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毎回サブタイ考えれる人って凄いですよね。


 ~細田 瞳~



「ただいまー」


 目的の階に着いたとたん私の横を通り過ぎて足早に自分の新居に足を進める彼。

表札を見てからドアを開けるまでが早すぎて私の忠告も間に合わなかった。


「すみません。間違えましたー」


 中の住人と鉢合わせてしまったのか直ぐにドアを閉め、表札とドアノブを交互に見て首を傾げる彼はちょっと可愛かった。


「田中さんの部屋はもう一つ隣ですのでそちらではありません」


 もう一度ドアノブに手をかけそうな彼に部屋の鍵を渡した後、未だ呆けている彼女に状況を説明して私も後を追う。



 まだ時間にして一日も彼と一緒にいないのだが、なんとなく彼の性格がわかってきた。

勿論この「感情の色が視える」という不思議な力のお蔭だが。


 昨晩から変わらず全身から”拒絶の色”を出しているが、時折その色に他の色が見え隠れする時がある。

それは見逃してしまう程小さな色で、直ぐに”拒絶の色”に飲まれて消えていく。


 先程車中で社長から暗に「あなたが望むなら夜の相手も好き放題よ」といった話をされた時の彼の色は”不快の色”が顔を見せていた。バックミラー越しにそれを確認して私は少し安堵した。

歴史上何人か日本に現れたことがある異世界の男性。全員という訳ではないが高い確率で好ましい倫理観を持ち合わせていたという。


 しかし、そんな彼等もこちらの世界にながく居ることによりその倫理観も変化をしていき最後にはこちらの男性達と変わらなくなると聞く。

 彼がその道を辿るかは私にはわからないし、そもそも私の仕事は彼の護衛であり私生活まで口を出すつもりも権限もない。

 万が一彼が私を求めてきたとしても「シリウス」の特権としてそれを拒む事が出来る。これは契約の時に先方に必ず伝えていることで今回も例に漏れず承諾済み。

 だが、殆どの同僚はこの権限を使うことはないみたいだ。男性と少しでも接点を持ちたいという気持ちが強い女性達が難関な試験を突破してようやく得られたチャンス。それをふいにする私が異端児なのだろう。


 私は私のことを見てくれる男性とお付き合いしたいと思っている。

 でも、この力の所為で視えてくるのは”欲情の色”や”支配欲の色”等でそこに私自身は含まれることは一度もなかった。


 そう言えば今日彼から一度だけ”欲情の色”が視えた時があった。

住む場所を決める時に「メイド付き」の資料を見ていた時だ。確かに男性は自分の住居にメイドを雇うのが普通で、彼女達も自分が選ばれるための努力を怠らず日々研鑽を積んでいる。


 しかし、彼の口から出たのは「必要ない」の一言だったのに私を含めその場に居た全員が驚いた。

 メイド斡旋業の彼女もなんとか自分の仕事を行おうとするも「もし必要になればこちらから連絡します」と彼の言葉におとなしくなるしかなかった。


 それでも男性が炊事や洗濯、掃除を出来るとは思っていない彼女は直ぐに自分を頼ることになるだろうと考えていることだろう。かく言う私もその一人だったりする。


 そして自分好みのメイドを雇い、いつしかメイドの誘惑に勝てずに乱れた生活を送るに一万ドン賭けてもいい。



 ちょっと不謹慎なことを考えたことを胸中謝りつつ、扉をノックしてからドアを開けると私は信じられないもの視ることとなった。


「おかえりなさい」


 そう言ってこちらを振り返る彼の色はとても穏やかで優しくて今まで視えていた”拒絶の色”はどこにも無い。


「た、ただい……ま?」


 私の言葉に満足したのか彼は前に向き直り部屋の中に入っていく。

その背中に視えるのはさっきの色が嘘のように消えて”拒絶の色”に戻っていた。


 先程の色は私の見間違い?


 私はこの時彼に惹かれたのかもしれない。

決して恋愛感情などではないが、彼に興味を持ったのは認めよう。


 そんな私に彼はさらなる追い打ちをかける。




「細田さんの部屋はどこがいいですか?」





 あれ? 私もここに住むの?






「言ってなかったかしら?」


 いつの間にか入居手続きを済ませて気配もなく後ろに立つ社長からの追撃。

振り返るとそこには”悪戯の色”を隠す素振りもしない社長がいた。


「聞いて……ないです」


「そう、それじゃ今言うわね。あなたの仕事は彼の護衛。彼を”悪意”から守るのが仕事、あなたにピッタリでしょ?」


 そう言われると反論出来ない自分が悔しい。確かにそういったことを他の誰よりも的確に察知出来る私が適任だろう。

 でも男性と同棲なんて初めてでどうすればいいかわからない。今までの護衛任務でも経験したことがないのだ。私は基本長期任務を受けてこなかった。だから今回もそうだろうと勘違いしていたのだ。基本的に登下校や外出中の護衛だと思っていた。


 未だ混乱する私の肩に手を置いて


「あなたも今年で二二歳でしょ? そろそろお母さまも孫の顔が見たいのではなくて? でも強制はしないわ。もしあなたが断るなら池田あたりに任せるだけだから」


 池田というのは私の隊の隊員で、もの静かな性格となんでもそつなくこなす万能人間だ。

 そんな彼女からは考えられないが、他の隊員から聞いた話彼女の夜は「凄い」らしい。

一瞬彼女と彼の情事を思い描いてしまい体が熱くなる。


「この任務引き受けます」


 知らないうちにそう答えていた私に「そう、それじゃ宜しくね」と肩を叩いて部屋の中に入っていく社長。


 私をスカウトしにきた時もそうだが、彼女にはこれまで何度も振り回されてきた。

それでも不快に思うことは殆どなく何かしら私にとってプラスになってきたからこそ私は社長についてきたのだ。

今回もいつものことだと言い聞かせて自分を納得させる。



「仕方がないですね」



 口ではそんなことを言いつつ、口許が少し緩んでいるのを感じながら私達(・・)の新居へ足を踏み入れた。






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