第九話:少年はまた竜族に困惑させられる
「……さすがに早すぎたか?」
いくら辺り一面暗くなっているとはいえ、昨日ここに来たのは真夜中くらい……だった気がするし、晩飯を食った直後じゃやっぱ早すぎたな。
『そもそもイコナがまたここに来るかもわからないってのに……』
今思えばそうだ。あの時、特訓が終わった後にまたこの森の奥にある湖でと約束した。でもそれは口約束に過ぎないわけだし……俺が初級魔法しか使えないってこともイコナにバレちゃったしな。
幻滅してここに来ることをやめてもおかしくないだろう。
「……休憩も兼ねて、昨日出会った時と同じ時間くらいまではのんびりするか」
俺はそのまま湖畔で横になって月を眺めることにした。現実逃避みたいなもんだ。
……綺麗な満月だな。それに優しい月の光……まるでーー
♢♢♢
「……ト……さん……スト、さん! ……レストさん!」
「……ん……誰だ?」
「誰って……昨日会ったばかりじゃないですか! それに友達だって言ってくれたのに、もう忘れたんですか!?」
ダメだ。視界がボヤけてる……あ〜いつのまにか寝ちまってたのか。なら、ちょっと目を擦れば……。
少しずつ焦点が合いはじめ、金髪の女の子の顔が俺の目に映った。
「イコナ……か?」
「そうです! イコナですよ! その声の感じと目が少しとろ〜んとしてるところからして……寝ぼけてただけだったんですね。本当に忘れられたのかと心配しましたよ……」
イコナはホッとため息をついていた。その顔には安堵の表情が見える。少しだけ頰が赤くなってるのは……なんでだろうな?
「さすがに忘れるわけないだろ? 忘れるには濃すぎる初対面だったし」
「……ソレ、どういう意味ですかぁ?」
イコナのふくれっ面は初めて見たけど、可愛らしいというよりかはちょっと笑ってしまいそうな顔だ。コレはからかい甲斐があるな。
「起きたか、レストよ」
イコナの背中の方から聞こえてきた声に思わず起き上がり、声のした方を向く。そこにいたのは翼も尻尾もない赤髪の老人だ。
……イコナだけじゃなかったとはな。
「イコナの、爺さん……」
「ああ、そういえばワシの名をまだ名乗っていなかったのう。我が名はテラーノ、かつては『獄炎の赤竜』と呼ばれ讃えられた、しがない火竜よ」
まあ年老いた今となっては関係のない事じゃがな、と続けながら老人……もといテラーノはカッカッカと笑っていた。
所々に見える古傷からして強そうとは思ってたけど、そんな大層な肩書きを持ってたとは……本当にこのジイさん何者なんだ?
「さて自己紹介も済んだわけじゃし、さっさと本題に入らせてもらおうかのう」
俺が訝しんでいると、テラーノはそう言いながら真剣な表情になった。
「本題? 一体なんなんだ?」
「回りくどいのは面倒じゃからのう。率直に言わせて貰うぞ」
俺とイコナは固唾を飲んでテラーノの言葉を待った。
いや待て、なんでイコナもゴクって鳴らしてるんだよ。お前はこれから何が話されるのか知ってるんじゃないのか?
「レストよ。お主さえ良ければワシらと共に来ぬか?」
「……は?」
俺は訳がわからなくなり呆然としてしまった。ただイコナが目をキラキラさせながら俺を見つめている事だけは確かだった。




