたのか確かめたい。ただその一心だった。


「私にとってあの子は、数多いる才能を見定めるべき子達。その一人です。それ以上でもそれ以下でもありません」


「……そう、ですか」


 レトロは眉ひとつ動かすことなく淡々と述べた。テアトはそれ自体が答えだと確信した。自分の教え子の感じたことは間違っていなかったのだと。


「教えていただきありがとうございます。そろそろ授業が始まるので失礼させていただきます」

「わかりました」


 テアトは複雑な思いのまま学園長室を出ようと入り口へ向かう。その背に声がかけられた。


「テアト先生。レストは必ず私の元へ帰ってきます。だから安心なさい」


 レトロは微笑んでいた。だがテアトはその笑みを目にしてほんの少し違和感を覚えた。しかし何故、なにに対して違和感を覚えたのかテアトにはわからなかった。


「……失礼します」


 テアトはゆっくりと教室へと向かう。その足取りはいつもより重く感じた。

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